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248話 ハイビスカスの迷宮

上級者再登場

「予定通り二手に分かれる」

「……つまり……挟み撃ちの形になるわね」


 クラン何太郎だろう?


「挟まない挟まない。いやだからハナキリンさんとネクロシルキーはアップしなくていいから」


 お尻と太ももをアピールしてくる。うん凄い。


 多分……挟まれたら人間が終わる。


「館の敷地でゲート口は塞いだ。ここを攻略しない限りダンジョンへの出入りは叶わないよ。ハイビスカスが大国から侵略行為を受ける現状、地上に戦力は残留したい。コマクサ、後は頼んだ」

「ぶるるぅ」


 任せろと言わんばかりにいななく。

 最大戦力だが、グレートホースをダンジョンに連れ込むバカは一人でたくさんだ。


「わ、ワタクシたちに馬をけしかける気なのね!?」

「黙れネクロシルキー。何かあった時の伝令にラッセルを連れていく。こちらにはテキサンシスを残すから、非常時は(ふみ)を持たせてくれ」


 そこまで言うとスミレさんが何かを察した。


「お一人で潜られるおつもりですか? 危険です」


 そんな危険な場所に末の弟子が一人で探索してるんだよ。


「もともと俺付きのガザニアには同行してもらう。ガイドとしてハナキリンさんも」

「無為徒食のつもりは無いわー。お任せくださいー。」


 軽いなおい。


「でも不足の事態になれば先に撤退してもらうよ?」

「りょー」


 不足の事態がどの程度かは想定できないけどね。


「拠点チームはクランの指揮に従いたまえ。ヴァイオレットの騎士諸君もそれでいいな?」

「お嬢様と分断れて知らぬ隙に取り返しのつかぬ性癖を植え付けられないのであれば、もうそれだけで」


 ネジバナ……。


「そろそろ新しい扉を開いてもいいかと思っているわ」

「お嬢様!!」


 ……ひとまず人選に誤りはなかったか。


「サツキくん……お姉ちゃんが居ないからって……ハナキリン様に無礼を働いたら……三倍返しだからね?」


 俺、何返されるって?




 痕跡から戦いの壮絶さは予測できた。壁に床にと、破壊痕が至る所に残っていた。自動修復がされない? キャパが均等に分配されないのか。異常事態の影響かな。


「現在フロアはクリア、と。今のでもかなり湧いたほう?」


 通常運転を知らないと、これが多いのか少ないのか判断しかねる。

 スタンピードは、質ではなく生成量の均衡に異常が出た場合に起こる。強さは関係ない。


「歯応えがないですな。これならイワガラミでも問題ないでしょう」


 四足ワンコ系の魔獣の一陣を掃討した所だ。ガザニアが張り切っている。俺に良いところを見せたいらしいが。


「火炎系の痕跡は彼女か、ブレス持ちが居たかだが……その辺はどうです?」


 刀身の短いレイピアを降り敵の血痕を払うハナキリンさんの後ろ姿は、エルフだけあって一服の絵画のようだった。


「例ならずあやしとおぼしけるに、こほん、いえ、火吹き持ちは最深部でも確認されてないかしら。魔術系ならこちらの調査団も考えられるわ?」


 思わず方言になるのを、ネクロシルキーの口調で胡麻化していた。


「まだ6層だ。うまく合流してくれていればいいが」


 一番の望みは行き違いでとっくに外へ出てくれる事だが、この密度ならどこかで戦闘の気配があるはずだ。


「先へ行こう」

「ではこちらです」




「うわー、ぎっちりだよ」


 7層に降りてすぐ、スライムが敷き詰められた通路に出た。


「ハハハッ、このフロア自体が連中の胃袋のようですな」


 笑ってる場合か?

 何でそんなウキウキしてるんだよ。


 ……あ、いつもの俺か。


 ガラ美の件さえなければ絶好の狩ポイントだこれ。ひと段落したらソロで潜ろうかな。ふふ、楽しみ。


「と、経験値稼ぎは別腹だ」


 ストレージから一枚のお(ふだ)を出し呪文を唱える。スペルは解除キーだ。アイツの仕込んだ術式が、小さな魔法陣と共に展開する。


「俺の後ろへ」


 二人に指示し、札を投擲する。

 水平に音も無く前進する。ある地点で小さなか光点が灯ると、一気に火炎が湧き出し前方の通路を舐めた。

 スライムの弱点としては定番だ。但し、火力が弱いと火が負ける。


「とっておきだったけど、仕方ないな」


 コンガリ焼けましたって訳にはいかないが、ひとまず通路のスライムを一掃した。

 マリーの置き土産は強力すぎて使い所が難しい。あと、これ使うと経験値にならない。


「それは……お母上の」

「ん? どこの母上かは知らないけれど。あの子のだよ」

「左様で」


 ガザニアも、もとはマリーからの紹介だ。帝国親衛隊の百人隊長格を顎で使いやがる。なるほどね、それでお母上か。


「遠回しに言ってくるな。記憶は曖昧でも予測はつく」

「では、そのように振る舞いましょうか?」

「このままでいいよ」


 記憶が戻ったら全部がご破産、てのは寂しいよ。

 それは嫌だな。




 次の通路もスライムでぎっちりだった。札を使った。

 次のフロアもぎっちりだった。札を使った。


「……なぁ、もういっそコレで1階層埋めてしまえば中のモノ外に出れないんじゃ」

「言わないでください」


 ハナキリンさんが困った顔で答える。

 マリーのお札、消費は抑えたいが。うむむ。


「エルフは一通りの魔法を心得ていると聞いたが?」


 ガザニア。早く言って欲しかったな。


「火炎系とは相性が悪いのー」


 と胸を揺らしながら否定してきた。

 森の民の王族だからか? そのムチっとしたのが邪魔だからか? 凄い質量だな。


「あと105枚か。帰り道の分も必要だしなぁ」

「どれだけ頂いたのですか、とっておき?」

「いや、あいつを喜ばせるごとに一枚、また一枚と……。」


 お互い、まだ見合い相手と意識していた頃だ。

 まぁ、なんだ。見えない所では色々可愛がったから。


「いとまばゆき、人の御おぼえなり」


 え、何て?


「いえ、失礼。大切な人からの贈り物なのですねー」


 ハナキリンさんが目を細める。

 誤解だが、誤解と言い切れないのがどうにも。


「まぁここで使うしかないんだろうけどさ」


 新しい札を出す。

 放つ前に通路の先で明かりが灯る。向こう側からこちらに向かって来た。ファイアーウォールだ。


「巻き込まれるぞ!!」

「下がってください!! レジストします!!」


 ハナキリンさんが日輪印の構えで両手をかざす。

 スライムを消滅させつつ押し寄せた炎は、彼女を中心に真っ二つに分かれた。


「火炎系呪文――ガラ美か!!」


 通路の先へ期待のまま声をかける。

 ゴリゴリゴリと壁や床を削りつつ迫る、飛竜の顔があった。


「ワイバーンですな」

「ここには居ないはずのモンスターも湧き出したわねー」


 飛ぶこともままならず、ジタバタと向かってきた。

 体の機構上、ファイヤーブレスは今の一回が限度だろう。

 しかし、何だってこんな無茶な進行を……。

 ラッセルがウォンっと吠える。

 続いて気づいたのは、意外にもハナキリンさんだ。


「お待ちになられて。あとの方より()でたる朱の衣に、覚え浮かぶものがありましょうや」


 とっさの事で方言がきつい。

 え、後ろ?


「すみませーん、どなたかいらしたらどいてくださいー!! トドメ刺しますー!!」


 聞き覚えのある少女の声がワイバーンの背後を追っていた。

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