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286話 爆砕する点穴

毎度お付き合いをいただきまして、またブックマークなどを頂きまして、大変ありがとう御座います。

「って何やってんだこの女神は!! ――は!?」


 気付くと、見覚えのあるステンドグラスから差す陽光を浴びていた。神殿の聖堂だ。

 キョトンとした顔で全員がこちらを見ていた。


「……サツキくんだけ……戻るのが遅いのね……?」


 俺が放ったセリフを考察してるんだろうな。クランが訝しげに可愛らしい眉を寄せている。


「同時じゃ無い? タイムラグがあったのか。あの光に包まれてから経過時間が狂ってる」


 キクノハナヒラク帝国には、術と札を駆使し迷宮を動的に構築する技があった。近似した効果か、そのオリジナルかも。


「ご主人様、光などありませんでしたが?」

「俺っちらはすぐここに戻されたよな。兄ちゃんだけ戻ってなかったぜ」

「サツキの姉ご兄貴に限って案ずることはねぇと思いましたが」


 ……あの女神、何やってたんだ?


「何はともあれ、皆さんがマイヨウレン様の加護に授かったことは重畳です」

「ハナキリンさんは来なかったんだね」

「あくまでも案内役なのよー」


 まぁ今回の防衛も旦那殴ってただけだったしな。


「サツキくんは……貰ってたわね……。」

「槍って話だったな。外に出てもいいか?」

「確認されるのでしたら敷地の外でを願いするわねー」

「了解だ」




 神殿外苑から王都と反対方向に距離をとった。

 ストレージから宝石を出す。日差しに翳して透かしたが、授かった時の赤石だ。


「……これが……説明書……。サツキくんは無くすからって……私に預けられた」

「お、おう」

「読むね……まず槍を展開します……。」

「いきなりハードル高いな。これどうするんだろ?」

「たま……ごっちみたいなボタンが……あるらしい」

「何だそりゃ? これか」

「おお……槍になった」

「槍になったな」

「私は……サツキくんの槍で貫かれたい……。」

「お、おう。今夜、な」

「……サツキくんったら……。」


「あの、失礼ですがサツキ様、クラン様? ワタクシたちは何を見せられてるのでしょうか?」


 スミレさんが呆れれていた。


「今しばし待たれよアザレアの公爵令嬢よ。今いいところだ」

「そうですね、今こそ昨日の女子会の成果を生かす時です。クラン様、ゴーです!!」(ハァハァ)


 イチハツさん。君はステイな?




 カクカクしい装飾の槍だった。たまにクランが持つ杖に似ている。

 試しに投擲で岩に当ててみた。

 得体の知れない爆発物を至近で起爆できるか。

 黒々とした火炎が爆炎となり、折り返す熱風が俺たちを舐めた。


「こんなもん人間相手に使えるか!!」

「弓矢に発火物をくくり付けるよりも、飛距離が無いだけ扱いが難しいですな。場合によってはお味方の防御強化を解決させる方が先かと」


 鋭い視線で、ガザニアが的確な評価を下してくれる。プラグマティックじゃねーなぁ。

 女神の加護と同等の触れ込みなら、帝国の親衛隊として見過ごせないのも分かるけど。


「使い切り、ですの?」


 同じ飛び道具と聞いてイチハツさんが興味深々だ。


「槍は……刺さったまま……ね」

「なるほど、本来有する刺突能力は保有したままで、そこで差別化をはかりますか」


 評価を即座に改める。

 要は使い所って分けだろ。でもなぁ。


「あの爆心地で刺さる刺さらないは問題じゃないような気がするが」

「そもそもですわ? 刺突による爆発なのか、接触起爆なのか、因果関係も不明でしたら、ありのままを受け止めるしかないのではないのでしょうか」


 イチハツさん、もっともな事を言ってくれるけど。


「ひとまずは、攻撃手段は多いに越した事はないと思いますわ?」

「流石はイーリダキアイ侯爵のご令嬢。専門家の意見は違いますな」


 ガザニアが妙に納得してる。いや褒めてるようだけど、侯爵家が掘削の専門家みたいになってるぞ?

 イチハツさんは野薔薇撃ちの鏃への転用を見据えてるんだろうな。撃って爆発だなんて、分かる女ではないか。


「あの、女神様は未開の地の開拓について承知されておられたのではないのでしょうか?」


 アネモネでの狂気はどこへやら。アサガオさんが控えめに、前提と共通認識を確認してきた。いや疑問の提言かな?

 触手責めさえ絡まなければ、我がパーティ随一の良識人である。


「そりゃ、アンスリウムからずっと言ってきたもんな。こちらの最終到達点は露見してると思っていい」

「そこで武器でしょうか?」


 ……。

 ……。


「あ、これ本当に掘削機なのか!?」


 土木用? 確かに武器とは一言も言ってないが。なら、刺突の因果は関係ないの?

 わずかにイチハツさんの表情が翳った。逆に言えば野薔薇撃ちも土木に転用できるって事だけど黙っておこう。本当に掘削の専門家になりかねないから。

 それに、彼らも来たし。


「恐れながら新兵器の品評会は、ここでお控えになった方がよろしいかと存じます」


 ガラ実が視線を巡らすと、遅れてエルフの兵士たちが森を抜けてきた。

 派手に爆発させてりゃ騒ぎにもなるか。


「今の騒音はあなた方でしたか。この焼け跡は一体何を?」

「騒々しくしてすまない。王妃殿下には断っていたが」


 と、改めて槍の刺さった爆心地を見る。


「新しい土木機器の試運転をしていたのだが威力を見誤ったらしい」

「「「土木機器!?」」」




「凄い音だったね」


 神殿に戻るとスイレンさんが迎えてくれた。

 その背後で、ハナキリンさんが母エルフたちに食卓の指示を出している。昼食はここで採る事になりそうだ。


「すみません、岩場を一つ崩してしまった。ハイビスカスの主神であるマイヨウレン様からの賜り物が物騒な掘削機と知って、こちらも持て余している。いっそ王家の宝物庫に封印してくれるといいのだが?」


 わざと恩着せがましく言ってやった。


「こちらで預かっては反噬(はんぜい)の意とも取れるよ。サツキさんが託されたのなら、せいぜいサツキさんの役に立たせてもらいましょう」


 酷い扱いだな。

 いや押し付けらても困るのか。


「スイレンさんも女神との交信かな?」

「貴方に会いに来た」


 囁くような言葉は無駄にイケボだった。

 ハナキリンさん指揮のもと食事の準備をするエルフ母たちがキャーキャー言い出した。


「お話ししておきたいことがあるのだけれど、食事を頂きながらでよろしいかな?」


 背後でうちの令嬢どもがキャーキャー言い出した。

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