234話 ハイビスカスコンタクト
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「74話 青騎士の中身」の前書きで、今後の予定「悪役令嬢(から婚約者を奪う)編」とありましたが、今更ですが全く違う形になりました。
現れたエルフは一人。あちこち露出した衣装から惜しげもなく鍛えあげた筋肉を披露していたこのマタギスケベスギル。
相手から視線を離さず、周囲を探る。
鵜の目鷹の目って訳にはいかないから、把握は七割って所か。知悉じゃないがエルフが迂闊に顕露を許すはずがない。森に入る前で良かったよ。
「じゃあ隠形が無いって事はそれ自体が示威行為かな?」
本気でこられたら七割も怪しい。
「サツキ様。定番の弓だが、弓術は人類系人間とは雲泥と心得て頂きたい」
ガザニアが小声で忠告する。眼球だけで周囲を探っていた。やっぱり狙われてるか。
「ハイビスカスサーカスなら承知している」
標的に対して自動追尾するんだろ?
「あの、遮蔽物や経過時間による距離の変化に依存せず射抜くと聞きます。事実でしょうか?」
イチハツさんも弓使いなら興味を引くのは頷ける。
「弓術とは思わなくていいよ。君の固め打ちは純真に研鑽した末に到達した技だけど、彼らのは魔術だ」
彼女にだけ聞こえるように言ったつもりだけど、
「魔術とは無礼な」
エルフ耳いいな。
「体質だ」
「そっちの方がすげーよ!!」
ハイビスカス以外じゃダークエルフも使えるから、エルフってのはそういう生き物か?
森に潜まれちゃ最強ってのは納得だわ。
ここは穏便に。
「名乗りが遅れた。アザレア国から追放同然でアルストロメリア方面の開拓を一任された、冒険者のサツキという」
「見た目の美少女ぶりに反しておちんちんが付いてるんだから」
「そこのネクロスシルキー、少し黙ってて――この度、開拓プロジェクトに合わせて貴国との提携をお願いしたくアザレア国王より書簡を預かってきた」
「もはや情報量が多すぎて……。」
エルフが挫けそうになっていた。
「分かるー」
うっかり同意してしまったら、
「多分、サツキ様にだけは言われたく無いと思いますわよ?」
「スミレさん、辛辣だな」
「今となっては正しい物の見方と理解できましてよ」
逞しくなっていた。
「一人で姿を見せたと言うことは、貴公が当座のハイビスカス代表なのだろう? 頑張って!!」
励ましていこう。我ながら無責任の極みだ。
「うむ、お優しい言葉、かたじけない」
良いように捉えられてしまった。このまま乗っからせて頂くぜ。
「では、取り次を願いたい。即答もないと心得てるから、返答を頂戴するまで数日はここに拠点を構える次第だが」
「一晩で館を庭ごと顕現させやがって……その逆も容易と言うわけか?」
「うちのネクロスシルキー次第だよ」
俺と彼の中間でぷかぷか浮かぶハナショウブに目を向ける。ストレージは明かしたく無い。彼女の能力と誤解して頂こう。
視線を感じたか、
「ワタクシ、進化を止めない女だわ?」
空中で踏ん反り返っていた。いい性格してんな。
「ネクロス……シルキー? 所謂、家に付く精霊ではないのかね?」
三歩後ずさられた。ネクロスというくだりが引っかかるようだ。
「ワタクシをその辺に転がってる精霊と一緒にしないことね!!」
お前の同類がその辺に転がられても困る。
ていうか、よく人のスキルでドヤれるな。
「なるほど。森に着く精霊には心当たりがあったが、人類系の国ならではの憑きものという分けか」
人類が誤解されちゃったよ。
「その人類の国の王から書簡と言ったな? 冒険者か。剣士クラスと見受けるが、騎士ではないのだね?」
「職業を言ってるなら、踊り子だぞ」
エルフが眉を歪めてこめかみを押さえた。うん頑張れ!!
「人類国が何をしたがってるのか分からん……。」
「アザレア国だ。身分は先の通りだが立場は行政に置かない」
そこは事実だけを噛み砕いて頂くしなか無いな。
「追放と聞こえたぞ」
「ていのいい厄介払いだ。貴族どもの恨みを買っている。庇ってくれたのが王族なら、一大開拓プロジェクトも一任されよう」
「おちんちんと聞こえたぞ」
「サツキが男の名前で悪いか!! 俺は男だよ!!」
「……いや名前ではなく、見た目がな、その、すまない」
素で詫びられた。ちきしょう。
「俺のおちんちんはどうでもいい。訪問に先んじて遣いのものを伺わせたのだが。行き違いになったか?」
ピクリとエルフの長耳が動いた。何かあったか? いや、やらかしたか?
「遣いだと? その者の仔細は言えるか?」
名前、性別、背、出発時の格好を詳細に伝える。
「それと出産経験は無い」
「その子なら知ってるわ?」
俺とエルフの間で女の声が弾んだ。
視線の集まる中、シルキーは記憶を探るように小首を傾げた。
「マリーさん達が来る前に一人で訪れたわよ?」
……。
……。
「「全員立ち寄ってた!!」」
俺とクランがハモった。
「え、何? どうしたのかしらサツキさん?」
「すまない、どうやら身内が迷惑を掛けていたらしい」
あの面子が寄った後ならこのネクロスキー(ネクロスシルキーの訳称)も警戒するだろう。あの夜仕掛けてきたのはそういう事か。
「いえいえ。貴方達も相当な迷惑だったわよ?」
……なんかすまん。
「人の館で特殊なプレイをおっ始めた上にその姿のまま追いかけ回されたんですから」
「特殊な……プレイだと?」(ゴクリ)
こらエルフ、そこに食いつくな。
「偏狭だと罵られても、そこの可愛らしい奥様に女学生の格好をさせ白タイツを縦横無尽に弄ぶのは理解に苦しむかしら」
「なんと破廉恥な!?」
だからエルフ、食いつくなよ。
あと、姿は見えないけど森の奥から異様などよめきが押し寄せたのだが……?
そちらに注意を向けると、代表のエルフが咳ばらいをした。
「取り乱してすまない。我々は、その、人類系人間のそういった文化に疎く、その、貴公らの行為は刺激が強すぎてな。ところで――。」
俺の隣りを見る。気遣う表情を隠しもしない。
「奥方殿は、大丈夫なのか?」
クランが顔を耳まで染めてふるふるしていた。
「奥様……サツキくんの、奥様……。」
おのれ、こっちにも被弾していたか。
「彼女は特別な存在だがまだ婚姻は結んでいない。使節団の代表補佐と捉えて頂きたい」
「フィアンセというものか。承知した――なるほど。夫婦になる前に、そうした趣味に興じる事もあるのだな」
うんうん頷くエルフに、スミレさんがはっとして気づく。
「また人類が誤解されましたわ!?」




