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272話 救世主伝

色々と疲れてます。

 気づけばフラフラと出歩いてる所に遭遇する。シラネさんの行動原理というか目的が分からない。いや魔王の四騎士だよ、その辺に転がってていい存在じゃないよ。


「クロユリさんに回収されたにゃーがわざわざ同行するのは、彼女の抑止効果と分かった。問題は巡り合わせだ」


 言葉を選ぶのが難しいな。

 村人やガザニアやスミレさんの前でどこまで出せる?


「我、援軍なり。シラネ1名到着!!」

「……にゃーも居るにゃ」


 ぽふ、と白いザックリニットから頭を出したシラネさんが答えた。

 向こうも言葉を選んでいるのか要領が得ない。ん? 選んでるんだよね?


御身(おんみ)は、()の国の王族とお見受けしますが、軍と言いつつ単独とはそこに意味があると解釈してもよろしいですかな?」


 ガザニア、聞くのそこ?

 第一学園の騒動でアザレア王国が魔大陸ことサクラサク国との交流を世界に示した。反して白騎士は存在こそ知れても、その重装備を衆目に晒すことが無かった。理由は理解した。狂気だ。彼女の姉妹ですら手に余るんだろう。だから未確認生物並か都市伝説みたいに実態が朧げになったんだ。

 初見でこの二つを結びつけるのは無理筋だ。なら最初から知っていたか。


「おキクお爺様の親衛隊……こんな所で会うなんて」


 黒い薄手のタイツに足を通しながら、か細い声が応じる。あ、会話する気になったんだ。


「青組十一位、ガザニアと申す。今はこちらのサツキ様に仕えています」

「素性は承知しているわ」


 即答かよ。

 って、共有されてるって? クロユリさんやアオイさんが接触してきたの、俺の出生に関わっての事? サクラさんも?


「シラネがハイビスカスの戦力的支援に派遣されたのは彼の国への誠意の表れよ。サクラサク国は未だに三カ国会議以外には同盟を結んでいないから」


 表向きはね。アザレアですら公式な調印が結ばれていない。列強を差し置いて、ハイビスカスは四騎士最狂を差し向ける程度には親密って事だ。


「一人なのは運用の問題からかな? 多対一を想定して、例えば敵陣に単身放り込むとか」

「ハハハ、気づけば単独で巨大キマイラに挑まれるサツキ様が仰ると言葉の重みが違いますな」


 ガザニアが恨めがましく笑う。うん、ごめん。


「にゃーは……まぁ安全装置か」

「にゃ。安全装置にゃ」


 そう考えると最強のコンビかもしれない。


「よし」


 シラネさんが濃紺のチェック柄のミニスカートを装着する。

 いや、よしじゃないよ?


「何か忘れてない?」

「?」


 感情に乏しい顔で小首を傾げられても。

 この時、俺の中では一つの疑念が、哲学者が生涯を捧げた命題の如く鎌首をもたげた。


 ――今の流れの中に、パンツを履く動作はあったか?


「あれ……?」


 ほら見ろ、手元に余った布地に困惑している。

 よく見ろ。それ重要なパーツじゃないのか? ん?

 暫く手元を見つめていた彼女だが、


「奉納」


 とわざわざ広げて渡してきた。


飄逸(ひょういつ)な人柄だと思ってはいたが……いやどうしろと?」


 俺も困惑した。

 すると何かを察したのか、彼女は布地を裏返しにして見せてきた。


「ほらここ。ここの所」


 何をプレゼンされてるのか分からなかった。

 どうしろと?

 俺が受け取る流れなのこれ?


「これでも堅蔵でね。ご期待に添えかねるが」


やんわり断っていると、


「見損なわないでもらいたいですわ」


 見かねた公爵令嬢がシラネさんの前に割り込んできた。

 スミレさん。いいぞ言ってやって。


「サツキ様ともあろうお方が、履きもしないパンツを頂いたところで喜ぶとお思いですか?」


 やっぱりちょっと待て。


「え……脱ぎたてじゃないと駄目なの?」


 シラネさんの顔から血の気が引いた。


「ワタクシのも含めて、既に四人の貴族令嬢が脱ぎたてを捧げてますわ」

「いいから君はちょっと黙れ!!」


 全員が、それこそ何事かと見守っていた村人さえ距離を取った。


「おお、なんてことですじゃぁ」


 村長が急にですじゃぁとか言い出した。キャラクターに一貫性が無いのな。


「我が長女たる救世の冒険者様は、村の窮地を救った代償に女たちの脱ぎたてを所望されるというのか!! おおっ神よ!!」

「オメーも少しは自分の言葉に疑問を持てよ!! ――殺気!?」


 一度引き下がった村人たちが、一瞬で俺の周囲を囲んだ。何だこの統率力は?

 何気にガザニアとスミレさん達が輪から外れて距離を取っていた。

 そして俺を囲む村人。全員が女性だった。


「どういうつもりだ……?」

「なぁに、そうと分かれば俺たちにだってやりようがあるってことだ。見目麗しい者ばかりを厳選しておる」


 輪から外れた村長が、ニヤリと笑った。

 本当に個性が安定しない。


「まさか!?」


 俺を囲む女性陣が一斉にスカートの中に手を差し入れた。


「お待ちになって!!」


 スミレさんが悲鳴を上げる。


「サツキ様は年上が好みですのよ!?」


 余計な事言うんじゃねーよ!!

 お陰で、10代半ばかそれ以下と思える村娘達が円から下がった。皆、苦渋に満ちた顔だった。

 村娘の一人が言った。


「冒険者様!! あと三年!! 三年待っていただければ必ずや!!」

「三年経っても年下だよ!?」


 計算が苦手な子らしい。

 それでも残った人数で俺を囲むのは十分だ。


「これぞ奥義、真・村人活殺陣!! よもや生きてこの目にするとは!!」


 村長がノリノリだった。お前がやらせたんじゃねーかよ!!


「真・村人活殺陣聞いたことがある……。」


 シラネさん、どこで聞いたの?


「味方の犠牲を顧みず敵を葬る村人活殺陣とは反対に、寧ろ人口が増える真・村人活殺陣……まさか昼間の屋外で行われるとは」


 ほんとにまさかだよな!!

 あと増やし方に問題あるだろこれ!!


「村人乱れる時、サツキ様現る。天はなにゆえこの二人を同じ時代に遣わせたのか!!」


 ガザニアが変な合いの手を入れてきた。

 アザミさんがその言葉にハッとする。


「まさかあのお方こそは……心に七つの傷を持つ男」


 誰だよ!? ていうか(いたわ)ってやれよ!! そっとしてやれよ!!


「はいはい、馬鹿な事をやってないで並んでください。審査しますわよ?」


 流石にスミレさんが仕切り出した。すまんのう。

 村の女達が渋々膝まで下げたパンツを元に戻していた。

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