表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

241/390

241話 ハイビスカスドリーム

 そして入相(いりあい)。夜の気配が忍び寄る頃合いに、木々の影が一層濃さを増す。

 到着した村は、先の僻村(へきそん)より一回り規模を発展させていた。アンスリウムに多くある近代建築の規矩準縄(きくじゅんじょう)が伺える。トレーダーとの交流成果か。

 村の中央には遠目で分かる庁舎が、建物の合間から覗いた。やはり役場施設はドーム型だ。


「本当に二つ目の村まで来ちゃうとは。一日の行程じゃないよ」

「王城までもう一つ街があるから。明日朝に出れば昼前に入るだろうね」


 さすがに夜間移動は避けるか。

 当初の話から換算して、二日後って事は到着してすぐ謁見かな?


「宿屋は繁華街寄りだろうか?」

「高官向けの宿泊施設を利用してもらおうと思って、手配しているよ」


 いつの間に。

 にこやかに言ってくれる。柔らかく品のある物腰にお嬢様がたの受けもいいときた。


「ほんと座持ちがいいんだから」

「?」


 おっと怪訝に思われたかな。


「いや。ここにきて待遇が良くなったよ」


 オカトラノオの師ってのもあるんだろうけどさ。


「ランギクの恩人だからね。精一杯もてなさせてもらうので覚悟してくれたまえ」

「お言葉に甘えさせて頂くよ」


 なら、この時間に到着するのも計画の内かな?

 エルフの国での最初の夜の、幕が切って落とされようとしていた。




 次々と並ぶ料理。

 そして様々の果汁と混合されたグラス。名産のラム酒だ。

 光に美しい体のラインを透すドレスで、見目麗しい美貌の給仕が優雅に行き来し酌をしてくれる。全員男だけど。

 彼らが何か話し合う姿を見るたびに、お嬢様がたの間から黄色い歓声が上がった。


「どうぞ、おつぎします」


 か細い声で酌をするのは、こちらも可愛らしいドレスのランギクくんだ。

 年相応の少女に見える。


「ぐぬぬ……。」


 恋人がほぞを噛んでいた。クランが給仕するわけにはいかないもんな。


「サツキお兄様は、お強いのですね。とても素敵です」

「可愛らしい子がついでくれるからね。ついお酒が進んでしまうよ」

「か、可愛いだなんて……!!」


 自分の手を当て振る頬が恥じらいに染まった。

 男の子相手に何やってんだろ?


「でしたら、でしたら!! 今夜はサツキお兄様の部屋にお伺いしても……よろしいでしょうか?」

「泊まる気ね……泊まる気なのね」


 ていうか、お兄様、だと……?


「させない……そんな事……。」

「是非とも、ご勘案を頂きたく」


 瞳が潤むのはひたむきさからか、或いは幼いながらの劣情か。


「ぼく――わたし、サツキお兄様とクランお姉様の為に、たくさん尽くしたいです」

「サツキくんこの子いい子」


 秒で懐柔されやがった。


「言っとくが、ランギクくんが居るならアレは無しな?」

「……え? どうして……そんな意地悪をいうの……?」

「子供の前でやれるか!!」

「いっそ混ざる手も……。」

「無いよ?」

「サツキお兄様、わたしなら大丈夫ですよ? 話は伺っています。夜になるとサツキお兄様がサツキお姉様になるって」

「誰から聞いたよそれ!?」

「あ、違った。ハナモモお姉様だ」

「スミレさん!! 子供に何吹き込んでるんだ!!」


 エルフの男性達の距離感にきゃーきゃー言ってる集団から、ひときわ鮮やかなドレスが抜け出た。


「どうしたのです、サツキ様。グラスが進んでいないようですが? さぁさぁ、お飲みになって? 珍しいお飲み物がこんなにたくさん」


 いや呂律が回ってないけど?

 大丈夫か? かなり強い酒だぞ?


「サツキくん……飲も? お姉ちゃんと一緒に飲も?」


 って、お前も何杯目だよそれ!?


「サツキお兄様、さ、さ、飲んで飲んで。もっと。ねぇ、もっとぼくの、飲んで? 飲み干して? もう一滴も出ないくらいに、全部」


 いい加減にしてくれ。遠くでお嬢様がたがモジモジし始めた。




「触られた瞬間……凄くドキドキして、ここがキュンてなって……。」

「大丈夫、それは玉ヒュンってやつだ。普通だ」


 我ながら適当にも程がある。


「わかる……その気持ち、わかるよ……。」


 おちんちん触られた話し何で分かっちゃうんだよ?


 クランがベッドに腰掛けさせ、手際よくランギクくんの服を脱がせていく。

 着々と男の子を剥いていく恋人に一抹の不安を感じていた。


「サツキくんに触られて……私もじゅんってきちゃうから……。」


 おいやめろ。

 話をやめろ。

 脱がせる手も止めろ。


 そして全ての外装をパージした時。

 アザレア国王立第一学園付属中等部の制服が着せられていた。


「思った通り……似合うわ」


 そう言う彼女は一学の制服だ。ハナショウブに対抗したのか必要以上に裾が短い。太ももが眩しい。


「これが人類系の、夜の衣装なのですね」


 違うよ? 学校の制服だよ?


「ランギク……。」

「お姉様」

「タイが曲がっていてよ」


 今さっきお前が着せたやつだけどな。




「りんご……。」


 朝。俺の隣でランギクくんが謎の言葉と共に瞼を開けた。


「目覚めて最初の挨拶がそれか? え? 食べたいの?」

「んー」


 と愛らしく鼻を鳴らして、俺を見つめてくる。


「成りたい、かな?」

「人間やめる気でいるよこの子!?」

「転生したい」

「リンゴに?」

「果汁100%」

「いやその時点で絞られてるから」

「喉越し最高」


 会話にならないようでいて、なってる気がしてきた。怖い。


「何……この空間……?」


 クランですら一歩下がっていた。

 そっちも起きたのか。


「あれだけ飲んでおいて、君はザルか?」

「どっち……?」

「ラム酒の方だよ!! 何で選択肢が出てくんだよ!!」


 いや、こちらも腰が軽いのであまり責められないけど。


「お父様の血筋は……基本的に強いから」

「流石は辺境領の蟒蛇(うわばみ)だ」

「待って……誰が蟒蛇(うわばみ)よ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ