266話 追跡の手がかり
多くのかたに読んで頂き、またブックマークなどを頂きまして、大変ありがとう御座います。
273話が難産で遅筆になっております。少しでも楽しんで頂けますよう、努めて参ります。
村までの移動は、フォレストディア騎乗の訓練も兼ねた慣らし運転だ。
完熟訓練には満たない。ひとまず単独走行ができれば。
「アザレアのSS級は流石ですね。習得がお早い」
並走するスイレンさんが褒めてくれるけど、そちらほど手際がいいわけじゃ無い。
木々の幹や枝を交わし倒木を飛び越える森林の高速移動だ。
一番の敵は自損事故だな。
「速度上げたいがよろしいか?」
逆に聞くと、別のフォレストディアを駆るランギクくんが先行しろと右手でサインをくれた。
お言葉に甘えましょう。
「少しラフに流す。ちゃんと捕まってくれ」
タンデムの背後に声を掛ける。
どうにも遠慮されてるな。
「お、お、オレ如きがサツキの姉ご兄貴に密着するなど、ましてや腰に手を回しぬおぁっいい匂いが!?」
コイツを乗せるの、失敗したかな。
いや、こうでもしないと嗅いでもらう口実がなぁ。
慌ただしいが、到着してすぐ被害者の持ち物を集めてもらった。
並行して子供たちの家族から特徴を聞いていたが、よく考えたら外の世界でエルフなんてそう見ない。発見次第手当たり次第に確保でいいか。エルフは確保す。エルフを保護するモノたちだ踊り子の真髄を見せてやろう。
「魔物だ!!」
「今度は何だって言うんだ!?」
俺たちが通ったゲートで騒ぎが起きる。
「向こうも到着したみたいだな」
「オレが行きます」
飛び降りたオカトラノオがゲートへ戻る。
館から出たあの子らが俺達と間を置かずに到着したのは、一風変わった裏技の恩恵だ。
いや本当……飛竜がイチハツさんを背に乗せた時は、もう反則としか思えなかったよ。
「サツキさん、遺留物とはいかないけれど、要救助者が使っていた物だよ。三人分集めてもらった」
スイレンさんに右手を上げて応える。
村の長老を王様の所に置いてきたのは早計だったと思ったが、彼の手際がよくて助った。
「こちらも準備が出来た。追跡中借りてもいいかな」
「少年たちの肌着です。とはいえ、嗅覚一つで追い切れますかね」
「森の人らしくシャーマンに祈祷でもさせるのか? 冗談ではない」
肩越しに背後を見ると、オカトラノオが二頭の灰色オオカミを誘導してきた。
「アイツらの鼻は信用に足るから」
「オオカミの方を、言ってますよね?」
「うん?」
問答に違和感を覚えつつ、スイレンさんから子供達の持ち物を預かる。
広げてみた。
パンツだった。
「他に無かったのかよ!!」
反射的に丸めて隠しちまったよ。
「洗濯済みだけれど匂いが染みついたものとなると、これが一番かと。正味、追えるものかな?」
「……十分すぎると思うが、いや、十分なんだが、しかし」
手の中にある三人分の少年のパンツを持て余す。
ランギクくんを見る。
エルフの子供は女の子と見分けがつかない。
「? サツキ兄様、わたしのも欲しいの?」
「……気持ちだけで」
五重塔といい……俺どこ行ってもパンツ集める人と思われるのかな? クランだけで十分なんだけどな。
「サツキの姉ご兄貴、オオカミの方なんだがちょっとすまない」
今度は何だと振り向くと、ラッセルの背に乗る女の子と目が合った。
明るい楊梅色のミディアムショートに大きな瞳が印象的な――忍者令嬢だ。
「待機って伝えたのに来ちゃったのか!? オオカミに乗って!?」
まるでトラパーの波に乗るように。
「騎乗スキルは高いのです。足手まといには決して」
アザミさんの釈明は意外だ。俺の動きも伝えて無い中でアザレアの貴族が率先するか?
「要救助者の追跡と保護と聞き、身軽な私をスミレ様が遣わしてくださいました」
「勝手に遣わされんでくれと言っている」
あの公爵令嬢が付き人のご令嬢に危険を強いるはずがない。彼女たちの中で何らかの利害の一致を見たか?
「幼子が拉致され、親元から引き離されたと聞き、私もスミレ様方も憤っているのです。親御さんは青い空を見るたびに、異国に居るお子さんとの繋がりを思い出すのでしょう。その様な悲しい事、決してあってはなりません」
「まさか貴族が正義感を語るのか?」
「大それた事を」
アザミさんは悲痛そうに首を振った。わざと核心から逸れた言い回しだって察したかな?
「でしたら、サツキ様は使える手駒が増えた程度にお考えくだされば」
意趣返しかよ。
使えるかどうかで言ったら、彼女の術は有用だ。今はその話じゃない。
「分かった許諾しよう。馬車が追いつくまでは人手も要る――お前たち」
ラッセルとテキサンシスを呼ぶ。流石にアザミさんがラッセルの背から降りた。
さっき畳んだ子供たちのパンツを見せる。
「攫われた子供たちの持ち物だ。この匂いを覚えておいてくれ」
パンツを受け取る。アザミさんとオカトラノオが。
くんかくんかと、少年たちのパンツの匂いを嗅いでる絵面がアウトで仕方がない。
「ってオメーらじゃねーよ!!」
くいくい、と控えめに袖が引かれた。
「サツキ兄様……わたしのも嗅ぐ?」
ランギクくんが謎の対抗心を露わにし、スイレンさんを震え上がらせた。
一方その頃。
怨霊の館あらためハナショウブ館では。
「ハッ……!?」
「如何なさいましたか、クランお嬢様?」
「……サツキくんが……。」
「ご主人様が?」
「……私以外の子のパンツを嗅がされそうになっている気がする」
「左様でございますか」




