229話 恐怖劇場 続・怨霊の住む館(前編)
本来なら夏休み向けに書いた恐怖劇場。そもそも私に夏休みが無かった。
ワタクシはこの館に囚われし亡霊。
先日は酷い目にあったのよ?
自分の快楽のためにワタクシを道具のように扱うだなんて。往古は忘れる主義なのに、思い出すだに慄然となるわ。
まぁ、律儀に掃除をして出て行ってくれただけマシだけれど。
それに翌日は快晴で、マットレスやお布団も天日干しができたから。果たせるかな清潔が一番、気持ちがいいわ。
……ワタクシ、本当に怨霊なのかしら?
しばらく、照り返すような日差しが続いたわ。
お洗濯も、シーツやカーテンといった大きなものが捗るから、つい張り切っちゃう。
毛布や羽毛布団も、余さずお日様のいい匂いに仕上がったわ。
そしてついに、彼女たちがやってきた。
短い平和だったかしら。
パーティは男性3名、女性3名。合コンか。
男性は騎士風。前衛に対して女性は後衛職のよう。合コンか。
何この旅の中でそれぞれカップルが成立する構成? ワタクシへの当て付けかしら? ん?
よぉし追い出そう。
さぁさ、おのおのがたお立ち会い。
恐怖、怨霊の住む呪われた館。開幕に御座います。ワタクシ今度こそ頑張るわ!!
まずは探索ね。各孤単独になった時を見計らい怪奇現象を起こし「何かある」を演出する。シムラ後ろ後ろってヤツかしら。
って、ろくに館を見ないで部屋割り始めちゃったよコイツら!?
あ゛? 不審なものとか使えそうなものとか探索しない? 無人の屋敷だよ?
え、手入れが行き届いてるから? はい、誰か最近まで住んでたんだろうって?
マメな性格が裏目に出た!! ぬかったわ!!
恐怖の館じゃなく、こ綺麗な館じゃなくて?
ともすれば、このまま宿屋営業出来そうじゃなくて?
――昨夜はお楽しみでした。
恐怖の一夜を思い出した。戦慄ものよ?
いけないわ。このまま飲まれては駄目よ?
ようし、いいわ。まとめて恐怖の坩堝に叩き落とすんだから。
まずは女子三人の部屋から、って一人だけ男三人の部屋に行っちゃったわよ!?
え? 他の二人は止めないの? 一番大人しそうというか清純派正統ヒロインみたいな子なのだけれど……弱みでも握られてるのかしら?
そんなのいけないわ。ここはワタクシがこの子を守らなくては。
まずは観察よ。
それで不貞な行為に及ぶならレッツ騒霊。或いは幻霊で……。
結論から言うわ!!
美少女におちんちんがあったの!!
おちんちんがあったのよ!!
どう言う事ですの!? 今の時代、女の子にも着いてるものなのですの!? 人類はそこまで進化してしまったというのかしら!?
ああ、でもこの前来た子は生えてませんでしたわ? ワタクシと同じ作りです。むしろワタクシと違いいっそツルツルで綺麗な色でした。
……すると生える人種と生えない人種に二分される?
ああ、神様は何故にそのような業を人類にお与えになられたのでしょう!!
もう何を信じていいのかわかりませんって万が一にも目の錯覚の可能性だってあるわ!! ここはしっかりと確認しなくちゃ!!
えぇと、さっきは着替えてる所を見ちゃったから……あ、ちょうどおトイレに入って行ったわ。
再確認した結果から言うわ!!
紛れもないおちんちんだったわ!!
排尿する機能もあったわ。ひょっとしたら固くなっちゃうことも……? あんな可憐な少女が? 最強生物なのでは……女神様はまさか究極生命体をお遣わしになったのでは?
そう言えば、一緒に居た教会騎士風の男たちがセイ女様って呼んでいたわ?
聖所様って書く方が性女様って書くより淫靡だわ。とてもね!! 公衆聖所様みたいに!!
でも聖女様の可能性も微粒子レベルで存在すると睨んでいたのよ? あぁ分からなくなってしっまた。セイ女が一体何なのか分からなくなってしまったわ?
騎士たちも大切に扱ってるようだし、下手に戦闘になって浄化されても困るし、ここはそっとしておくが手ね。
女性二人の部屋へ来たけれど、一人しか居ないわね。
今居るのは一番のお姉さんかしら。冒険者風の服装だけど育ちが良さそう。長いプラチナブロンドなんて旅の途中とは思えないキューティクルよ?
まさに傾国。
これほどの婉然が恐怖に歪む様は、ちょっと心が痛むわね。
端麗な容姿は愛てこそよ? ワタクシ、その点に関しては容赦しないわ?
そろそろ何しに祟るんだかわからいわ?
さて、どうしてあげようかしら。
ワタクシの手持ちの心霊現象だと……。
・叫霊
悲しげな声で相手を脅かすわ。
この前はガチで悲しかったけど。
・幻霊
何か一瞬ありえない物が見えたりするみたい。
よく「おわかり頂けただろうか」って言われるの。
・騒霊
頑張れば家具を飛ばせるけど当たると危ないわ。
振動を利用していい感じになるのはあの子が初めてだけれど。
他にも色々あるけど、下手したら命に関わるから封手ね。
よし、まずは叫霊ね。えぇと――。
「……。」
え?
「……。」
じっとこちらを見てるけど、まさかワタクシが見えている? え、よく見たらこの子、僧侶系冒険者の装備じゃなくて? さっきの教会騎士風の男や聖女様ってフレーズから可能性は考えていたけれど……本当に教会の手の者ですのッ!?
どうして教会の一団がこんな所に!?
まさか!!
ワタクシの討伐!?
訪れる人を恐怖の坩堝に落として施設占有した挙句、掃除洗濯天日干しまで好き勝手にやったせいで、とうとう教会が重い腰を上げたと言うの!?
どうしましょう? やられる前にヤリます? やっちゃって勝てます? 何かワタクシの方をじっと見てるんですけ
ど!?
どこまで通じる?
手持ちの心霊現象でどこまで通じるかしらッ!?
今できるのは、
・幽霊
幽霊を操って何か色々あって相手は死ぬ。
・亡霊
亡霊を操って何か色々ある。
・死霊
即死する。あと色々ある。
色々ありすぎじゃないの!?
ワタクシ、一体何になってしまったというのですの!? その辺に転がってる怨念の域ではなくてよ!?
と、とにかく戦闘スキルは駄目、封印。人に見せられらない。ある意味黒歴史。
もっと平和的な解決は……吸精? 相手を疲れさせる程度? もうこれでいいや。えぇと、相手を一晩かけて、ごにょごにょとごにょして、って初対面の相手に使えないじゃない!! こういうのはもっと手順を踏んでお互いの事を理解して――。
「戻ってきたわね」
そう戻ってきてからじっくりと、って何!? この後に及んで何が来たって言うの!? あ、この僧侶風の子。見ていたのはワタクシじゃない? 背後だ。ワタクシの後ろ。花のレリーフが掘られたドアだ。扉だ。
扉の向こうに何があるっていうの?
ガチャガチャガチャガチャッ!!!!
ひぃぃぃッ!? ドアノブが一人でに動いてる!?
ガチャガチャガチャガチャッ!!!!
それも盛大に!! ド派手に!! 一体何が居るっていうの!?
「開けて、ください……開けて……開けてよぉ……開けてよぉ……。」
ひぃぃぃッ!? 悲しげな少女の声が!? 一体この館には何が取り憑いているって言うんです!?
「もうサザンカさんったら酷いです……鍵まで閉めて私を追い出すだなんて……。」
あ、なんだもう一人の女の子の方だったのね。
お、驚かさないでよ。
僧侶の子も綺麗な顔をして意地が悪いんだから。入れてあげればいいのに。
「名前を言いなさい。あなたは、誰?」
扉に掛ける声はどこか緊張していた。
仲間の子じゃないの? オカッパ黒髪の幼い子。あら? ……ひぃぃッ!?
僧侶の子が腰掛けるベッド!!
その奥にある毛布の膨らみ!!
黒い薄手のタイツ(黒スト)に頭を詰め込んでびくんびくんってなってる子が居るわ!? 既に事件現場じゃ無いのよ!! 何やってたのよ!!
衣服からしてもう片方の女の子だろうけど、一体何をどうしたらこんな悲しい結末になるの? ていうか大丈夫なのこれ?
カリカリカリ
ヒィッ!?
外の子が爪でドアを引っ掻き始めた。あんたはあんたで何してくれてんのよ!! 館を傷つけないで!!
たまらず扉越しに頭だけ廊下に出す。さっきから乱暴に扱って!! 一言言ってやらなきゃ気が済まないわ!!
「ちょっといい加減にしてよね!!」
蒼白な女の顔が至近にあった。垂らした髪の間かからギョロリと濁った目がこちを見ていた。
「ひぃぃぃッ!!」
「あびゃぁッ!!」
同時に悲鳴を上げる。
「お、お、お化け!!」
「失礼ね!! あんたの方こそよほどお化けじゃ無い!! ワタクシよりベテランに見えましてよ!!」
チキショウ。ついに悪霊まで住み始めたわ?
おあとがよろしいようで(要するに続く)




