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288話 貴族子女のアジェンダ

ハイビスカス偏の最終話。

割と最終回っぽい終わり方です。

「あら? 出てこられたのですね。三日ぶりですわね、サツキ様?」


 居間に使用している二階の大広間へ顔を出すと、ジト目のスミレさんから皮肉を貰った。

 ここにくる前に、


『おう兄ちゃん、三日ぶりだな!! まさかあのまま三日ぶりになるとは思わなかったけどな!!』


『三日もだなんて凄かったわ? いえいえワタクシ、プライバシーは守る女よ? でもフライバンシーはどうかしら?』


『三日間のお勤め、大変お疲れ様でした。これで皇室も安泰でございますな』


 待ってフライバンシーって何? いや皇室?


「クラン様はまだ休まれているのでしょうか。サツキ様もお体のお加減、麗しくは御座いませんの?」


 三日間。部屋に籠り切りでずっと搾られてたもの。一晩搾りでは済まなかった。喉ごしの美味さ。無茶苦茶された。


「シャワー浴びてきたから、血行がよくなっただけだ」

「睡眠は大事ですわよ?」

「冒険者が三日寝なかったぐらいで」

「クラン様のお体を労わって差し上げてくださいと申してますの!! 女の子はただでさえ受け身になるんだから負担だって」

「受け身? 負担?」


 あの日。本懐を遂げるべく、俺とクランは部屋に籠った。

 そして色々な事が起きた。

 お互い初めての事ばかりで、文字通り手探りだった。

 最初の、明時(あかつきどき)をむかえた頃だ。仮想や推論すら悉皆(しっかい)平らげんと現実が襲ってきた。

 クランが獣になった。


 あぁ、真如の月が彼女の募らせし想いの枷を外したもうか。


 そして色々な事が起きた。基本、俺の身に。

 気づけば三日か。

 思えば繋がってる時間の方が長い気がする。スイレンさんの薬がよくなかった。俺の側に塗るとは言ったが、それはつまりクランの内側にも塗られるわけで。


 そうか。

 俺、頑張ったんだな。


「どうしてサツキ様が泣いてるんですの?」

「俺、生きてる……。」

「ハナショウブ様のお仲間になられるには、まだ早いと存じますわよ?」

「女の子怖い、女の子怖い……。」


 白百合のような細身な少女。サザンカのようなゴリラパワーも無いはずが、何故ああも獰猛に俺を貪るのか。


「トラウマになってませんか? 恋焦がれた女性と苦難の末に結ばれたものとばかり思っていましたが?」


 うん。そうなんだ。そのはずなんだけど。


「なんだかワタクシ達だけ彼シャツで浮かれていたのが馬鹿らしくなってきましたわ?」


 そういや全員に配布したんだっけ。

 アレ? なんでネジバナやストックまで受け取ってたんだ? アイツら俺のシャツで何やってたんだ? え、変な事に使って無いよね?


「……。」


 気づいたらスミレさんが俺の瞳をじっと見つめていた。


「? どうしたの?」

「なんだか男の人のようなお顔になられたような気がします」

「僕、最初から男の子」

「いいえ、男の人、と」


 違いが分からん。


「自由にしてもらっていたけど、特に問題はなかったみたいだね」


 問題があれば遠慮なく呼び出すようガラ美とオカトラノオに言ってあった。ガザニアは勝手に動くだろうし。


「ええ、ワタクシも久方ぶりに知識欲を満たさせて頂きました。イワガラミさんも王城の研究塔で学んでらっしゃったわ。ガザニア様は新しい剣を頂いたご様子で、オカトラノオ様と昨日までダンジョンへ入っておられました。ただ――。」


 窓へ目を向ける公爵令嬢の顔の表面を影がよぎった。


「産まれたばかりでお父様もお母様も構ってくれなくては、子供は拗ねてしまいますわ?」




 館の外に出ると、羽ばたきが顔を打った。

 最初の子よりも大柄なワイバーンが頭上で滞空している。紅が波のように流れる紋様の鱗は、実に赤い魔法使いに相応しい。


「頭の上から御免なさい。三日振りですわね、サツキ様。さぞや濃厚な営みを送られたのでしょう。この後のお茶会が楽しみですわ」


 もう一頭のワイバーンの背から侯爵令嬢が声を掛けてくる。

 って待って。貴族令嬢のお茶会のアジェンダがここ数日の俺とクランのプレイになるの? なんの実績報告会だよ。


「この子の面倒を見てくれたようだね。助かるよ」


 赤いワイバーンが目の前に着陸し、喉をゴロゴロさせ頭を寄せてきた。


「一人見るのも二人見るのも同じですわ。でも、やはりお父様がいいみたい。甘えたい盛りですのね」


 空色のワイバーンも隣に着く。軽やかに地面に降り立つイチハツさんに、内心口笛を吹いた。


「ワイバーンライダーとして様になってきたね。Sランクにもそう居ないよ」

「昇格の条件はドランゴンの討伐でしたわね。この子たちに慕われていると、そんな気は起きませんわ」


 ワイバーンに挟まれ両手でそれぞれ撫でる姿は、なんだか聖母の様だ。

 弓術固め打ち、奥義野薔薇撃ち、そしてワイバーンの聖母。クエスト消化の実績さえ残せばAランク相当だな。

 他のご令嬢も地頭が違う。

 なんだこの新人冒険者パーティ? SSランク二名が座席してるだけでも新人枠から逸脱してるのに。

 フレッシュグリーン?

 どこがフレッシュだこら。


「少し、ラフに飛びませんか?」

「子供のストレス解消には暴れさせるのが一番か」

「王都上空のフライト許可はブルメリア陛下から頂いておりますの。民間運輸の識別プレートは必要ですけれど……ふふ、あまり意味はありませんね」


 いたせり尽せりな事で。

 剣に図書資料に魔術研究に。俺、その間ずっとクランの中にいたんだよな……。


「よぉし、飛ぶか」


 パンっと自分の頬を叩くと、赤いワイバーンが「ガウ」と呼応するように高らかに鳴いた。

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