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251話 戦利品

「設置された仮想敵性コアはハイビスカスの伝承や聖遺物、ないしは宗派に帰属するものでは無い認識でよろしいか? それと迷宮の出土物に対するアニミズムなども含めて」


 ハナキリンさんに念押しする。

 他のエルフ達から男物のコートを着せられていた。流石に薄着のまま、というか露出着? という訳にはいかないか。


「ワタクシが保証します、ご安心を。調査報告を聞いていたのですが、外部からの侵入者に荒らされた痕跡も確認できました」


 欲を言うなら一札(いっさつ)を入れたいところだが、いいだろう。

 ならコレはダンジョンドロップアイテム扱いになる。


「なら俺から。結論から言うと、仮想敵性コアの排除並びに沈黙に成功。機能をアイドリング状態のままストレージに保管した。冒険者ギルドの規定により、先の条項から探索行為のドロップ品として扱われるが、ハイビスカスの行政的に不都合があれば冒険者ギルドの執行部と掛け合って欲しい」


 都合よく奪われない方便だ。


「サツキさん」

「おう」

「はいっ」


 ばっとコートの前を開けやがった。いや中身はさっきの民族衣装に軽装備なんだけどね。ちゃんと着てるんだけどね。

 隣でガラ美が恐ろしい物でも見たように目を見開いていた。


「どう言う事!? え、これコアを収拾アイテムとして俺が占有するって話だったんだけど、どう言う事!?」

「うふふー」


 おいおい、笑っとるで?

 他のエルフ達も目も当てられなく、顔を覆っていた。


「ちゃんと着てましたー」

「知っとるわ!! その奇行は何だと言っている!! 見ろうちの末っ子なんてトラウマ植え付けられてんぞ!!」

「エルフの女性怖い、エルフの女性怖い……。」(ガクガク)


 両頬に手を当て恐怖に口元を引き攣らせていた。

 いや君もそこまで怯えんでも。


「スタンピードは冒険者サツキ殿とそのパーティによって回避されました。迷宮もなりかえるありさまかな」

「お、おう」

「探索で収集したアイテムの所有は正当な権利です。あと、今のはサービスです。取っておいて下さい」

「いらんわ」

「そう言わずに。サツキ様のまにまに」


 ググッとコートを開いた体を押し付けてくる。

 うわ……何もかもこちらの意図を汲んでくれるんだ。


「……ご主人様は、このようなものがお好きなのですか?」

「当然だ」


 反射的に答えたら、ガラ美が冷めた目になっていた。

 通路の奥に向かってラッセルが「ウォンっ」と吠える。全員の視線がその先に向いた。主人の窮地を救ういい子だ。


「こちらに――向かって来ますな」


 あ、何か察知したのね。

 ガザニアがわずかに眉を寄せる。気配を探ってるんだ。俺よりも索敵に優れているのは、一介のSSランクと帝国青組百人隊長との差だろう。


「あれは、上で何かありましたかな」


 走ってきた四つ足の姿にエルフ達が身構えた。


「灰色オオカミだと!?」

「まさかこのダンジョンにこれほどの高ランクが!?」

「王妃様は我々の後ろにお隠れくだされ!!」


 テキセンシスだった。

 つまり、先ほどから共に居たラッセルは灰色オオカミと認識されて無かった。犬だ。

 そして今、犬がもう一頭加わった。

 メッセンジャーだ。首に何か括り付けられている。


「心配には及びません、冒険者サツキ殿の従魔ですね。ほら、こちらの子と同じ種族です。家族か同じ群れかしら? ご覧なさい、あんなに懐いてます」


 ハナキリンさんが指す先で、すんすん、すんすん匂いを嗅ぎながらガラ美の周囲を周回していた。

 暫くそうしていると、こてんと倒れ込んだ。


「どういう意味ですか!? 今日はまだ漏らしてませんよ!!」


 元仲間がコイツらと雷獣・鵺の餌食になったが、むしろ好感を持って接する仲だ。いや好感? 匂いに参った?

 どうやら、相当キツイらしい。犬系には。


「戻ったら一風呂浴びろ」

「ご主人様まで!? さきほどはギュってしてくださったのに!!」


 悲しそうに顔を(しか)めるガラ美の隣で、


「はいっ」


 とコートの前を開ける仕草をすると、テキセンシスが飛び跳ね「グルルルゥ」と警戒音を発した。


 何やってんだよお前らは……。




「やはりダンジョン溢れは落ち着きましたか。これもサツキ殿とお仲間のおかげです」


 上階層の様子に、エルフ達が胸を撫で下ろす。


「いや、世話になったのはこちらだよ」


 ガラ美の生存率には、調査で命を失ったエルフの戦士も関わっている。発端がプルメリア王とはいえ、そこは感謝に絶えないさ。


「上が気になります。急ぎましょう」


 ハナキリンさんが急かす。テキセンシスの首にぶら下がっていた木簡には、グリーンガーデン時代に嗜んだ仲間内の暗号が綴られていた。


『エルフ王軍、迫る』


 読み上げた俺の声に、ハナキリンさんが蒼白になった。


『先のワタクシの宣言、貴方たちにも証言してもらいます』


 エルフ達に言い含めるのは、王軍の標的に仮想コアの所有権が含むと踏んだのか。

 彼女の言葉を一方的にこちら寄りと断じるのは禁物だ。

 20名の探索チームのうち外へ伝達に離れた者がいないとは言い切れない。俺たちがボス部屋を攻略中に、プルメリア王がその報告を受けていないとも。


 ……とか怪しんでると思われてるんだろうな。


 仮にコアを接収して、よく再封印できるものか。持ち込んだヤツだって設置時に初期起動をかけたはず。こんな危ないもの、最初から回収予定に無いんだろう。


「テイキッリージィ」

「? 何でしょう?」


 俺の謎の言葉に、ハナキリンさんがコートの前を開く手を止める。


「どこかの言葉で気楽に行こうぜって事だ」

(おもんかば)りなく言うふまじきことと……そう。配慮させてしまったのね」


 おっと野暮だったか。

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