273話 オーディション
書いてる本人ですら何が何やら……。
厳選されたメンバーが、まるで旧暦世紀末の水を求め井戸に並ぶ市井の如く列を成していた。
「それでは最初の方、張り切ってどうぞ」
公民館から引っ張り出してきた会議室の机で、スミレさんが案内する。
俺は真正面で使い古しの長テーブルに白いテーブルクロスを掛けただけの境界線越しにそれを迎えた。
「一番、ツンデレ幼馴染系村娘です。よろしくお願いします」
頭の後ろでポニーテールにした少女だった。素朴なカントリー風の服が似合っている。
すぐさま自分のスカートに手を突っ込み例の布地を一思いに引き抜いた。
「べ、別に、貴方のために熟成させたんじゃないんだからね!!」
渡してきた。
どうすべきか判断に迷いスミレさんを見た。
クイっと「受け取れと」サインを送ってくる。
「熟成というのが生々しくて不快なのだが……。」
躊躇うと、娘は頬を赤らめつつ、
「大事に育んできました。三日モノです」
「貴腐ワインみたに言わないで?」
これ、衛生的にどうなんだろう?
マネージャーの如く後ろに控えるガザニアを見る。
殺人鬼のような相貌の中で目だけで頷いてきた。
……そっか。貰う流れか。
「お時間ですわ。では次のかたどうぞ」
スミレさんに促され、入れ替わりに前に進むのは、長いサラサラの髪を真ん中で分けた村娘だった。素朴なカントリー風の服が似合っている。
すぐさま自分のスカートに手を突っ込み例の布地を抜き取った。
「二番手。ちょい年上風幼馴染。よろしくお願いします」
「名乗る前に脱ぐな。怖いから。あとみんな何気に幼馴染を名乗ってるけど、初対面だからね? 初対面で会うなりパンツ脱いでくるんだからね?」
多分、事ここに至っては何を言っても無駄なんだろうな。
「冒険者くんのこと、ずっと弟みたいに思っていたけど、やっと自分の気持ちに素直になれた」
渡してきた。
どうするべきか判断に迷いスミレさんを見た。
クイっと「受け取れと」サインを送ってくる。
「素直な気持ちがコレか……君はもっと自分の気持ちと向き合うべきだと思うぞ?」
躊躇うと、娘は頬を赤らめつつ、
「今朝、履き替えてしまい真新しくて恥ずかしいのですが」
「恥じるところ、そこ?」
ていうか既に半日以上経ってるが。
マネージャーのように後ろに控えるガザニアを見る。
殺人鬼顔の表情が少しだけ迷った。すぐに目だけで頷いてきた。
……これも貰う流れか。
「ていうか何で迷ったの?」
「もう少し染み込んでいた方がサツキ様の嗜好に沿うかと」
理解度がやばい域に達してた。
「お時間ですわ。では次のかたどうぞ」
何だろ? この嫌な握手会みたいなノリは。
「三番、嫁に行った近所のお姉さんが旦那と別れて戻ってきた風幼馴染、行きます」
細かすぎて伝わらない何かみたいになってきたな。
「冒険者くんのこと、ずっと弟みたいに思っていたけど、やっと自分の子持ちに素直になれた」
「もっと早く素直になってあげなよ!!」
意味が分からん。
そしてやっぱりパンツを押し付けられた。
待って。これ子持ち妻の?
「まさかの高得点とは」
ガザニアの採点基準が分からない。あ、俺の好感度か。
「むむう、やはりお尻の大きさですか」
アザミさんがしょっぱい顔をする。
確かに。
「お時間ですわ。では次のかたどうぞ」
スミレさんに促され、入れ替わりに前に出てきたのは、ショートボブの若い村娘で、スカートも短かった。
「四番、クラスメイト風幼馴なじ」
「お待ちなさい」
彼女がスカートに手を差し入れるより早くスミレさんが止めた。
「貴女の足……本当にサツキ様のクラスメイト風幼馴染で合ってるのかしら?」
「な、何を言ってるのか、あたしにはさっぱり……。」
「その幼さの残る瑞々しい太もも。ミニスカにしたのが仇となったようね」
いや公爵令嬢どこ見てんだよ?
「この場での虚偽の申請は厳罰に値します。心してお話しなさい」
「ごめんなさいっ!! あたし、本当は妹系幼馴染でした!! 審査基準に満たないと知っても、どうしてもこのお方に!! サツキ様にと!!」
「はやる気持ちは良く分かるわ」
スミレさん、分かっちゃうんだ……。
「でもね? サツキ様の年齢を基準にした場合、女の子側があまりに年下になると恐ろしい事が起きてしまうのよ?」
「お、恐ろしいこと?」
「世界は凍結に閉鎖され、いずれ闇の中へと消え去ることでしょう」
何の話し?
「はい、それでは次のかたどうぞ。時間が押してきました。キリキリ行きましょう」
妹系が退場させられる。
まだまだ続くのか。
「幼な妻風未亡人です。新婚でしたが彼にもパンツをあげたことがなくて、どうすればいいのか……。」
「しまっとけばいいと思うよ?」
「清楚系黒髪未亡人です。わたくしも、主人にしかパンツを渡したことがなくて……はしたないわ」
「あ、はしたないって意識はあるんだ」
「若い子を惑わす魔性風未亡人だよ。あたしも、旦那以外にパンツだなんて……うん、その……気に入ってもらえなかったら御免なさい」
「めっちゃ純情だな魔性風!?」
その後も、来るわ来るわ。手を変え品を変え。いや品はパンツ一択なんだが。
「もうこれ、単に洗濯物を押し付けられてるとしか思えないのだが」
それも、やけに未亡人が続くな。見目麗しい女性を厳選したというだけあって、可愛いのから色ぽいのやらバブみに溢れたのやら色とりどりだが。旦那、亡くなり過ぎだろ。そういう闇の因習が根付く僻村か?
「男手が見えないのは気になっていたが。この村で何があった?」
暗黒握手会を中断させる。
流石にこれはおかしい。いや、おかしくない要素の方が無いんだが。それでも極端だ。
「本来は、女から思いを寄せる男に向け花を一輪贈る、この国古来の風習に則ったものだが」
村長が語るのは、今でも男女間で行われるアザレアの風習だ。
俺もサザンカにフラれた時は、ブルースターの花を贈った。フラれたけどな!!
「その風習が、我が村では何故こんな事に……!?」(ガクガク)
村長が驚愕に震え出した。聞きたいのは俺の方だ。
「村長様が仰ったのではなくて? 冒険者様をパンツで誘惑すればその夜はワンチャンあるって」
「キャッツカードみたいに飛ばす案だって出てたはずよ?」
犯行予告かよ!!
「うむむ、この村がこんな事になってさえおらねば!! これもこの村の運命か!! ああ、真相を話すにはこの村に起きた悲劇から語らねばならぬのか!!」
村長が主犯だということはよく分かった。
一方その頃、キクノハナヒラク帝国では。
左右に着物を着た家老が控える大座敷の間で。
「ハッ……!?」
「如何なさいましたか、お姫様?」
「サツキさんが……。」
「一の若様が?」
「沢山のお姉さん達に脱ぎたてのパンツを渡されている気がします!!」
「……洗濯屋でも始められましたかな?」
「私も欲しい!!」
「異国での武者修行からお戻りになってみれば、さらに磨きをかけらておいでとは……おいたわしや」




