228話 恐怖劇場 怨霊の住む館
ワタクシはこの館に囚われし亡霊。
古風な住まいは、無人になり既に100年の歳月を風雨に晒していた。
ような気がするわ?
去年から滞在してるからよく分からない。建築様式が近代建築術と異なるのに、しっかりした佇まい。要所要所の華美なレリーフや装飾。排水設備。現代の継ぎはぎじゃない、言わば勇者の時代のものよ?
この好物件。見逃す手は無く、一も二もなく住み着いた。
そして自縛した。
自爆とかけてるわ? ゴーストジョークよ?
ある日。野盗っぽい集団がやってきた。拠点にするみたい。
言葉はアザレアのものじゃ無い。おそらく隣国。山賊では無いのかしら。工作員? 潜伏中?
分かったわ。共和国がバックのテロリストね。市民のフリをしてプロパガンダを叫び国政が混乱する隙に人々から資産を奪おうってのね。
産みのリスクも負わず横から出てきて何々すべきだーって奴は信用できないものよ?
いいわ、追い出すわよ。
さぁさ、おのおのがたお立ち会い。
恐怖、怨霊の住む呪われた館。開幕に御座います。
その夜。
慌てふためき逃げ出す野盗どもを見送ったわ。
勝利よ。
思い知ったか、先住権は我にあるのよ?
数日して、また来客ね。
旅人風の娘が一人。
小豆色と紅色の装飾が派手な、年若い娘だ。
一人旅とは物騒な。
訳ありの様子だけれど容赦はしない。押し入る様なら追い返すんだから。
「ごめんくださいませ」
控えめにドアノックを鳴らす。無論、返事は無い。ここで追い返してもいいけど、まだ様子見よ。
「旅の者です。夜分に大変厚かましい事では御座いますが、一晩、納家か馬小屋を貸して頂きたいのですが」
馬小屋!? なんて慎ましいの!!
「ご迷惑はおかけしません。明日朝には出て行きますので何とぞ」
こんな礼儀正しい子を外に放ってなんか、
「鍵も掛かっておらず、誰もおられないご様子。使わせて頂きましょう」
入ってきたわ。割としたたかだわ?
とことこと、何処へ行くかと思ったら2階のベッドルームへ迷い無く入って行った。
迷いなく? え、どうして間取り知ってるの?
「古い風習の作りと思いましたが、文献で見たものと同じ。近代でも100年前のものでしょうか。ベッドは……天日干しされてますね? どなたか住んでらっしゃるのでしょうか?」
しまった。ついマメな性格が出てた。
ワタクシにはもう不要なのに、ついシーツも洗濯しマットもテラスで干していた。ふかふかよ?
でも、よくその若さで建築物の造詣が理解できるわね。
「ベリー様のお屋敷の書庫で学びましたから」
どうしてドヤったの?
「ところで――先ほどから、覗かれている気がするのですが」
気のせい気のせい。
「そうで御座いますか。気のせいですか」
……。
……。
見えてる?
「まぁブラフなんですけどね」
なんだそうか。
さて、どうやって驚かそうか。
恐怖のあまり、その可愛らしい顔を歪め失禁なんかしちゃったりして。
待って、その場合、掃除するのはワタクシなんじゃ?
「もし誰かに見られていたら、これから起こるわたくしのあられも無い姿も、きっと見られてしまうのでしょうね」
何する気よ!!
って、勝手にベッドに倒れ込まないでよ。え、何? 何が始まるの?
「わたくし、出身はど田舎の農村で、そこで悪い男に利用されて旅に同行することになったのです」
何か語り出した。
「それはもう酷い扱いで。食べ物すらまともに頂けませんでした。そんな時、わたくしの一団が今のご主人様のパーティを襲ったのです。襲ったというより、恐喝ですね。資産や女性を奪おうとしたのです」
ところでコレ、ワタクシが聞かなきゃダメなのかしら?
「はぁ……結果は……惨憺たるものでした……はぁ……はぁ……。」
当時を思い出したのか、娘の声に熱のようなものが籠もった。
「わたくし以外は……みんな死の末路をたどり……一人残ったわたくしも……あぁ、涙と鼻水で顔を歪めて、卑しくもご主人様に命ごいをし……ハァハァ……わたくし無様に失禁をしてしまったのです……んん」
聞きたく無いわよ!!
って、何勝手に一人で始めちゃってるのよ!!
「あぁ、見られてる……何処の誰かも分からない人に……視線だけは感じます……。」
やっぱりワタクシに気づいてますのね!!
気づいてそんな告白をして見せつけるように自身を責め立てるというの!?
最近の若者はみんなこうですの!? 着いて行けませんわ!!
「わたくしのあられもない姿を覗き見している貴方……どうかこのまま、何も言わずにご覧になって……ハァハァ」
だーっ!! そうはいくか!! えぇと、ラップ音!! どっシャーんガラガラ!!
「こ、この音は!? もしやこの地に住まう自縛的なアレとか!?」
ふふふ、気づいたようね。そう、ここは既に怨念渦巻く異界の館。気づいたなら、さっさとパンツを履きなさない。その大きく開いた足の中心ですこすこしてる手を抜きなさい。だから何で速度早めてんのよオメーはよ!!
「ああっ、もしやとは思いましたが……ハァハァ……本当に……わたくし、見られていたらだなんて」
おのれ上級者か!!
ならコレならどうだ、叫霊!!
『憎い……憎い……。』
「何処からともなくうら若き女性の声が!? 一体何が憎いというのです!?」
『一人で豪快に自信を責め立てる女が憎い!!』
「そのような蔑み!!」(ビクンビクン)
しまったご褒美あげちゃった!!
軌道修正だ!!
『どんな気持ち……ねぇ今、どんな気持ち……?』
いかん修正する軌道間違えた気がする!!
「……大変申しにくい事なのですが」
『うん、無理に言わなくてもいいわ』
「心霊的な方とはいえ、同じ女性に一人寂しく慰める行為を蔑まれながら見られる事に新たな悦びを見出した次第です!!」
『一人寂しくっていうならもっと静かにやりなさいよ!! ていうか進化しちゃってるじゃない!?』
「戦いの中で成長するタイプなので!!」
駄目だ、この子。普通に会話し始めてる。
このままでは怨霊の沽券に関わる。
かくなる上は霊力MAX!! 騒霊!!
ガダ!! ガダガダガダ!! ガダダダダダダダ!!
「誰も触れていないのに家具が自動で動いてます!!」
どうだ恐ろしいだろ!! ん? 自動で?
「特にこの椅子の絶妙な振動……ハァハァ……。」
ちょ、何近づいてるの!? え、何、何、この子怖い!!
ガタガタガタ……!!
「ハァハァ……いいです……そのまま、そのまま」
ちょっと待って!! お待ちになって!! 気を確かに!!
あーーーっ!! 何擦り付けてんのよ!! やめ、やめて!! ぐりぐりと、そんな!!
「いいです……!! とてもいいです……!! 最高にハイってやつです!!」
ハイってやつじゃなくて入ってるヤツなんですけど!?
「このっ、この角のところの振動が、強弱があって!! 凄いです怨霊さん!!」
あなたの狂気に恐怖で震えてるのよ!!
「夜はまだまだこれからです!!」
ひぇぇぇーっ。
悪夢の夜は朝方まで続いた。地獄の様な宴だった。既に死滅したはずの脳がどうにかなりそうだった。
『ほんと最近の若い子ってどうかしてる……。』
思わずバンシった。
それが良く無かった。
「あ、怨霊さんそこに居るんですね」
『ってまだ居たの!?』
「ふふふ、昨夜はお楽しみでしたね」
『あなただけよ楽しんでたの!!』
「朝になっても消えないあたり、昼間も頑張れそうですですか?」
『いいからさっさと出てってよ!!』
怨霊の住む館はまだ終わらない……。




