27話 マリーと旅路
ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。
※運営殿からの警告措置を受け、2021/3/20に26話~41話を削除いたしました。
このたび、修正版を再掲いたします。
訣別の後、私はアザレオ王国に渡った。
迚も斯くても、アカシアさんと軋轢を解消できず仕舞いだ。
というか、合わせる顔が無い。
冒険者は廃業。尠くとも魔法使いは限界を見た。
良い魔法使いの条件がシナスタジアである事なら、私には望みが無い。おっぱいはまだ発展期だが、火炎魔法使いに今以上の発展が見えないのだ。
魔力は成長しなくとも、
いつか、きっと、
おっぱいだけはアカシアさんに追い付こうぞ。
衆人の視線など釘付けよ。たわいも無いわ。
あのままラフな格好で旅立ったら、乗り合い路線馬車で奇異の視線に晒されたっけ。
そのせいか、男の人が声を掛けてくるなんて事も無かった。後でシャクヤクから、頭のおかしい女だと思われていたと明かされた。
奇異の視線では無く、可哀想な子を見る目だったか。たわいも無いわ。
出国時に、なんとかって山に住み着いたドラゴンが討伐されたニュースを聞いたけど。討伐したパーティは全滅したって話だから、私達が倒したのとは違うみたい。
割とドラゴン、多いのかな。
あと、深夜に現れる巨大な魔物の話題。狂ったような女の笑い声と共に現れ、瞬く間に山を削り川を堰き止め、草原を荒野にしたって。
なんだその化け物。ドラゴンなんかより余程タチが悪いぞ?
出国早まったかな。そんなモンスターが居るなら討伐してからでも遅く無かったよ。
国越えしてすぐ、迷宮都市カサブランカのカタバミさんを訪ねた。
ギルドには戻らない。
そして、ギルドにも入らない。
面倒が多過ぎ。カタバミさんに話したら、そこそこ渋られた。いや相応であるかはわからないけど。
こんな役立たずでパーティ首ばっかりなのに。憐憫の情だけでないなら、何か期待されてたんだろうけど。すまんのう。
ただ、出会いまでは諦めきれず、当初の予定通り宿屋の一時雇用を紹介してもらった。
やっぱりカタバミさんは顔が広い。
宿屋プリムラは大規模な店構えでした。部屋数も多く1階が食堂兼酒場。明るい店内。僥倖な事にオーナーがとても良くしてくれる。
店長では無くオーナーだ。奥様が食堂の女将さんを勤めてらっしゃる。こちらが実質の店長。
お二人とも、かつては元SS級の冒険者だったという。どちらも見た目がお若いので、きっとそれほど昔ではないのだろうけど。
同じパーティで結ばれて、引退して、二人で宿屋を始めたという馴れ初めには、ロマンスを感じる。ここにも良い例があったのだ。
同時に、オーナーに「女はあまり無茶をしない方が長続きする」と忠告されて、ここにも悪い例があったと知った。
よし。今度、見学させてもらおう。
多分、その機会はあるだろう。
女将さん、オーナーによくスッポン肉やマムシの血とか密かに盛ってたもの。
お仕事に慣れた頃。カタバミさんがギルドに顔を出すよう屡々勧めてきた。
オーナーに相談したら、店はいいから行ってこい、と了承されてしまった……。
乗り気じゃ無いけど、私も角が取れたものだ。
カタバミさんが身元保証人という事でギルドカードが発行された。おぉ。S級って書いてる。すげーな。
私の様に嘴が黄色いやつがS級とか、周りが納得するか?
ていうか、どこで私達のパーティがドラゴン倒したって聞いたんだろ?
これだとアセビもS級のあれだ。馬だ。かなり蹴り入れてたもんな。
ギルドに所属する気が無かったので微妙な気分でいると、受付の美人さんが、アザレアでは身分証にもなるから越境者が入会するのは難しいと教えてくれた。
なるほど。それで身元保証人か。
他国でのランクに関わらず、本来は低ランクからやり直しだって。むしろ、そっちでいいのに。
お姉さんがうっかりS級ってバラすから、それを聞いた周囲の冒険者がざわついて、終いには「まーりーぃ!! まーりーぃ!!」て謎のマリーコールをおっぱじめやっがった。いじめか?
私も気分が良くなって、カウンターの上に乗ってダァー!! てしちゃったけど。
受付の美人さんが必死で私のスカートが覗けないようガードしてくれてたっけ。気苦労、お掛けしました……。
それにしても、凄いな。
美人さん。
まさかアカシッククラス(アカシアさん級の美人の略)に出会えるなんて。
冒険者ギルドって、どこもこんな風なのか。気になって聞いたら、今日、中央都市から転属してきたらしい。
転属早々、凄い人気だ。憧憬の的ってヤツか? 濡れ烏って言葉がぴったりの髪。私の故郷でもここまで妖しく煌めくのは稀だ。
そして、新雪のような肌。やべぇ。恥じらいに紅く染めてみてぇ。
実際にその光景を間近で観察できる機会に恵まれるなんて、この時は思わなかったな。
ギルドに登録した翌日、転機は訪れた。
夕刻の便で到着した冒険者だ。
カウンターにオーナーが立つ事が稀にある。感が囁くんだって。そういう時は、特別なお客さんが来るとか。
私は、その冒険者さんの背をフロアで給仕しながら眺めていた。
男性にしては小柄。女性にしては長身。
線が細いように見えるけど、あの装備の下は割といい筋肉してそう。それと、足さばきが妙にスマートだ。
見た目は剣士系の装備だけど、何の職業だろう?
常連さんらにおちょくられるのは、悪い気分じゃない。私が冒険者さんの動きに見とれていると、色々と弄ってくる。「皆さん、私の事、好き過ぎるでしょ」て返すと、どっと笑いが起き、乾杯の音頭がとられる。
ここはいい場所だ。
あの人も、ここを好きになってくれるだろうか。
可笑しいな。
私が、こんなにも一か所に固執するなんて。いずれは、また裏切っちゃうかもしれないのにね。
気付いたら、冒険者さんの姿が見えなくなった。
あれは、夢幻の類だったのかもしれない。
余りにも、綺麗過ぎた。
少し怖い。
先輩ウエイターが、オーナーが呼んでるって私を呼びにきてくれた。
指定された1階の応接室に入ると、先程の美影身が立ち上がって迎えてくれた。
オーナーと歓談中だったみたい。
女性と見間違えるほどの美貌に、思わずキョドりそうになる。でも分かる。この人は男性だ。
オーナーが「えらい別嬪さんだろ」と茶化すが、その手には乗らない。
ソファを勧められたけど、座っていいものか戸惑った。なんの場かわからないせいか、居心地が悪かった。
オーナーが私を指して付き合ってみないか、と勧める。そういえば出会いを求めてる件は告白済みだった。
立ち話もなんだから、と彼が椅子へと促してくれる。私の着席を待って、元のソファに戻った。
さて、オーナー? どういう事だ?
睨むと、照れた様に相合を崩す。いやいや、あんたが照れてどうする。
呆れたことに、冒険者さんとは今日初めて会ったとの事だ。余りにも綺麗だったので私を勧めたって。どういう思考になってんだ?
私なんかが、こんな美人と釣り合うわけが無い。
カサブランカに至った経緯を聞いた。
彼が前のパーティを女性問題で追放されたというのには驚きだ。意中の僧侶にフラれたらしい。そして魔法使いの子にパンツを嗅がされたらしい。
そっかぁ……こんな美人でも色々あるんだな。
なんか殺伐とした過去に、自分でも意外なほど興味が沸いた。勿論、この引き合わせはオーナーの暴走だって分かるし、彼が乗り気じゃないってのも最初から理解している。
オーナーの「今日はもう上がれ」の一言で、お開きになると思いきや、私達の為にリザーブ席を用意してくれた。何やってくれてんだ?
お節介が過ぎたせいか、オーナーが女将さんに小突かれてた。フライパンで。
「なんだかすみませんね」と謝罪すると、役得だと言って笑ってくれる。可愛い。
何この、何?
既視感があると思ったら、笑った顔が大姉様に似てる。
この人は、本当に男の子なのだろうか。握って揉んで確かめなくては。奥にいい部屋があると聞く。
いやダメだろ。変態だろ。
ひょっとしたらコデマリくんの親族かもしれない。一族総じて美少女顔とか凄まじいな、おい。
向かい合ってテーブルの蝋燭が照らす唇。どんな味がするのだろうとか、今の思考を読まれたら軽く死ねる。
……あれ? 待って。私、大姉様をそんな風に見てたって事?
脳内でシミュレーションしてみる……凄い事になった。クックク、まさか目の前に居る女に脳内でドロドロのトロトロにされているとは思うまい。
……あ、うん、飲み物奢ってくれるんですね。あ、はい。サトウキビ酒、大好きです。違、いえ、舐める程度で強くありません。たった一杯でも、どうにかなっちゃいそうで。もし、酔ってしまったら、介抱してくださりますか?
人生初の上目遣いでのおねだりだ。
お父さんにもした事が無い。割と気持ち悪いぞ自分。
……あ、はい。ミルクにしときます。
彼は、とても聞き上手でした。
これまでの私の冒険譚をとても真摯に聞いてくれる。その上で、大変だったね、頑張ったね、偉いねと肯定してくれるから、ついついミルクも進んでしまう。
そんな私に、昨日ギルドに居合わせた冒険者が気付く。
――マリーだ。
――マリーがお見合いしてるぞ。
――よし!! 行けマリー、行っちまえ!!
結果、再び「まーりーぃ!! まーりーぃ!!」の大コール。本能でテーブルに登りダァー!! てやった。やってしまった。
もう、彼の顔が見れない。
ちらりと横目で伺う。結局見る。
華やかな視線を返された。どんな視線だ?
背景に百合の花が咲き、点を散らしたトーンを掛けた、と言えば伝わるだろうか。
何だこの人? 菩薩か?
場が盛り上がったまま、なし崩し的に解散となった。
待って。
せめて言い訳くらいさせて。
思い返すと、私の事ばかり話したな。
明日は、もっとあの人の事を知ろう。時間を掛けてでも他人を理解したいだなんて、初めての感覚だ。
そんな人が、今、同じ宿屋に居るだなんて不思議な気分。
明日は夕食もご一緒できればいいな。
甘かった。
情勢は逼迫していた。明日なんて言ってる場合じゃい。
獲物を前に舌舐めずりは三流だって、あれ程お母さんから言われたのに。昨夜の乙女モードな自分を唾棄してやりてぇ。
翌日の夕方、婚約者とかいう女を連れ込みやがった。
フードを深く被ってるけど、この人、ギルドの受付に居た美人さんだよね? え、何? 女性問題でパーティを追放されて傷心とか言ってたのにもう新しい女ですか?
オーナーから部屋を変える旨、指示が出た。防音設備が整った部屋だ。
よりにもよって私に案内させるか?
お二人の関係が気になっても、ほら自分、怯懦な性格ですから。
部屋に移った二人を見る。
……あ、これ、そういうヤツじゃないや。
何となく、彼らの距離感に得心するものがある。
お姉さん、苦労しそうだな。
もし、そういう関係にあったとしても、私がこの人に好意を寄せるのは自由だよね。
いいや。
悔恨に呻くにはまだ早い。
私に瑕疵さえ無ければ機会もあるだろう。
「この部屋は壁が厚くなっており、音が反響しない処置も施されていますが……その、ほどほどで、お願いします」
最悪アレだ。
「では、ごゆっくり。ぐぅえっへっへへへ」
見学させてもらえないかな?
お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。
最後に6話のあのシーンに繋がりました。
ここからは、サツキが常世で転生の女神にセクハラを受けてる間の現世の出来事になります。




