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268話 五等分の

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。

凍結勧告を頂かないよう細々と頑張っています。

「失礼します代表!! 外で不審な者を見つけました!!」


 やたらデカい声で軽装な甲冑姿が入ってきた。見張りは無かった。他にも別行動(下っ端)が居たか。

 連れられているのはアザミさんだ。


 ……。

 ……。


『いや何で捕まってるの?』


 ジェスチャーで聞く。


『馬車に居なかった。案内してもらった方が早い』


 ジェスチャーで返してきた。


「むむむ、見るからに怪しげな動き!! 確かにこれは不審な者だ!!」


 ほら見ろ怪しまれてる。


「ま、まって、待ってくれ!! その子はパパ大好きっ子な次女なんだ!!」


 村長がアドリブ効かせてきやがった!!


「パパ大好き」


 棒読みでアザミさんが乗っかった!! 棒読みで!!


「んー、まぁ、増える分にはいいだろう!! その娘も我々に差し出せ!!」


 不審者だけどいいのか?


「よく吠えた……その意気や良し。ならばここに三女登場だわ?」


 軽装備の男を押し退け、更にフォレストディアが押し入ってきた。

 え? 戻って来ちゃったの? ていうか君、雌だったの?


「待て、待て待て待て!! まさかこの鹿までキサマの――!?」

「ああそうだよ!! 娘だよ三女だよ!!」


 村長が半ばヤケクソになっていた。

 いやおかしいって。仕掛けた俺が言うのも何だがそれはおかしいって。帰巣本能はどこへ忘れてきた?

 俺の疑問に応えるように、フォレストディアの背から幽鬼の影がゆらりと身を起こした。白い影帽子だ。


 胸元のブレードを大きく空けた純白のローブ姿は、それこそ美人の幽霊画を思わせた。クランのような息吹に溢れた白では無い。されどランギクくんのような若々しいさの中に見る気だるさとも違う。色素の薄い肌と、ショートボブの銀髪が、木漏れ日のように戸口から差す珠を弾いていた。

 翳りの下で輝く双眸よ。しとやかな瞳はあどけなく、うれいに濡れて――あぁ、それだけに人間離れした美貌はあの夜より健在か。


 俺だけは自然と身構えた。自称三女。まさかこんな所で出くわすとは。


「おおっ、これはまた上玉な!!」


 代表の目が血走る。

 彼女の素顔は、この様な下衆に拝顔させていいものではない。

 崇めるとはいかずとも芙蓉な佇まいへ送る、その不作法な視線の主人に憤りを感じた。


「……そしてこの子が四女よ」


 フォレストディアの頭を撫でる。

 あ、結局ソイツも姉妹に含めるんだ。凄いな。鹿、妹になっちゃった。


「いいだろう!! ならば鹿ごと貴様を取り込んでくれるわ!!」


 この人も何言ってるんだろ?


「いい加減にしてくれ!! もういい加減帰ってくれ!!」


 いっぱいいっぱいになったのか、村長が頭を抱えた。


「何を言う貴様!! 我々を退去させようと言うのか!? 遠い異国で食料も生活の保証もない我々を!! お前のしている行為は非道な差別だぞ!! 分かっているのか!! 今すぐ謝罪するがいい!! 謝罪した上で我々が納得するまで食料と娘を差し出すんだ!!」

「よもやここに住む気か!!」

「当然の権利である!!」


 絵に描いたような、何ていうか……うん。

 もういっそまとめて片付けたいけど、拉致被害者の安全が確保できないとなぁ。連れ歩かず馬車にも放置せず。残りの仲間が近くで隔離しているな。奪ったものに対しては用心深いというか執念深いというか。


「しゅ、襲撃だーッ」


 外から野太い男の声が響いた。

 ラッセル達か? 彼らが屈従できないとは思いたくないが。犬なりにこちらの判断の要ありと感じたか?


「エルフの者どもか!?」


 違う可能性を警戒してか代表が村長宅を飛び出す。

 状況確認というより、ハイビスカスの追撃だった場合、自分だけ逃げようって魂胆だろう。


「アザミ、逃すな」

「潮合としてはここですね」


 呼び方を変えられて、小さな唇が満足げに歪む。

 俺たちも外に続いた。

 いずれにしろ、連中を拘束する機会だ。

 村長も外に出た。

 遅れて四女に乗ったままの三女も――いやもう言うわ。シラネさんだよ!! アオイさんと腹違いの双子っていう!! 何だってこんな所で遭遇するんだよ!!


 そんな彼女ですら。


 一歩外へ出た者は、様々な感情に皆が固まった。

 盲亀浮木にあった時、良し悪しに関わらず人はその動きを思考と共に停止する。


 遠巻きに警戒する住民達に見守られる中、ワイバーンが皮膜の翼を広げ緩やかに着陸したのだ。

 って、そういや森から俺たちのことをずっと着けてきたよな!!


「ま、待て……待て待て、待て貴様!! まさかアレもとは言うまいな!?」

「実は、な……。」


 渋い顔で目を逸らしやがった。ていうか村長、なし崩し的に乗っかる腹づもりか。

 この怒涛の事態に彼は決断したのだ。それは、社運を掛けた男の顔と呼ぶにはあまりにも色気があった。


「ああっ、ついに五女までもが解き放たれてしまったか。こうなっては隠しきれぬわ!! その通りだ!! うちの子は五つ子なのだ!!」

「五等分するにしても無茶が過ぎるだろうが!!」


 開き直る村長に代表が吠えた。気持ちはわかる。五等分というか五頭分というか。


「ワイバーン、手懐けたの? いいなぁ、ワイバーン、羨ましいなぁ」


 シラネさんが欲しそうに見てる。

 ワイバーンが何故か一歩退がった。


「五女、あげないよ?」

「お金か? お金が欲しいのか?」


 金で解決しようとするなよ。

 ていうか、三女が長女に五女の人身売買を持ち掛ける図ってどうなの?


「お、おのれ、我々に対して飛竜で威圧するか!!」


 いや、ワイバーンなど足元にも及ばない化け物がこの場に居るのだが。

 それも、恐らくは両断卿と同格の。

 ちらりとフォレストディアの上の美貌を見る。

 クイっと首の上で親指を引きやがった。他人事だと思いやがって。


「えーと、私たち姉妹が全員揃ったからには、あんたらの好きにはさせないわ!! 五つの星が守護するえーと、一人は衛星だけど、何だっけ? 死ね」


 前口上が面倒になった。


「サツキ様、まずは無力化が先です。降伏勧告、降伏勧告」


 アザミさんが小声で教えてくれる。

 けどな。

 連中がそう帰順するものか。


「小癪な!! かくなる上はアレを使うぞ!! 連れてこい!!」


 最後の仲間だろう。これも軽装備の男二人が、わちゃわちゃとエルフの少年を連れてきた。よし本命だ。建物の裏手に隔離していたのか。


 ――行けるか次女?

 ――お任せください長女。


 手早くアザミさんがアイコンタクトを返して来た。

 自信満々な彼女の顔に、少しだけ不安が募った。

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