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276話 人は礎

 御者台のガザニアが馬車をゲートへ徐行させる。

 ぞろぞろと村民が続いた。全員が適齢期の女性であり、その大半が今やパンツを履いていない。


 ……。

 ……。


 この村、そう長くないんじゃないのか?


「そちらの返答、期待させて頂く」


 ガザニアと入れ替わり御者台へ乗り込んだスイレンさんを呼び止めた。

 スミレさんとアザミさんは馬車の中で子供たちを見てくれている。


「ハイビスカス王にはくれぐれも」

「承知しているよ。明日朝には体制が整う見込みで動いてもらって構わない。そこで受け入れるけど、森での生活は不便を強いられるだろうね」

「それこそ覚悟の上でなければ困る。いずれは開拓の先発と合流して貰う」

「だろうね」


 爽やかな笑顔を振る舞い、馬車をスタートさせた。

 にゃーに跨ったシラネさんがそれに続く。

 見送る俺に向ける、ガザニアの妙に安堵(ほっと)した視線に気づいた。


「何か?」

「状況をわきまえられて、安心した次第で。よくお二人を先に行かせました」


 皮肉が返ってくるとはね。


「護衛に最強種が付いたなら、これ以上は望めねーよ。貴公の事はお目付役と割り切っている。むしろ付き合いいいよな?」

「恐れ入ります」


 足元にラッセルとテキセンシスが擦り寄ってきた。分かってるさ。お前らもだ。

 俺の頭上にわざわざ頭を回したワイバーンが喉をゴロゴロ鳴らす。ああ、お前も期待してるよ。


「で、ここからだが」


 茜色に染まる空が徐々に青味を帯びた。

 再び俺を人影が囲む。

 女たちの目が爛々と輝いた。無遠慮な、舌舐めずりを伴う視線が憂患に浸らせる。こいつら、アンデットじゃあるまいな。


「君たちは先ほどの譲渡会の面子だな。一応、聞いておこうか」


 俺が低い声を出すと、ガザニアが目を伏せ距離を置いた。

 女達がざわめいた。


 ――施作ですわ。わたくしたちは救済を求めていましてよ?

 ――それは村の復興よ。

 ――即ち住民。人は国の(いしずえ)

 ――つまり子宝。有力な冒険者。じゅるり。

 ――お前もお兄ちゃんにしてやろうか。


 全員がスカートに手を掛けた。肘が持ち上がる。


「待て、ちょっと待てそこの!! 何でちゃっかり妹系幼馴染が混ざってるの!?」

「年下ではあるけれど、よく考えれば適齢期だったのよ? 妹になるのに何の障害があるっていうの?」

「障害しかないよ? 待って何の適齢期だ?」


 西に伸びる茜色の境界線を背に、影絵のようにせめぎ合う。ジリジリと。ジリジリと。女豹たちのしなやかな体が、今にも飛び掛からんと距離を詰めてくる。


「いわば獣たちの檻に飛び込んだ形になりましたな。飛んで火に入る夏の虫」


 自分だけ安全な場所でガザニアが嬉しそうに頷く。


「いっそ一晩励んでみては?」

「それは無いよ」


 俺の短い答えに、彼の顔が殺人鬼風に戻った。意図を汲み取ろうとしてくれる。この人材が期間限定の派遣というのは実に惜しい。


「果然、取り込む意思にお変わりはないと?」

「すぐは無理でも。ただ長距離になるから今身重になるのはちょっとね。衛生面や体力面で無理が出てくるから」


 同じこと、アンスリウムでも言ったような。


「村長? そこに居るんだろう?」


 女達の影から、今や女性である事を隠そうともしない村長代理が現れた。


「お許しを、冒険者サツキ様。彼女らのはやる気持ちを抑えさせることなど、アタシにはどうしても」

「そこは制御してくれなければ困る」


 暫くは環境が変化するから。


「村で、病床人はどれくらい居る?」


 俺の問いに、村長と女たちが顔を見合わせた。


「……そちらも食いたいと仰るか」

「ちげーよ!! 自立歩行や長距離の移動が困難な村人の割合だよ!!」


 そう割合だ。肝心なのは人数じゃない。健常者が補足する事を前提としたリスクは、要介助者との比率と総移動距離で測る。


(やまい)で起きれない者はおりません。年寄りも。最年長がアタシだから。あとは……まあ察してくだされるかと」

「オウケイ。じゃあ話を詰めようか」


 交渉だ。

 不安定な上層と村の現状で庇護を求めるのは不思議じゃない。

 もう一案。引っ越しだ。それも村ごと。


「――それは移民という事かい? ハイビスカスが受け入れられてもアザレアとの軋轢になるようなら」

「共和国の侵攻が発端だ。こっちは行政に不正があるんだから痛くない懐なんてものは無いだろ。付け入るならそこだ」

「こちらとしては……いえ、ひとまず村民と協議してだけれど、一度エルフの国に入った後だね」


 そりゃ見通しがなきゃジャッジもできない。


「アルストロメリアは境界線のみアザレアに属しておきながら未開の地だ」


 唐突な切り出し方に、村長が「?」て顔になる。いかん。端折り過ぎた。


「近々サツキ様が、その手中に収められるだろう」


 ガザニアが思ってたのと違うフォローを入れてきた。

 村長がハッとして、その場にいた村民に目を向ける。


「つまり……それは……アタシら全員、サツキの旦那のハーレム行きってことかい!?」

「さりげなく自分を含めやがったな」


 村人たちが騒つく。


「概ねその認識でよろしかろう」


 待てガザニア、少し待て。いいから待て。な? な?

 否定する前に一斉に歓声が上がった。


「いやお前、うんうんって頷いてるけどこれどうすんだよ!? 何で村丸ごとハーレムに迎える流れにしちゃうんだよ!? 普通に一般住民で良くないか?」

「何事にも希望は必要でしょうな。ましてや寄る方もないとなれば。人の上に立つ者としてご自覚頂きたい」


 俺を何に仕立てたいんだ?


「君らだって、本当にそれでいいのか?」

「SSランクの美少女冒険者の男の子なら異存はないさ。お貴族様の寵愛に授かるっていうのなら尚更。いいや、サツキの旦那だからいいんだよ」

「……まずは協議したまえ」


 見込まれちゃったなぁ。

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