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256話 巨影咆哮

 共和国側本部は騒然としていた。

 数的優勢に反して成果が出ない。進軍いついての騒ぎではなく、その責任の所在についてだ。


「お、お待ちを!! 今しばしお時間を!!」


 こうしてまた一人、司令官の怒声により士官が処分される。

 悪循環だ。


「たかがエルフの蛮族如きにいいようにされおって!! この不始末をどうつけるつもりだ!!」


 いやそれお前の仕事やろ。


「もはやアレを出すしかあるまい!!」

「「「!?」」」


 士官たちの間に緊張が伝播する。


「制御が効く今こそ使いどころだ!! 解き放つぞ!!」

「しかし、アレで事態を打開したとしてその後はどうなさいますか?」

「そんなものエルフ共に何とかさせれば良い!! 連中とて我が共和国の一つの民である。ならば我々のために尽力するのは当然の義務ではないか?」

「た、確かに」


 確かにじゃねーよ!! 何する気だよ!!


「拘束装備の解除を許可する!! 先行型自立歩行兵器を前線へ投入せよ!!」

「ハッ!!」


 士官が敬礼し出て行く。

 どうしよう。ついて行くかここで状況を見るか。


 間もなく、足ぞこに地響きを感じた。

 質量が動いている?

 そういや自立歩行と言ってたな。トロル、いやドラゴン系でもテイムしたのかな?


「おお!! 来たか!!」


 司令官がずかずかと天幕を出て行く。

 残りの士官と共に後に続いた。


 見上げていた。

 戦場とは反対方向。丘陵の向こう側を。

 質量は影となり、そして青白い実態となって陽光を遮った。


 ……って、何故アレが!?


 体のいたるところから拘束具と思わしき鎖を垂らし、丘を這い登りこちらへ渡ろうとする巨人がいた。頭部に張り付いた顔の左右で感情の無い目がギョロリとした。

 頭がまるまるマグロ。異界のキメラ、キマグロだ。それも既に合体バージョン。何でこんなものを所有してるんだよ!!


「これならば!! これならばわたしの面目も立とう!! いいやハイビスカス群部を治めた功績を持って中央に上り詰めることも容易い!! これならば地位も約束されたようなものだ!! いけいっ!! 忘れられた世界の化け物よっ!! いってやつらをねだやしにしろっ」


 口の端から泡を吹きつつビシっと指差す。

 って待て待て、治めるのに根絶やしにしてどうすんだよ!!


 呼応するように身じろぐと、巨人はマグロの頭を小刻みに左右に振った。

 俺の頬が、空気が収束するのを感じた。これは、熱が奪われている? まずい!!

 とっさに平地を見る。

 軍勢が進軍する先で、閃光が二か所から放たれていた。

 クランとガラ美はまだキマグロ巨大バージョンに気づかない。

 第一学園じゃ確認できなかったからって、オダマキ領都の奴と同系統だったらアレが可能だ。

 咄嗟にストレージからシャマダハルとマリーの(ふだ)を取り出す。

 まだ間に合う、アイツらなら!!

 先端に札を括り付け、頭上へ放った。

 ――どこでもシャマダハル。ワイヤ―の刃先のみ亜空間を通して標的へ飛来する。

 上空に刃先が現れた瞬間、先端に刺したマリーの札が爆炎を上げた。


「何事だ!? 敵か!?」


 司令官がギロリと空中を睨む。

 その程度の時間はあったんだ。アイツらには十分だろう。

 札の爆炎は、それだけで黒い煙を空中に散らし、直ぐに薄れた。

 マグロの頭が止まった。

 パカン、と口が開く。

 周囲の影が濃さをました。口の中心で光が収束するのを見て、シャマダハルをストレージに放り込み地面に伏せた。流石に踊り子スキルの回避盾は間に合わない。そもそも、共和国軍の士官らが右往左往する中で一人でステップ踏んでたら変な人じゃん?

 空気が熱を含み、一気に爆風を辺りに巻き散らす。

 平原からは目を離さなかった。

 ギュン、と光の線が右から左に舐めると、次の瞬間、進軍する共和国軍を巻き込む形で上空へ向け、祝うように爆炎の壁がせりあがった。


「くそっ、えげつない」


 着弾地点はおろか、火線上で進軍していた歩兵や騎馬は巻き込まれたな。全滅、いやこれもう消滅だろ。

 炎が上がる直前、二か所で防壁の光りが小さく見えた。

 ガザニアの方は分からない。

 すぐに風が押し寄せた。空気の流れが激しい。耳を庇い口を開けていたが、立ち上がっても、おぉぉぉ、というキマグロの唸り声が耳に痛い。

 それ以外は、周囲は静かなものだ。

 エビメラと効果か範囲が違ったのだろう。共和国司令部に居た連中の大半が、余波で吹き飛ばされていた。

 あれだけぎゃーぎゃー騒がしかったのが嘘の様だが、耳障りなのが消えてくれて少しは過ごしやすくなったよ。


「これは、どう言うことだ……?」

「司令官はどうした? 前方の兵が消えたんだぞ?」

「まさか逃げたのか……?」


 生き残った士官がちらほら集まってきた。

 被害を間逃れたヤツ、割と居るな。

 初撃以降、キマグロに動きはない。クールタイムか。間隔、どれくらいだろ?


「……ソイツだ。俺は見たぞ。本陣が吹き飛ぶ前に、その女が空で爆発を起こしやがった」


 司令の近くに居た士官の生き残りか。


「こいつか、こいつが余計なことをしたせいで」

「おい女!! この責任をどう取るってんだよ!!」

「そ、そうだ、本国になんて報告する気だ!!」


 俺のせいじゃないし。あと女でもない。


 ……まぁいいか。


「分かった!! 総司令部へは私が説明しよう!! 責任もだ!! 貴官らのこの地での任務は終わった!! 総員、本国へ帰還するのだ!!」


 ばっ、て右手を払い宣言する。

 これで大人しく従ってくれれば楽なんだけどね。そんな訳にもいかないか。

 コイツらは無視して、キマグロをどうするかだが、


「よぉし、だったらお前がなんとか治めろよ!!」

「後は任せたぞ!!」

「いいか? お前の責任だからな!! お前の!!」


 あ、みんな帰っちゃうのね。

 生き残りが散乱した荷物や物資を奪い合い、抱えきれなくなると足早に立ち去る。


 ……山賊かよ!!

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