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246話 ハナキリン

結局いつものノリです。

「一度、目を閉じて下さい。解きます」


女性の声に、大人しく従う。


「目を瞑っている間に何をする気だ、エルフの女よ」

「目を瞑っている間に……サツキくんにえっちな事をする気ね……?」

「お前ら少しは協力しろよ!!」


「えーと、どうしましょう……?」


瞼の向こう側で、女性の声はただ困惑するばかりだ。うちのがほんと、すまんのう。




移動しているのは分かった。

白い霧の粒が、冷気となって頬を撫でるのに、体に纏わりつく熱気は明らかに熟れた女の温もりだ。苺さんやアザレア王妃に似た、濃厚な蜜のような香りがする。

足底の調律が効かない不安定な感覚は、視界が閉じたせいだけでは無いだろう。

鼓動が、少しだけ早まるのを意識した。




眼瞼(がんけん)を開くと、スッキリした視界に新緑の濃淡が眩しかった。濃厚な霧は無く、木漏れ日の列が朝露を照らし輝いている。静寂が嘘のように、鳥の(さえず)りが頭上を巡った。あぁ、祝福アレと謳う。


「さっきの連中は? ヤッたのか?」


周囲にはうちの身内しか居ない。自称何ちゃら先遣の集団は見えなかった。


「人聞の悪い、そんな事――が出来るならとっくにやってるわー? 道知る人も無し、まどい行きぬらむ」


金銀に輝く絹のような長い髪が目を引いた。

ランギクくんじゃない。スイレンさんよりももっと大人びたエルフの女性だ。

そしてハイビスカスにおいて初めて遭遇するハイ・グラマラス(突出箇所が凶悪)。それでいて、落ち着いた物腰は幽艶(ゆうえん)の化身のようだった。


「だめ……。」

「?」


クランが彼女との境界線を作るように割り込む。

女が小首を傾げると、虹のような色彩を放つ銀髪がサラリと波打つ。さっき嗅いだ濃艶な香りが鼻孔をくすぐる。


「サツキくんの……好みだから……そんな目で見ちゃうから」

「あら」


扱いに困ったという風なクランに、彼女は楽しそうに声を弾ませた。


「いかなる事といぶせく思いても、いとけなき子にそういう目で見て頂けるだなんて、ワタクシ、困ってしまうわ」


豊満な自分の体を抱きしめるように、おどけて見せた。

はやり、妙な訛りが混じるな。


「す、すごい」


スミレさん達が思わず生唾を飲む。

うっかり見惚れた。

クランが不安そうに見上げてくる。これは不覚。

女が体を揺らす。

身じろぐ仕草も嬌艶(きょうえん)だ。

我知らず、見惚れた。

違う。

蒼い瞳に射抜かれていた事に、しばらく気づかなかったんだ。


あぁ、明眸(めいぼうな)な体のラインの見せ方も蠱惑なら、臈長(ろうたけ)る微笑みに棲む両目の(ゆが)みこそ妖麗か。


俺の不躾さを不快に感じたかと思いきや、逆に、悩ましげな視線で秋波(しゅうは)を送ってきやがった。

くそ、わざとやってやがる。


「サツキぃくぅん……。」


隣りでクランが、ワイルド(兄貴)そっくりな、ぶっ殺しそうな視線で睨んできた。やばい!! クセになりそう!!


……話を進めよう。


「今の霧、靄? 質量すら感じた。迷宮のようなものと推測するが」


自分で言って心当たりに思い当たった。


「鬼門八陣の迷宮……結界か」


俺の声色に、エルフの女は身じろぐのをやめ、表情を引き締めた。


「なんの事はございません、たかが目眩しです。あちらには別な場所へ、進んで頂きました。お散歩程度の距離だから大きな声はダメよ?」


間延びした喋りだが、納得はした。

エルフの森は迷いの森でもある。そのカラクリの一端か。


「それで、ランギクくんが来るはずだったが?」

「代理、ではご納得頂けないでしょうね……ハナキリンと申します」


エルフの王め。

替え玉を寄越しやがったか。ん? ハナキリン? それって……。


「何卒、お気をお鎮めになって下さいな。私にとってもランギクは可愛い甥っ子です。臣下の方と違い冒険の経験も浅いあの子をしのびなく思う気持ちは陛下に同じ」


勝手な言種(いいぐさ)だな。


「こちらは新人をいいように扱われた詫びと受け取ったが? それも反故にされては立つ背がないと思うんだけどねぇ」

「名目は急病につき、急遽代わりを立てさせるだなんて姑息なこと。甥っ子を案じる想いは一緒でもこれは不義理であると心(やま)しくおもしく。それで国王殴って出て来ちゃった」


……。

……。


「謀反かよ!!」

「いまいましくぞ思いければ、あの人に愛想がつきたのよ!!」


頭を抱えた。

夫婦喧嘩の後始末まで回して来たっていうかのかよ。


「うちを口実に秋の契りだなんてやめてよ、ほんと……。時間が惜しいからチェンジでとも言い難いが、まさか王女殿下とは」

「王室に入る前はアザレアでSSランクだったのよー?」


盛ってきやがった。いや元冒険者は助かるか。


「お姉ちゃんには分かるわ……サツキくん、困った風を装って実は極めてテンションが上がってる事を」

「お姉ちゃんちょっと黙ってて」


クランのジト目に、ハナキリン王女が「まぁ!!」と口元を手で隠す。


「こんなオバサンでもそういう目で見てくれるのねー!! 極まりてたふときものと!!」


何んだその手の動きは!?


「むしろ……サツキくんのストライクです……。」


君もその手の動きはやめろ!!


「これほど可愛らしい子たちに囲まれてるのに」

「一応……私とは恋人関係にあるので、控えて頂けると」

「混ざっちゃったらダメ?」

「……ダメ」

「貴女にも色々教えてあげられるけどー?」

「……許します」


懐柔早いな!!


「案内役としても戦力面でも不足は無いと自負します。あと正直お家に帰りずらい……。」


旦那殴って飛び出して来ちゃったんだもんな!!


「ランギクくんに拘ったのは意趣返しだ。立場を思えばそれ以上の誠意と受け取るよ」

「それはつまり……そうやすやすとはこの身を解放はせぬと仰せですね」

「そうなるかな」


人質としての価値が大きい。

最初は女を充てがうことで手打ちにしやがったと憤慨したけど。


「わかりました。イワガラミさんの心意気こそ、聞きしにも過ぎてたふとくこそおはしけれ。ワタクシも覚悟を決めましょう。この体は如何様にもお好きにして頂いて」

「うん違うよ?」


妙な方言で身悶えするな。あとお嬢様方が三歩離れた。


「こんな熟れた体では御座いますが、どうかお慰みに」

「そこから離れよ?」


クランがジト目で足を蹴って来た。

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