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23話 白い部屋で1

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


本話から、サツキ視点に戻ります。

 気づくと、上下が分からなかった。

 左右は問題ない。

 お茶碗を持つ方が左で、右がお味噌汁だ。

 これがラーメンだと話が変わる。

 ラーメンを持つ方が左で、右がチャーハンになるからだ。

 違和感の正体はすぐに気づいた。

 体の重さが定まらない。

 だから位置も姿勢もぼやける。

 それぼど、目覚めた場所は白く、果てが分からぬほど伽藍堂としていた。

 前庭が狂うわけだ。


 ――転変を見た。


 振り向くと、長方形の輪郭が見えた。俺の背より僅かに高い。

 これで一隅を得たか。

 輪郭は次第に形を持ち、質量を持ち、重厚な扉に姿を変えた。

 いいぞ。基準ができれば自己の位置も定まる。

 身構えた。

 ゆっくりと開く。中に居る者がこちらに出ようとしている。

 頓て現れた全身の異質さに、俺は目を剥いた。それほどの異常であり、これはもはや怪異だ。


「はぁ〜、お風呂上がりの一杯は染みるわ〜」


 言葉の通り入浴後なのだろう。全裸で手拭いを肩に掛けた女が現れた。手にしたグラスにはエールが泡立っている。

 均整のとれたプロポーションだと思った。大きすぎず、小さすぎず。白く輝くような肌に、銀色の髪が銀糸のように纏わり付いていた。


「……。」

「……。」


 目が合った。星が瞬いたような珠玉の瞳だ。


「……。」

「……。」


 互いに硬直した。

 できれば、先に動いて欲しい。


「……きゃあ?」


 多分合ってると思う。


「そう」


 女は納得すると、背を向けた。腰とはアンバランスな、大きい尻が出た。


「少し、そこでお待ちください。いいから、いいから。おっとったらええがな」


 扉の向こうに戻ってしまった。


「お待たせしました」


 再び現れるまで、体内時計で1時間は経過していた。


「だって急に来るんですもの。こちらだって身支度以外にも資料とか準備があるのよ? 本当なら営業外なのよ?」


 全裸とは一転して白いドレスに、銀色の髪を綺麗にアップにしている。メイクは薄めのナチュラル系だが、素材が人間離れして美しいから、さっきのスッピンでも、いかなる言語の花も色あせそうだ。


「ふふ、さっき見た事は不問にしてあげます」


 凄かったな。


「えぇ、我が神威は凄いわよ? あら? 男の子、なの? とても可愛らしいけど、魂の色は確かに男の子だわ」


 無論だ。


「ふぅん、へぇ……少し聞きたいのだけれど」


 この調子で答えてればいいのか?


「どこまで見ました?」


 むしろ、見てない所があると思ったか?


「……わたくし、そんなに凄かった?」


 己で言っておいて何を今更。


「……そう……困ったわ。何かが開闢(かいびゃく)しそうで」


 それは俺も困る。


「ごめんなさい、はしたない所を見せて。綺麗な男の子なら今までだって居たわ。まさか魂の形まで女の子みたいだなんて、油断したわね」


 何とお悔やみを申しあげたら……。


「よもや死んだ人間に悔やまれるとは……。」


 死んだ?


「鬼哭するがいい」


 それは、あんたの体を見た事で?


「待て早まるな」


 それより、死んだのか? だったらここは。


「そう急かないで、早計は禁物よ。こんな所、誰もが来れるわけでは無いのですから。あちらの世界で命を失ったニホンの民が、まれにそちらの世界に訪れる程度よ。え? 貴方もニホンの民なのよね? 違う? 髪切った? 違う?」


 歴史上、召喚者は3人居たが、今の話は初耳だ。

 俺は、あちらではなく、もとからそちらの住人なはずが。


「あらあら。そちら側の大立て者の血を引いてるのね。父方が呼び召された血族で、お母様が輪転者かしら。それで誤認されてここに来てしまったのね」


 やべぇ。如何(いかが)わしさが半端ねぇ。


「むぅ。女の子に失礼な事を。篤実なわたくしでも拗ねてしまいますよ?」


 女の子、だと……?


「あ、今、若作りしてんなー、とか思ったでしょ? 自分の方が女の子っぽいってマウント取ったでしょ?」


 思ってない。というか、さっきから人の心読んでるだろ? 分かるよね?


「ふふ、戯れですよ。ゴッデスジョーク」


 いや、何なんだよ、この女。


「転生担当の女神です。好きな言葉は陥穽(かんせい)です」


 めっちゃ人に言っちゃいけない言葉じゃん。


「ちなみに、性転換担当の女神も居ますが紹介しましょうか?」


 俺を何にする気だ? 転生じゃなくて転性だよねそれ?


「それは貴方次第です。改めまして、わたくしはリンノウレン。貴方がたの端緒をなす世界では、輪王蓮と綴ります。彼の世界より訪れし魂の転生を司る選定者を務めています。選定と申しましても、人ではなく、付与する加護――貴方がたの世界でいうスキルやジョブといったもを与える役割ですが」


 突飛な話ばかりだ。ていうか勇者以外にも特殊能力に富んだ連中がいたのか。いや、俺の素性、何気に受け入れ難い……。


「変節は、欠点ではありません。厭世に傾倒する方が悪と定められます」


 そういう所が、眉唾だっていうんだよ。

 いや、もういいけど。

 あそこでの俺の役割は終わったようだし。小難しい事はいいや。適当にやってくれ。


「そんな、付さないで……わたくしを等閑に付さないで」


 大丈夫か、この女?


「うぅ……この唐変木」


 ただの悪口になったな。


「戻しましょう。先程の見解ですが、やはり特異な技能に関して申せば召喚されし者が群を抜いてます。わたくしとは担当違いですが、恐らくは最強かと。次点で流転されたかた。とはいえ、転移されたかたも、そちらの世界では高い異質を発揮しているはずです」


 結局、どれも異能者ってことか。気が滅入るな。


「そのような事、仰らないで。ですが少々、おかしな状態ですね。転生も転移も知らないご様子。貴方が性質上認識すらされないのは、あまりにも不自然です」


 初めて聞いたぐらいだからな。


「貴方は韜晦(とうかい)してるのではなくて?」


 否定する。心当たりが無いな。何を見ているのかわかないが、俺の中では事実だ。

 気を悪くしたか?


「いいえ。もう少し拝見します――。」


 あまり、じろじろと見るものではないよ。


「端的に言えば、記憶が欠落していると錯覚させられてますね。ですが、これは欠如ではない」


 されている、て所が引っ掛かるが。


「人が行為の反復によって獲得する習性は持続的です。社会規範みたいに、集団を支配する倫理的な性格に現れるのですが、それを個人に応用してしまったのね。故に、凝縮された規範は呪縛へと変質し――あぁ、8年もの間。定着してしまうには少なくない時間だわ」


 迂遠な言い回しは好きじゃない。

 胡散臭い女だな。それでも、ゆらりゆらりと揺蕩する形貌は優美都雅で、不覚にも見惚れてしまう。


「畢生の大術式だったようね。あら? ちょっと、やだ、そんな性的な目でわたくしを見てらしたの? もう! それならそうと言って下さればいいのに。ちらり」


 足を出すな、足を。


「……。」


 何を赤面している。


「いえ、意外に可愛らしい反応でしたので、何となく……。泰然とされるよりはいいのですが、先ほど全部見られたはずなのに、どうしてそのような態度が取れるのです?」


 そうか。やはり貴女は人間じゃないんだな。

 そのような楚楚とした姿ではしたない行為に及ばれると、目のやり場に困ってしまうのだよ。


「少年にはこちらの方が扇情的に映るのですね。心に留めておきましょう」


 気をつけてくれると助かる。

 それで、肝心な所だ。俺に何が掛けられているって?


「……わたくしの口からは」


 待て、女神たる貴女にまで強制力のある呪いだと?


「そのような代物では御座いませんので、その点はご安心を。まずは、お座りになって」


 いつの間に長ソファが。

 扉も自在に出現できるのだから驚かないが、やりたい放題だな。


「ふふ、何かお飲みになります?」


 何故隣に座る?


「照れてしまって。可愛らしいのですね」


 茶化されるのは好きじゃないな。子供扱いも。いや、待て。何故、しなだれ掛かってくる? ちょ、くっつき過ぎ。子供扱いでこれは駄目だろ!?


「可愛らしい子には、特別なもてなしを。貴方はそう感じないでしょうが、わたくしには長久の中で得た玉響(たまゆら)な想いの時。憐れに想って頂けるなら、どうかもてなされておくれまし」


 いらんわ!! だから太ももを触るな!!

 あと谷間も強調するな!!


「あぁ、視線が熱いです」


 どんなサービスの転生の部屋だよここ?

 えぇい、胸を撫でてくるな、胸を。

 少しは寂滅をこころがけろ。いい加減ハラスメントだぞ?

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。


長くなりましたので、3話に分割し投稿いたします。

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