285話 新たな加護
すべての謎が解き明かされる。
「マイヨの仲間の女神が、ああ名前は伏せるけれど、信者の集いの時にね」
「ファンの集い」
「……お布施を納めて……身姿や啓示を取得し……付属のチケットで女神様と交信が許される……儀式」
「お、おう、すまねえ」
初めて聞く言葉を口の中で繰り返すと、隣のクランが得意気に説明した。うん、君は幾ら貢いだの?
「そのうちの熱烈な信者から恋愛相談があって」
「幾ら貢いだの?」
「……何の事やら……。」
「それは、好きな男の子と添い遂げたいという切実な相談だった」
あ、続けるのね。
「そんな彼女にあの馬鹿は、げふん女神は言いました。汝パンツを捧げ持て振りたまえ」
「何でだよ!!」
いや、まぁこの女神も典儀じゃなく隠し芸大会で呼び出されてたもんな。
……コイツら無聊こそが弱点とは言うまいな?
「あくがりたる諸人よ、目の前で脱いだパンツを意中の少年に捧げよ。生温かいそんなんプレゼントされればどんな朴念仁も意識してくれるじゃん? などと神託を下しまったのです」
「幾ら貢いだらそんな神託受けるんだよ!?」
「……秘匿します」
……最悪だな!!
「彼女が意中とする少年はとても愛らしく絶世の美貌に恵まれていたのですが、残念な呪いに掛かっていたのです。不幸はここからでした。その解呪と混同しちゃって、混乱したまま勢いで男の子の顔にそのパンツ押し付けたもんだから、信者の子も後に引けなくなって、目的がパンツを顔に押し付ける事にすり替わっていたわ」
「その男の子も随分な目に合ったな。同情するぜ」
「……アレで余計に……避けられて……途方に暮れました」
俺の追放劇の裏に、そんな舞台があった方が途方に暮れるよ。って言うか、呪いにかかっってる時点で不幸だと思うよ? ていうか残念な呪い? ん?
「待って、それで何で尽くパンツ脱いで渡してくるんだ? その信者が受けた神託だよな?」
「複数の事物間に並行する関係性によるものね」
「と言うと?」
「生放送で配信されていたから」
「え?」
「末端の教会にまで」
「何やってんのあんたら?」
「本当にね」
「よく信者が離教しなかったな」
「何故かファンの集いは以前よりも信者が増えたのよ。大盛況だわ?」
……。
……。
「女神教、大丈夫か?」
「マイヨも少し悩んでる」
それで最初の詫びか。
「例えば、そこのあなた?」
未だ平伏するガザニアを指す。
「今、マイヨがパンツをあげたら嬉しいかしら?」
「恐れ多い事。とても受け取れるものでは御座いません。それにオレには故郷に妻を残しておりますれば、例えマイヨウレン神の脱ぎたてであろうと、おいそれと受け取るわけには行きませぬ」
「あ、う、うん、そうよね。そうよね……。」
パンツ拒否られて傷ついてるのか?
「サツキくんだったら……轟沈していたかもしれません……。」
クランが気を遣いだした。
「そう? そうね、そうよね!! 冒険者サツキはお姉さんや人妻のパンツが大好きだものね!!」
おい女神。こら女神。
「パンツの話をしに降臨したのか?」
「あ」
あ、て何だ? 本題を忘れてたのか?
「皆さんには異教徒、ん? 無教徒? からマイヨの信者を多く救ってもらいました。その褒章として加護を授けます。勿論、先ほど辞退を申し出た貴方達にもよ」
「「「勿体なきお言葉」」」
神授に預かるんだ。みんなソワソワしてる。
「では、皆の者、おもてをあげよ。これより授けしは孤高であり糊口を凌ぐスキル」
ん? んん?
「指定した物質または範囲をプリンにする能力よ」
みんな「えー」て顔になった。
糊口を凌ぐって言ったな。
「あれ? 何その反応? 嬉しくない? 敵対する人間をプリンにできるし、相手の居城の地盤をプリンにしてプリンの海に沈めたり、あぁ、敵の血液のみプリンにするとか変化球もできるわよ? そしてプリンは美味しい」
「いや扱いづらいわ!! そして食いづらいわ!!」
全員が女神との感覚の違いに蒼白となった。ガザニアでさえ目を見開いている。
思い知ったか、これが人間と美しき異形との差だ。
「ついにわたくしの時代がきたのですね」
うちのメイドがあっち側だった。
「喜んでくれたようで何よりよ」
女神が何かほっとしてる。
ガラ美。割と本気で喜んでるな。やばいな。お前もプリンにしてやろうかっ、て少女を運ぶ謎の老人みたいになってるな。
「はい女神様。これでいつでも、わたくしから新鮮なプリンをご主人様に召し上がっていただけます」
結局、俺が被害に会うのか。
「……その手があったか」
クラン?
「なぁ兄いちゃん? もし翌日プリンで発見された人物が居たら、この中の誰かが犯人になるよな? 外界と閉ざされた館なんかで」
ネジバナは何の特番を組もうとしてるの?
「わたくが差し上げるプリンが――果たして迸りから生まれたものか、ひり出したものか。ふふふ」
お前は何を食わそうって言うんだ!?
「あー、これは駄目ね。この人類にプリンの加護はまだ早いわね」
この女神、まだ諦めないか。ていうか、この面子が人類代表みたいになってるぞ?
「分かりました。皆さんには身代わりの加護を授けましょう」
あ。諦めた。
「命に関わる損耗を受けた場合、即座に身代わりのプリンがダメージを受け継ぐわ。インターバルは1日だから」
結局、さらっとプリンを入れてきた。
プリンの守護か何かか?
「では続いて冒険者サツキよ。このたびは縦に横にと大活躍でした。よって貴方にはこれも授けましょう。手のひらをお出しなさい。あ、大丈夫なやつだから、そんな警戒しなくていいから」
渋々言われた通りにする。
右の手のひらに、一粒の宝石があった。紅い透明な輝きだ。
「今はその形にしているけれど、外に出た時には本来の姿になるわ」
「かさばる?」
「概ね――いえ、ちょっとだけだから返してこないで。どうせ貴方にはマイヒレンの加護があるでしょ」
「分かるものなのか?」
「あの時、貴方が帰る時にモニター越しにマイヨも居たのよ」
ああ最初に死んだ時か。
「一応言っておくけど槍よ。一風変わった槍」
「なんとかボルグ系?」
「そんな異世界の神が作ったものじゃないわ。ただ、先端が爆発する」
「扱いづらいわ!!」
宝石を女神に押し付けようとするも、
「あ、ほらもう時間みたい。返却は受け付けないから。じゃあ、またね。ああ、それとリンノウレンとシンニョウレンが会いたがってたわ。そのうち会えるといいわね」
「それまた俺が死ぬやつじゃん。何のための身代わりの加護だよ」
抗議は届かず、急かすように世界は白い輝きに閉ざされた。
一寸先も見えない。
距離があるのか、壁なのか。
ただ、顔の近くで、女神の荒い息遣いだけが響いた。
「ハァハァ……冒険者くんからこちらが見えないからって……男の子の前でこんな格好をしてしまうだなんて……マイヨ、なんていけない子、ハァハァ」
って何やってんだこの女神は!?




