257話 マグロ攻略戦
多くのかたに読んで頂き、またブックマークなどを頂きまして、大変ありがとう御座います。
本作品はたまに昭和が顔を覗かせます。
兵站とはいえ物資を奪い合う姿は吐き気がする。
アイテムボックスも無いようだが、それ持って撤退帰国するのか?
……途中で本当に野盗になりかねないなぁ。
野放しにしていいものか迷っていると、影が落ちた。巨人が日差しを遮る。活動を再開しやがった。
緩慢な動作で丘の頂から前進し、そのままこちらへ滑り落ちる。シュールな光景だが、下で物資を集める連中にお尻からダイブした。
難を逃れた奴らが右往左往する中、手を突いて青白い肉体が立ち上がる。
……。
……。
マグロの頭部は口をパクパクさせるだけで思考が読めない。
うぃーんとゆっくり左右を見渡す。
状況を精査してるのか? だったらこのままお引き取り頂くことも。
左右に揺れるマグロ部分が正面でピタリと止まり、エルフの森をレンジする。
駄目だ、コイツ最初に入力されたコマンドがまだ有効だ!!
マグロの部分が小刻みに震える。
次に止まった瞬間、再び口がパカンと開いた。
光が中心に収束すると、コッ、と空気を焼く音と共に光線が放たれ――今度は森の入り口に直撃しやがった!?
森林地帯が燃え上がるのを、地面に伏せて眺めた。
イチハツさん、流石に初撃で退避してくれてると思いたいが。
障壁を張った形跡が見えない。
クランとガラ美の動きもだ。無事ではあろうけど、再展開してるのか?
第一学園の時はマリーのボタンに加え、魔王陛下の青騎士ならびにSSランクの冒険者で総殴りにし沈黙させたんだ。
俺一人でどうなるってものでもあるまい。
シャマダハルのワイヤーを頭上に射出し、キマグロの手首に巻き付ける。そのまま跳躍して奴の膝に取り付いた。
「稼げる時間はあっても、決め手が無いのではな!!」
解除したワイヤーの先を巻き取り、再び次の目標を探す。
次弾射出まで15分はあったけど、丘から滑り落ちた時間も込みだからもっと短いかな。それまでに頭のマグロを潰したい。最低限、口を塞げば何とかなるか?
体捌きスキルを駆使し上を目指す。頭頂、というかマグロまで5分は掛かる。
……マグロまで5分って何だこのワード?
どのみち射撃口の付近で三撃目は俺の死だ。
「だからってさ!! 次はどこに打ち込まれるか分かんないなら!!」
今回が使い納めかな。
奴の胸元まで登る。ストレージにはいつもの時計塔が控えていた。光線の射出タイミングが最後のチャンスだ。
マグロの頭が小刻みに震えた。
来る……そこ!!
奴が口を開く動作を見せた刹那、オダマキ領都から連れ添った時計塔を発射した。鋭利な先端と質量が頼りだ。
……正直、早まった。
「――クション!!」
射撃が計算より早いと思ったらくしゃみかよ!! チキショウ騙された!!
射出した時計塔は先端から奴のくしゃみの余波を受け、分解しつつ閉じた口バシに当たって崩壊した。
ついでに俺も、巨人の胸元から落下する。
例によって地面に叩きつけられる前に、どこでもシャマダハルのワイヤーを奴の指先に絡め着地した。
頭上を見上げる。
ダメージは通ってないな。ふらつく程度か。ていうか頭のアレ、魚類じゃなかったのか? 鼻も無いのにくしゃみって。
いや、それより手持ちだ。
後は……マリーのお札がどこまで通用するか。残りの、文字通り手札をまとめて口に放り込めば或いはって所か。
再度、シャマダハルを構えた時だ。
こちらに迫る騎馬があった。フォレストディアだ。手綱を握るのは……ガザニア、来ちゃったのか。
「登られますか!!」
「マリーの札を全ベッドする。それでも五分だろうな」
「ワタクシなら八分、いいえ十分にもっていけます」
ガザニアの背からイチハツさんが顔を出す。
「君も来ちゃったのかよ!! 退避するんじゃなかったのか!!」
「射程距離から見てアレの背後が一番安全かと思い、お連れしました」
「ガザニア、そんな方便を。本人やる気満々だよね?」
負傷等は無いようだ。何度か野薔薇撃ちを騎馬隊に当てているから、あとは体力の問題か。
「森の中でも危険なのは変わりません。確実性を取るならワタクシも連れて行って下さい。近距離用のとっておきがあるんです。鏃も沢山頂きました」
「最初からそのつもりで来たか。了解だ。第一優先は君の安全だ。少しでも達成困難だと思ったら撤収する」
撤収してどうなるってものでもないけど。
「副案としては共和国方面へ誘導を試みる。コマンダーからのオーダー式のようだが、注意を引ければ進路変更ぐらいなら」
「次は届くと予想しますが」
実際、森の入り口は焼いた。ならその奥だって。
「可能な限り飛び道具に縛りを入れたい」
「ブロッケン外しですな」
「何だそりゃ?」
たまに意味不明な言葉が出る。
イチハツさんを見る。本来は最優先で退避させたい。この子や他の令嬢に頼るのは違うって分かるから。
「手があるって言ったね?」
「ワタクシの奥義は魚類にも効果が期待できます。超近距離での撃ち込みは、例え相手がカジキであっても一撃良く葬り去るでしょう」
凛として答える姿は、初めて会った頃を思い出す。
ていうか、何でどいつもこいつもマグロに拘る?
「俺に命を預けてもらう事になるよ?」
「望む所です」
いいお返事な事で。
「ガザニアはそちらの判断でいいから下を頼むよ」
「承知」
彼なら良く立ち回ってくれるだろう。フォレストディアでイチハツさんを回収したってことは最初から織り込み済みのはず。
「クランたちの動向は分かる?」
「補足はできてません。足がないなら徒歩移動かと。敵の馬もまとめて蒸発しましたからな。俺のはイエローブロッジ殿から預かった分です」
見張り台の大樹まで戻ってたのか。そこで借りたって事は、俺たちの鹿は居なかったのかな。スイレンさんなら鹿呼びの何かくらいできるだろうけど。
「了解した。イチハツさん、失礼するよ」
彼女の細い腰を抱き寄せる。
あまりの柔らかさにゾクリとした。こんなに細いのか。
勢いで俺の胸に顔を埋めてしまった彼女が、小さく「あんっ」と甘い声を漏らしていた。




