263話 犯人が分かったんですよ
今朝、
モンゴルマンに助けられる夢で目が覚めた。
「……。」
「……。」
ガラ美とイチハツさんがカフェテーブル越しに間合いを測る。
眠っていたワイバーンが首を上げ、思い出したようにチビチビと紅茶を飲み始めた。
「……分かった……分かったから、どちらも試すから……だから喧嘩は駄目よ?」
何でクランが折れる形になってるの?
「!? 流石はベリー伯ご令嬢様。つまり一回戦と二回戦とで分けると仰せですのね」
「……何回戦までやらせる気?」
「我々貴族のお茶会やパーティでも、主催者がお召し替えをする事は珍しくありませんもの」
「……だから私……何回戦も攻め続けられるのかな?」
クランの表情が不安に陰る。
もとが前哨戦だけで耐えられないって話だもんな。
「あの、それでしたら間をとってみては如何でしょうか?」
ランギクくんだ。
ダウナー系のイントネーションだが、会議に積極的に発案してくれる。貴重な人材だ。
「白いお花の模様をあしらった、ガーターというのはどうでしょう?」
「「天才か!!」」
思わずガラ美とイチハツさんが立ち上がり、テーブル越しにハイタッチをした。
正直、全部試したい。
「そして、どれほど抵抗されようと、ワタクシ達の拘束する手は緩みません」
「酷いことをしないでと潤んだ瞳で懇願するお嬢様。ああっ、興奮してきました!!」
「これ俺が鬼畜になるって話だよね? 」
「そう。そんなクラン様に、サツキ様は愛おしそうに優しくキスをされるのです」
「優しく……。上の唇にはこんなに優しいのに……下の唇は乱暴で荒々しいキス……。」
何言い出してんだよ!!
「ですからお待ちくださいクラン様、早まってはなりません。先ほども仰った通り、まずは胸への接吻から」
「……気分が上がってきたわ」
俺たち、いつまで正座で娘どもの猥談聞かされるんだ?
ちょうどその頃、一騎の騎馬、いやフォレストディアが近づく音が聞こえた。
やって来たのはスイレンさん一人だ。見張り台に居たっていうイエローブロッチは本隊かな。
「これは、どういう状況、なのかな?」
戸惑う気持ちも良くわかる。
倒れた巨大キマグロを背景に女性陣とワイバーンがカフェテーブルを囲み談笑に花を咲かせるのを、俺達三人が正座で見守る。
説明しずらい。
「スイレン兄様、今、サツキ兄様がクラン姉様に鬼畜の所業を行うための最適解を議論していた所です」
「まったく理解できないよ!!」
救いを求めるように俺を見る。
「状況を見ていた俺にも理解でき無いさ」
肩をすくめるしか無かった。
ていうか詳しく言えるか。
「なるほど。私が差し上げた薬品の使用契機について検討していた訳では無いのだね」
あっ、余計な事を!!
「「「薬品!?」」」
ほら見ろ、娘っ子どもが食い付いた。
「そ、そそ、それは、どういった効果がある物ですか!? そういった効果なのですか!?」
むしろイチハツさんが薬物中毒みたいになってる。
「服用方法は!? どちらのどこに塗り込むんですか!?」
ガラ美、塗り薬前提なんだ。
「……サツキくん……お姉ちゃんにそんなの使う気だったの……?」
いや使うのは俺にだが。結果的にお姉ちゃんが大変になるのは変わらない。
だが、これは好機と受け取れる。
これ以上、この話を続けるのは危険だ。アカウント的に。
「オカトラノオ、御免」
てい、と手刀で当て身する。
オカトラノオが正座のままガクンと項垂れた。
「ところで、何故平地の敵陣営が王国軍の動向を把握したか疑問になっておいででしたねスイレンさん」
「サツキさん、その腹話術のようなものは意味があるのですか? むしろそちらが疑問になり先の疑問が霞んでしまいました」
俺の奇行にスイレンさんが困惑するが、これぐらいしないと、また少女達の猥談に引き戻される。
「居るんですよ。ハイビスカス内に」
「居るとは……?」
「侵略者と内通する支援者が」
「裏切り者が居るって!? まさか!!」
スイレンさんが青ざめるのも分かる。ハナキリンさんがセクショナリズムに固執するって言っていた。エルフという共同体に置いて強固な集団としての個の結束を意味していた。
「最初に違和感を感じたのはランギクくんの事件でしたよ。犯人が偶然あの子を捕捉したにしては強行がすぎるんです。そりゃあ指示する方は焦ったでしょうね。兼ねてより防犯に定評を得たオカトラノオの師匠一行が訪れたのですから」
「あの、恐れ入るが、腹話術みたいなのは意味があるのですか?」
……無いな!!
「コホン、スイレンさんから仔細を伺った時から内通者は考えたさ。探りはオカトラノオがよく立ち回ってくれた。犯人特定の報は早い段階で受けたけど、同盟前の他国の要人相手なら迂闊はできないよなぁ」
立ち上がり膝の土を払う。ガザニアも立ち上がると、頭を垂れるオカトラノオの背後に回り肩に喝を入れた。凄い気合いだ。
「ハッ!? オレは一体!?」
「いやはや、流石は眠りのオカトラノオ。大変な名推理だったな」
俺が適当に持ち上げると、少し思案して「なるほど」と膝を叩いた。
「我が眠りを妨げる者に呪いあれ!!」
調子に乗り出した。
それだと起こされるたびに呪詛を振り撒いてるんだが?




