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271話 まるで飼い犬に手を噛まれた気分

多くの閲覧を頂きまして誠にありがとう御座います。

読んで頂くのが、何よりの励みになります。

 どれくらいだろう。にゃーの前でヘビーアーマーが膝を着き、夢中でもふもふわしゃわしゃしている。

 一心不乱な姿は、ある種の悟りにも思える。自我へのとらわれから解放された境地だ。


「にゃ!! シロ様、テクニックを上げたにゃ!? そこにゃ!! そこがいいのんにゃ!!」


 ごろごろにゃー。


「フヒャーッ、ハッハッハッ!!」


 もふもふわしゃー。


 ……。

 ……。


 ちょっと怖い絵面だな。

 どうしよう? このまま逃げてもいいのかな? 拉致犯人は全滅したし。死屍累々だけど。


「満足」


 成敗、みたいに言うと、白騎士は立ち上がり空を見上げた。

 正気に戻ったのか?


「とても良きもふもふであった」


 あ、まだ正気じゃないこれ。


「結構にゃお手前だったにゃ」


 いやお前は似た様な事、中堅戦で委員長にやられて陥落してたろ。ザコザコだろ。


「にゃ?」


 こっち見るな。

 あと、今更ラッセルとテキセンシスが足元に絡んできた。できればアザミさん達を誘導して欲しかったが……ああ、アレを案内してたのか。

 村の中央通りにコマクサが引く馬車が見えた。村人が遠巻きにビビってる。グレートホースは高ランクの魔物だもんな。

 御者はガザニアだ。隣にスミレさんも居る。先に逃したフォレストディアも一緒だ。


「暑い……脱ぐわ」

「待てや!!」


 何でこのタイミングで!?

 止める間も無く白銀のフルアーマーが消える。やはりアイテムボックスだ。希少価値が高いのに四騎士の標準装備か。

 あ、やばい。視線が固定される。

 内側から輝かんばかりの細身の裸身は、白い宝石で出来た乙女のようだった。

 色素の薄い髪と澄んだ瞳が、異界の精霊に思えてならない。つまり、馬車が到着するまで見蕩れてしまった。


「サツキ様!! 子供たちは無事救出できたご様子で――ってワタクシの思っていた無事とは桁が違いましてよ!?」


 屍がそこかかしらに散乱する中で、全裸の村長と全裸のシラネさんが居た。アザミさんに至っては下着姿に俺のシャツを羽織っただけという惨事だ。


「落ち着きたまえスミレさん。まずは子供たちの保護を優先だ」

「落ち着くというには無理がありましてよ!? あの子は何故に裸で堂々としてらっしゃるのですか!?」


 スミレさんが指を指すとぽわぁーとしていたシラネさんがこちらを向いた。

 ちょうどテクテク歩っていたフォレストディアが俺たちとの中間で立ち止まりこちらに首を傾げる。鹿の頭有能!! 極部は隠れた!!


「ハイビスカスの民を森の妖精と例えるなら、さしずめ彼女は(ケモノ)たちの王といったところか」


 反射的に自分でも分からない事を口走ってしまった。


「……そうですの? それで全裸のですのね」


 この女の理解力やべー。


「シラネのこと?」


 白い娘が小首をかしげる。狂気は完全に退いたか。


「サツキくんにこんな姿にさせられたの」


 そうだけどさ!!

 言いかただってあるじゃん!!


「サツキ様……この様なか弱い少女になんて事を」


 スミレさんが三歩下がる。

 か弱いとは一体?


「それにアザミさんにまで」

「あたしはオルタナティブでフィーバー?」

「それで事後の様に彼シャツですの? ワタクシだってサツキさんの彼シャツしたかったのに!!」


 そんなものを狙っていたのか。


「その、王都では婚約者殿と彼シャツはしなかったのかね?」

「あのお方とぉ?」


 凄い嫌な顔された。


「気がつけば白い全身タイツで城下町を暗躍する婚約者の、何を彼シャツせよと仰せですか? 最近ではどこかのご令嬢にご執心と噂にもなってますのよ?」

「不誠実はダメだよね!!」


 反射的に強調した。

 やはり婚約者一筋じゃなきゃ。経過時間に比例して寝室の人口密度が高くなるとか、もうね。


「このような流言、はしたなく存じますが、そのご令嬢を御寝所に招こうともしたらしく」

「うわぁ……。」

「もっともそちらも未遂で、相手には手酷く断られたそうですわ。本当にいい気味」

「だね!! 王城で言い寄られたそのご令嬢とやらも災難だったね!!」

「……。」


 スミレさんの言葉が途切れた。きょとんとした表情でこちらを見つめてくる。


「ワタクシ……王城とは申し上げてませんでしたわよね?」

「そうだったかな!!」

「絶世の美少女であったとは聞き及んでおりましたけれど?」

「それほどでもないんじゃないかな!!」

「……。」


 複雑そうな顔で見つめられてしまった。


「そ、それより、アザミは早く服を着たまえ。破けた訳じゃないならそのまま使えるよね?」

「はい。着ました」


 秒で着衣を済ませやがった。

 それでも俺のシャツを肩から引っ掛けている。返す気が無い様だ。


「いつの間にか、呼び捨てになるほど仲を深めましたのね」


 凄い無表情だ。

 瞳からハイライトが消えている。


「信じて送り出した友人だったのに、半裸で彼シャツになった上に呼び捨てで呼んで頂ける……はぁ、残念です。まるで飼い犬に手を噛まれた気分ですわ」


 酷い言われようだな。


「あちらには敵いませんが」


 アザミさんがチラリと見ては視線を外す。白い宝石の様な乙女は恥じらいもなくその姿を晒していた。

 分かる。見ていいものか判断に迷う。

 少なくても、子供たちの視線には晒せない。ガザニアが軽い身体検査をして馬車に乗り込ませてくれたからいいけど。グッジョブ。

 ドアを開けた時、中からスイレンさんが顔を出し視線があったので、子供たちのことは彼に丸投げしよう


「俺のだとちょっと大き目だけど」


 一番上質なドレスを出し掲げて見せる。放ってもおけない。だからって、相手の気位を思えば下手なものは着せられない。


「彼ドレスね」


 眠たそうな声が疑問も持たずに近寄ってきた。待てよ、彼ドレスってなんだよ。


「綺麗な坊やには似合いのライン」

「その呼び方、やめて」


 そういやニホンバトルカモシカにビンビン丸とか名付けてたな。

 ちなみにカモシカは鹿ではなく牛だ。


「待つにゃ。シロ様も予備の服は持っていたはずにゃ」


 全員の視線がにゃーに移った。

 少女が舌打ちする。

 そもそも、君たちは何しにここまで来たんだ?

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