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28話 女たちの決意

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


※運営殿からの警告措置を受け、2021/3/20に26話~41話を削除いたしました。

 このたび、修正版を再掲いたします。

 この人は人生そのものが青天の霹靂なんじゃ、と思った。

 謎の婚約者を連れてきた翌日。

 死体で帰って来た。


「部屋を貸して下さい!! 仲間が瀕死なんです!!」


 聞き慣れない女性の声に、フロアに居た全員が騒然となる。

 女僧侶さんが蒼白になって駆け込んで来た。

 問題は、その後ろだ。

 巨大な猫が突撃して来たんだもん。みんなビビるビビる。


「って師匠!?」

「にゃ? にゃーはニャ次郎にゃ!!」

「はい!! マリーです……。」

「にゃ?」

「いえ、あんな辞別をしておいて、何と言いますか、あっさり再開してしまっていいものか……。」


 私が戸惑っていると、


「そんな所で歓談してるな!! 奥へ運べってんだよ!!」


 オーナーの怒声がフロアに響いた。


「助かります。さ、にゃぁ。あの人に従うのですよ?」

「にゃ」


 謎の婚約者ことギルドの美人さんが促すと、師匠はオーナーの居る一階奥へと通り過ぎて行った。

 その背を見て初めて気づいた。

 あの人だ。

 師匠の背中にぐったりと載せられてる。顔色。やばい。最悪だ。生気が無い。死んでる。もう手遅れじゃん……。


「邪魔……用が無いなら……他に行って」


 背筋が凍った。

 反射的に身構え振り向くと、深紅のローブにあずき色のマントを羽織ったお姉さんだった。明るい、というか色素の薄い髪をショートに、前髪を短めに切りそろえてるのが可愛らしい。そして恐ろしい。目の前の物全てを眼光だけで殺してしまいそうな。なんだこの化け物は?


「す、すみません、お湯、用意して来ます!」


 厨房へ影走りで急いだ。

 あの人が赤黒く染まっていた。血だ。せめて綺麗にしてあげたい。それしか浮かばなかった。



 元の防音部屋ではなく、咄嗟に一階のプライベートルームに通したのは流石だと思った。

 お湯やタオルの替えなど、ひっきりなしに往復した。これを見越してと、他のお客と鉢合わせない為だ。

 あと、


「ハイヒール、ハイヒール、ハイヒール、ハイヒール……。」


 死んだ魚の様な目で回復魔法を掛ける僧侶のお姉さんがちょっと怖い。

 お陰で胸に開いた傷が翌日には寛解(かんかい)に至った。

 断っておくが、私の欠損した部位を瞬時に治したコデマリくんが異常であって、お姉さんの献身的な回復術だって充分驚異である。


 それでも。

 常世へ旅立った魂は帰らない。


 冒険者を名乗るなら、皆一様に承知している冥界(みょうかい)(ことわり)だ。

 例え祈りが通じようとも。

 ――今日この御堂(みだう)影向(やうがう)(たま)ふらむ神明、冥道(みょうどう)たちもきこしめせ。


 けれど。

 上べを取り繕うとも個人の本質たる根幹の消失だけは避けられまい。この場の全員が理解してるはず。

 なのに。

 ()もすがら大仕事を務め上げた僧侶のお姉さんも、夢幻の様な翡翠を湛えた紅い魔法使いも、黒曜石と白雪を思わせる麗しの人も。

 心を同じくする。あぁ、彼の甦生を疑わない。

 よもや。

 あれを取り(こな)そうと。

 止めなくちゃ。

 恐らくは命がけ。彼女らを相手に、私がどこまで保つか。だからって彼に比良坂を登らせる訳にはいかない。かような禁呪――死人(しびと)返り。


「待たせたわね、準備はできたわ」


 見るからに生気を失ったような顔だった。どちらが死人か分からない。


「残念だけど、ここから先はあたしは補助に回るわ。ちょっとだけ疲れたかしら」


 嘘だ。徹夜で中級回復術を連呼して、自分の生命力だってガリガリ削られた筈だ。


「サザちゃん……偉い。頑張ったね……私たちの分も……。」


 嘘だ。曽呂さんに寄り添って魔力共有なんてとんでも技を続けていた。このお姉さん、魔力が無尽蔵か?


「お二人の献身的な振る舞い。見ている事しか出来ないこの身が恨めしいです」


 嘘だ。渾々と湧きだす魔法使いさんの魔力が暴走しない様、ずっと制御していた。繊細な作業を一晩中だ。


「にゃ。にゃーは街の子供達と遊んでいたにゃ」


 本当だ。朝から宿屋の前が賑わっていた。流石師匠。もう人気者ですね。


「茶番はいいわ。最後の一番は貴女たちのどちらかに譲るから。心情的にはクランを推すけど、彼を想う気持ちと、こんななし崩しじゃ嫌という気持ちと、早目に既成事実を作りたいとか、色々あるでしょうし」


 ……あ、二人が沈黙のまま牽制してる。ていうか悩むか?


「どうするの? 時間はそれほど無いわよ?」

「サザちゃん……できれば……もっとムードがあった方が……。」

「仮死状態の体を相手にするのよ? それとも下に魔法陣でも描いて山羊頭の祭壇でも建てる?」

「……そんなムードは……求めていません……。」

「良かった。あたし、工作は苦手なのよ」


 僧侶さんが肩を竦めると、三人はサツキさんを改めて見た。

 上半身は綺麗に拭かれており、今はタオルケットを掛けられている。


「私も補佐に回ろうと思います。新参のこの身が大役に預かるなど。ましてやミス・ベリーは幼少の頃より懸想を募らせておいでと聞きました」

「待って……候補者なら……もう一人居る……。」

「だからあたしは体力的にも魔力的にも限界なんだってば。それに、あたし、彼のことをふっちゃったし……。」

「それは……私の為だった……。それに私も……サザちゃんをふった……。」

「あー、うん、そうね」


 僧侶さんが視線を逸らす。

 この人らの関係、どうなってんだ?


「もう一人なら……ここに、居る」


 紅い魔法使いの瞳に私が写る。

 巫覡(ふげき)である私でも見入る、不思議な翡翠の色だった。

 これぞ(まこと)の魔法使いか。


「君……サツキくんの事……好きでしょ?」


 見透かされた。

 ダメだ。婚約者が目の前に居るのに。クロユリさんに比べて、私は、不義理で、裏切り者で、役立たずの追放者で――でも失いたく無い。

 サツキさんの顔を見る。

 理由は分からない。なのに、今すぐ抱きしめたい想いに焦がれた。

 あぁ、この人に受け止めてもらえたのなら。


 そうか。


「どんな手を使ってでも死なせたく無い程度には。私にできる事なら何でもします。手伝わせて下さい」


 例え彼が黄泉平坂を辿ろうとも。

 人を愛してしまった女は、こうして容易く狂気に堕ちるのだな。


「何でもと言いましたね」

「何でもと言ったわね」

「何でもと……言った……。」


 ――この人ら怖い!!

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。

もし感じ入るものが御座いましたら、★の評価をお願いいたします。

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