244話 王のスタンピード
読んで頂き、またブックマークなどを頂きまして、大変ありがとう御座います。
もう少しだけオッサンのターンです。
246話で本編の本名登場。
「実のところ、もう一つ問題があってな!!」
いいから少し落ち着け!! 何か着ろ!! せめて履け!!
「ハイビスカスが擁するダンジョンにスタンピードの兆候があるのだよ」
「むしろ今お前の股間がスタンピードだよ!!」
ぶっ、と乙女たちが吹き出した。
クランも肩がぷるぷるしてる。
余計なこと言っちゃった!!
「仕方がない。誰ぞ!! ガウンを持てい!!」
最初からそうしろよ!!
湯上がりエルフみたいな王だが、大分マシになった。
「王都より南東に構えるダンジョンだが、国家間にはおおやけにしておらなんだ。でな、人間国の冒険者が探索に入らないことから、定期的に戦士団でモンスターの間引きと生体調査を行なっていたんだがね、どうにも」
秘匿されたダンジョン。先祖から代々受け継いだ的なものか。
彼の真意が那辺にあるのか、ここからが本番だ。
……いや謁を通じてまで得たのが王のフルちんとか、意味わかんないから。
「まぁ特にエルフ特有の何かがあるってわけじゃねぇが。ほら、人類系が出入りして死傷事故にあったら処理が面倒じゃん?」
「面倒ですね」
ダンジョンの所有権を持つ場合、入場する冒険者の管理権限と運用費徴収が認められる。その一方、彼らに対して一定の補償が発生する。国によっては保険の強制加入だってある。お互い、winwinであってこその迷宮特需なんだ。
「あるタイミングから魔物の計測量が増えてな。間引きと生成数が反比例しちまってたのよ」
「問題視されてる? という事はシーズン的なものではないのですね? 繁殖期とか。増加してるのとそうでない魔物の差別化はできているのですか?」
「おもての奴らならその可能性もあるんだがね」
渋い顔というか、苦笑い?
おもてってのは、地上の野生種か。
「今回は全ての種で増殖が確認されてるのよ」
「人為的なものですね」
即答で結論づける俺に、おぉ、と感嘆の声が湧いた。
懐疑の視線が尊敬のそれになる。なんか気持ちいいな。
「ほう。その心は?」
「周期が違うもの同士でテリトリーや捕食に区別できる要素があれば、一度に全部だなんて歪すぎるんです。指数関数的に右肩上がりした所で、ある地点で増殖自体が崩壊しちゃうから」
「そのように都合良くコントロールが効くとは思えんが」
プルメリア王の唇が笑いの形に歪む。コイツめ。見当がついてて惚けてるな。
「そこは調査頑張ってとしか」
こちらもシラを切る。
ダンジョン溢れまで面倒見切れるか。
「まぁその辺は、冒険者に調査クエストを受けてもらってるがね」
「……ギルドは通されたのですか?」
「後付けでも達成報告に基づく受発注の締結が可能と聞いた」
余計な知恵を付けやがって。
「だからって使節の先遣だって理解しておいででしょうに」
「後から来るご主人の為に良好な関係を保つだなんて、健気じゃねぇか」
この野郎。
「舎弟の誠意につけ込まれて、相互信頼がなきゃ開拓の提携だって。なのに間尺に合わないんじゃ」
「そりゃそっちの都合だろう? おっと睨むなって、こちらも人材派遣の準備は進めているさ。でもよぉ? そいつらだって本国の情勢が不安定なら気がきじゃないわな」
最後の言葉は、既に空吹く風と聞き流した。意味が見い出せないんだ。
少し、喉が渇いたな。
「わかりました。ならダンジョンの所在をお聞かせ願いましょうか」
「案内を付ける」
「ご高配には及びません。場所だけ教えて頂ければ」
「いや到着するまで時間かかるよ? 素人じゃ足元だって危ないから。な? 案内するから、な?」
「こちらのペースだってあります。他勢に追随して立場を変えられますかって」
「迷っちゃうかもよぉ?」
……。
……。
折れ時か。
陥穽に陥そうって意思は感じない。あとは意地の問題にしろ、寸毫も謀られてやるものか。
「ダンジョンの存在はハイビスカス民なら誰でもご存知ですか?」
アプローチを変える。
「そりゃ、エルフなら皆んな知ってる。表に出ないってぇぐらいで子供だって履修する常識内よ。各学校の課外授業じゃピクニックのコースにもなっていたなぁ」
いいね。だったら。
「結構です。こちらは戦力面は揃っていますので、気心の知れた人をお願いしたく存じます――案内人にランギク殿を希望します」
「なっ」とプルメリア王が口をぱくぱくする。
「道中の護衛は万全です。実績はお見せした通り。こちらは二手に分け、探索は俺とこちらのガザニアで入ります。待機組も充分な戦闘力を維持できます。ランギク殿はそちらに」
「待て、待て待て」
慌ててる慌ててる。
「我がエルフの民とはいえ、この子はまだ幼い。子供なんだぞ」
「イワガラミもそうでしょう。使節任務ならまだしも、春秋に富む者に単独での調査任務など。如何に危険なクエストかご理解頂いていない様子だ」
「受けたのは彼女だ」
「でしたらボクも、わたしも案内を受けます」
ランギクくんの澄んだ声が、サングラスの向こうの表情を情けなく歪めさせた。
「お前なぁ、オレがどれだけお前のことを」
「案内まで終えれば外で待機になります。わたしを救ってくれた手練れが共に居てくれます」
これがトドメだった。
「……分かった。出発まで、サツキ殿達は城でもてなそう。ゆるりとされよ」
「いいや、ダンジョン方面で開けた場所があれば使わせて欲しい」
「都市から出るのか!?」
何気なく言ったつもりだが。そんなに?
「仮拠点を移設できるから。今晩だけの展開だけど冒険者には珍しく無いよ?」
「待ってくれ。ならば、こちらは明日朝の合流でいいよな? な? ほら準備とかあるし。な? な?」
出発までは同行の必然性は無いか。
「合流後の行動となるが、ダンジョンまでの時間はどれくらいになります?」
「我々で6時間といったところだ」
通常ならニ日がかりの換算か。俺としてもその時間は惜しいな。
「了解しました。では、キャンプの場所を確認いたしたく」
有無を言わさず切り上げた。
ひとまず面目を施したと納得するか。




