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25話 白い部屋で3

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


次回で白い部屋編も終わりです。

(本来は1話分でやろうとしてましたが)

 それは、つまり――俺は死をも超越してしまったのか。


「勝手に超えないで下さい。今、現世(うつしよ)に残った身体を通じ生命の源に類似する何かが、貴方の魂に因を結んでいますが……いえ、本当にこれ、何なんでしょう? ちょっと邪悪な気配も含まれてるのですが」


 口ぶりだと俯瞰してる訳でもないか。

 俺の肉体は健在なのか?


「傷は治癒されています。ご友人の僧侶が中級回復術(ハイヒール)を継続的に施したおかげです。器たる肉体の維持も相当に摩耗するはず。もし戻る事ができ、戻るつもりもあるのなら、彼女に感謝することを忘れずに」


 サザンカが……。


「その子だけにあらず。皆さんが、貴方を蘇生せんとこの因縁尽くに抗い尽力されてます。とてもよい巡り合わせを成しておいででしたのね」


 皆が?


「はい。感じるに、4人の女性が貴方の魂と接触を試みています。わたくしだって憧憬もしましょう。一人は僧侶。先ほどの僧侶の少女。幼少の頃より貴方の傍にいらっしゃる。今なお懸想を抱かれる健気な少女」


 は? それは逆だぞ?


「こほん、失言でした。お忘れください――なんて意地らしい子でしょうか」


 お、おう?


「彼女が術式を執り行っておられます」


 なるほど。多少邪悪な念が入っても不思議じゃないな。


「一人は、やはり貴方との旧知の仲でしょう。魔法使いの娘。もし戻ることがありましたら、どうぞ彼女のパンツに顔を埋めてあげてください。いえ、これ以上薦めるのは反則になりますね」


 いや、それもう俺の呪いと関係あるよね? 多分、それ解呪手段だよね?


「あら、わたくしは何も。おや? 今、貴方の頭に脱ぎたてを被せたかもしれません」


 何やってんのアイツ!?


「脱ぎたてホカホカのぬれぬれですね。……ん? ぬれぬれ? んん?」


 いや、ほんと俺の肉体どうされてんだよ!?


「そして一人は……これはまた変わったご縁。黒い騎士の影幻が見えるのですが、魂は、貴方より少しだけ年上の娘でしょうか。中々にたわわに実ってらっしゃる」


 何を見てんだ? ていうかクロユリさんまで助勢してくれてるのか。

 グリーンガーデンへの同行は、リスクが伴うはずだ。


「己の危険など顧みるに値しないのでしょう。それほど慕われているということを、どうかお忘れなきよう」


 必ず。


「そして最後の一人……誰でしょう?」


 4人居るって言ったな。ワイルドじゃないのか?


「その方は、貴方よりも年下の女性でしょうか?」


 むしろ俺の方がそう見られたていたな。

 なら――いや、待てよ。その子は、もしや巨大な猫の姿をしていないか?


「それは何の諧謔(かいぎゃく)ですか? 貴方とは一方ならぬ関係があるというのに、どうしたのでしょう……何かに阻まれて正体がよく見えません……宿屋の従業員?」


 何で混ざってんだよ!?

 いや、滞在先の宿泊施設でオーナーから見合いの紹介されたけど、命を救うほどの関わり方してなかったよ?


「……そこは良い縁に恵まれたということで」


 それ言えば通じると思ってるだろ!!

 縁自体が胡乱なことになってんぞ?


「しかし、これは(ことわり)瑕疵(かし)すら認める命の奔流。このような行為、只では済まないでしょうに……。あっと、すみません。わたくしとした事が、一度泣かされたせいか口が軽くなってしまったようで」


 いや、わざと聞かせてるだろ。

 俺に選択を迫る腹積もりだな。


「そのように聞こえまして?」


 しらじらしい。

 彼女らに危険が及ぶと聞こえるが?

 まさか、己の生命力を引き換えにしてるとでも? なら、やめさせろ。俺なんかの為に、そこまで危険を冒すことはないはずだ。


「たった今この一瞬だけ、わたくしは貴方を軽蔑しました。あーあ、何で男ってこいうのわからないのかしら」


 え、あ、うん?


「失礼。彼女らがどんな代償を払おうと自身に課した決意を如何程の腐心の末かと思えば、他の誰に否定できますでしょうか。例え、蘇生対象である貴方に恨まれても」


 だからって、アイツらの命を危険に晒していいわけがない。


「ここに届く息吹。生命は……感じるに、死に至るまでの犠牲を払う事は無いようです。これに関しては謝罪します。脅かし過ぎました。ですが、よほどの外部からの支援が無い限り一生涯に関わる代償は必ずあります。死人(しびと)帰りの禁呪に等しいのですから」


 向こうの状況、こちらで把握できないのか?


「そうですね。今なら貴方の魂と印と因が結ばれていますから、それに基づきシュプールからの演算と映像への組替も可能ですが、如何に思惟を巡らそうと魂側への負荷は否めません」


 察するに懊悩する余地も無ないだろう。検討した所で何が得られる訳でも無し。

 やってくれ。


「わたくしに、そのような残酷な事を仰るのですね。傷ついた魂の回復は肉体のそれとは大きく異なります。ましてやあちらは蘇生を試みているのですよ? 貴方は事を分ければ納得される方と理解していますが――。」

「話は聞かせてもらったよー!!」


 弾んだ声と共に、左手の空間に細かい亀裂が入った。刹那、硝子片を巻き散らすように女が二人飛び出した。


「ちょっと、貴女たち!!」


 転生の女神が悲鳴を上げる。

 出て来たのは、もっさりした少女と小さい女の子だ。

 もっさりの方は、ろくに手入れもせず伸びるがままに髪を伸ばしていた。前髪の間から覗く瞳はやはり美しいが、まるで化粧っ気がない。薄水色のドレスを着崩している――というか、着方がだらしいないな。ブルーがかった黒髪も、ちゃんとケアすれば綺麗だろうに。

 小さい方は、明るい髪を左右で結っていた。猫のような目と、人懐っこい笑顔が印象的だが、他の誰よりも胡散臭く感じた。薄桃色のドレスの胸元は、やはり背丈に見合っていた。あ、八重歯かわいい。


「どうして貴女は空間を飛び蹴りで蹴破っちゃうんですか!! 修復するこちらの身にもなってください!!」

「来ちゃったー!! リンちゃんが若いツバメさんを連れ込んだってンニョちゃんから聞いたから、来ちゃったー!!」


 小さい方は、人の話が聞けないようだ。


「わ、わ、若いツバメとか、そんな!!」

「失礼ねー!! ちゃんと聞こえてますー!!」


 余計タチが悪いわ!! あと、ちゃんと否定しろ転生の女神。


「こ、こ、この子が、お、お、男の子? ふひ、か、可愛い……ふひひ」


 怖いよ!! こっちの子、やばくね!?


「ンニョちゃんはー!! 今はちょっとー!! くつろぎモードになってるのー!!」

「ふひひ……。」


 おいおい、笑っとるで。


「じゃあ、ハイどうぞー!!」


 ちっこいのが、勢いよくもっさりのドレスを捲る。

 やたらと装飾のある紺青(こんじょう)の布地が見えた。


「きゃっ、何をす……み、み、見た?」


 心を読んでるなら、まぁ、その通りだけど。

 むしろ可愛い反応に戸惑ってる。


「マイヒのはー!! こんな感じー!!」


 浅黄色の布地だった。

 これ、どういうルールなんだ?


「耽溺してるのかって思ったー!!」


 どこから聞いてたらそうなるんだよ!?

 反駁していいか? なぁ、反駁してもいいのか?


「もっと見るかー!! もっと見るかー!!」

「ど、どうして、私の、ス、スカートを捲るのっ!?」


 聞けよ!!


「どうだー!! どうだー!!」


 そうだな。怯懦(きょうだ)な性格に見えてその実エレガントとは。やりおるな。


「ひょ、ひょ、評価を、く、下さないで」

「貴女たち……何を競っておいでなのです?」


 言いながらお前も捲るな。


「ふぅ……来てしまったものは仕方がありませんね。まずは、紹介しますね」

「シ、シ、シンニョレン……君の、その、じゃなくて、あ、あっちの、世界では、真如蓮と、綴る……。」

「はい、はーいっ!! 舞妃蓮でーす!! あ!! マイヒレンでーす!!」


 ……ほんと濃いの来たな。


「こほん。シンニョレンは異世界より招かれし者に選定を下す女神です。そしてマイヒレンは、転移する徒人を受け持つ女神です」


 召喚の女神と、転移の女神ってわけか。


「そんな感じー!!」


 元気いいね。


「本当はー!! 誰もこんなテンション求めてないってわかってるんやー!!」


 闇が深いな転移の女神。

 あ、そうか。さっきの……申し訳ない。失言だった。凄くいいと思うよ元気っ子。


「えへへー!! 許すー!!」


 召喚の女神の方は、これで大丈夫なのか? 失礼だが、既に不審者の域に達してるようだが。


「特に、ひ、人、こないから、ふひ、も、問題ない」

「呼び召しの儀式すらー!! もう行われてないもんなー!!」


 そういや三人しか居なかったか。


「折角来てくれたのです。お二人とも、斧正を請います。常世経由に干渉を仕掛けられていますので、その呼び水をメインパスにし、わたくしが制御しますので」

「わかるー!! 魂が受ける負荷をマイヒたちで請け負うー!! びびびー!!」

「び、び、びびびー、ふひ」

「では行きますね、びびびー」


 三女神が掌を向けてびびびー言ってる。

 特に何も感じないが?


「さ、さ、サツキが、感じないように、してるから」

「!? シンニョレンがもう名前呼び!?」


 珍しい事なのか?


「いえ、その、まだわたくしだって名前でお呼びしてなかったので、少々焦燥感を覚えるというか、その」


 呼んでみるといい。


「えぇと、それでは。サツキ……さん」


 おう。


「サツキ、さん……。」


 おう。


「ふふ……サツキさんサツキさんサツキさんサツキさんサツキさn」


 怖いわ!!


「こほん。では、映像に出します。もし苦しさを感じたら仰って下さいね。それと音声までは入りませんのでご了承ください」


 正面の空間に巨大なスクリーンが現れ――って、なんじゃこりゃー!?

つい先日年が明けたと思いましたら待っていたのはまた七草だった。迎春の後に住み着いた御節とネの日の遊び。三が日が食い残したソドムの餅。ナズナとスズシロ、スズナとゴギョウをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここは七種がゆの白い部屋。

次回「白い部屋で4」。

来週もサツキと地獄に付き合ってもらう。

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