253話 フォレストディア
ある意味260話に向けた伏線回。
「案内を頼んでも問題ないだろうか?」
ハナキリンさんにお伺いする。ランギクくん本人にではない。親族ならこの場の保護者は彼女だろう。
「場所はワタクシも把握してましてよ。サツキさんが同道されるのなら、ランギクちゃんが望む以上は拒否できないかしらー」
「お預かりします」
「よろー」
なんか軽いな王妃。
旦那があんな状態だから色々諦めがついたのか?
「ガラ美は念のためこちらで待機だ」
「は、はは、はいいい、仰せのままに!!」
「?」
「な、ななな、なんでもございませんっ!! 見覚えのある館だなぁと思ったら、既知の幽霊の気配に今頃気づいただなんて、そんなやましいことなどあろうことも無く!! え? ていうかあの人、プルメリア国王陛下の隣で何やってるんですか?」
心当たり……ああ、この館は先に寄ったんだっけ。ネクロシルキーが何か言ってたな。オカトラノオと語ってたわ。
「お前、あまり他所様に迷惑をお掛けじゃないよ」
「でも凄くよかったんです。ご主人様があまりにも苛めて下さらないから、ですからわたくし……。」
ざざッとスミレさん達が距離を取った。うん、分かる。あ、俺か。
「き、きき、君は何を口走っておるのだ」
これには動揺も隠せない。
「そういえば、ダンジョンで会った時も会うなり、こう足を広げてしゃがみ込んでいたわねー」
ハナキリンさんまで!?
「解放の儀式になります」
「引くわねー」
ガラ美……置いて行くのは危険か。
とはいえガザニアにお嬢様がたの面倒を見せるのは筋違いだ。俺のお目付役だもんな。
ええい、背に腹はかえられぬ。
「そういえば、足のムッチリ具合は只者じゃないんだよなぁ」
ハナキリンさんが「あらー」と照れたようにブルンブルンするがお前じゃねー。
身を庇うような仕草でスミレさん達がさらに距離を取った。
分かってるよ。だからそんな目で見るなよ。
慨世に憤りつつ沈黙すると、
「呼ばれた気がしたわ!!」
「よし釣れた!!」
召喚成功。失ったものは大きいけどな!!
館は収納せず仮拠点のままとした。ネクロシルキーが真面目に防壁を務めれば、スミレさん達を任せられる。
今度こそ勝手にフラフラしないよう因果を含めた。
あとガラ美は連れて行く。あそこの中に居ちゃ駄目な気がした。
「フォレストディア?」
「スイレンくん達もそれで行ったはずよー?」
簡単な指示出しの後、ハナキリンさんの案内で王国近衛軍に紛れ込んだ。プルメリア王がやかましいお陰で、誰も俺たちに気づかない。いいのか精鋭?
「二頭ぐらいならすぐにはバレないかしら」
目指す先には……成馬ほどの鹿の群れが居た。
30頭は繋がれてるいる。馬の代わりにこの子たちが森林地帯での足になるらしい。動員された軍の人数と合わないのは大半が歩兵だからか。
俺は騎乗スキルがない。乗馬は一からの修練になる。アセビやコマクサのように意識が人寄りなら別だが……これ鹿だもんなぁ。
「ランギクくんは乗れるのかな?」
「お任せです」
得意そうに微笑む。むむ。これ、可愛い。
「ならもう一頭は」
「お任せですな」
二、三人ぶっ殺してきたような澱んだ表情で微笑む。いや怖いって。
「それでは待ていてください。パクって来ますので」
逞しいなエルフの王妃。
森鹿を疾走させる。新緑を讃えた梢も、倒れた古木の幹も何なく回避し最大戦速を叩き出していた。ガザニアと俺、ランギクくんとガラ美の組だが、二人ともうまく操って見せる。
「縁外までどれくらいだって!?」
「近いです、8キロ程度!! スイレン兄様が三人乗りなら始まる前には並びます!!」
ランギクくんにしては張りのある声だった。
だが残念なお知らせがある。
足を王妃様にパクらせた割には、実は切迫していない。
クランが先行したなら、初動は完然を期す。問題は落とし所だ。アイツ、割と容赦ないから。
「最近ガス抜きさせてなかったからな……。」
「重要なのはムードでは?」
肩越しに指摘してくる。
「俺が唱導するのはおこがましいですが、これでも妻帯者です」
「マジかよ!? 奥さん菩薩かよ!?」
「……俺の事を、何だと思っておいでです?」
どう見ても殺人鬼なんだが。
だがキクノハナヒラクの近衛隊青組十一位ともなれば、縁談には事欠かないだろう。
尚、菩薩ってのは勇者の世界の神々のカテゴリだ。
「そりゃさ!! 王都の夜景を見ながら乾杯だってやりたいよ!!」
「普段の行いを言っています。局所的なものじゃ響かないでしょう?」
「そりゃそうだけどさ!!」
なんだか最近、パンツ越しにアイツの温もりを感じるだけで幸せなんだよな。いいや、この感じ方が独りよがりって事か。
「できれば改めたいので、その時間が欲しい!!」
「ならばこのガザニア!! 身命を賭して刻を稼ぎましょうぞ!! 今夜いかがです?」
「よし、頼んだ!!」
思わぬ所で話がまとまった。
クラン・ベリーよ。最愛の人よ。覚悟するがいい。明日の日差しは眩しいと知れ。
「あのっ!! でしたら!!」
並走するフォレストディアからガラ美が声を掛けてくる。
「わたくしも見学させて頂いてよろしいでしょうか!!」
「よろしくねぇ!!」
「わたしも、混ぜて頂きたいの、ですが」
「今度ばかりは遠慮してくれ!!」
そんなやりとりをしつつ暫く進むと、遠くの大木に人影が二つ見えた。




