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220話 朝まだきの森

大分ぐだぐだになってきましたね。

 翌朝。集合地点に姿を見せた馬車は、黒塗りの高級車のようだった。悪目立ちしそう。

 順に下車するお嬢様方の装いは、冒険者の装備だ。イチハツさんは昨夜と同じだな。


「ライセンスはつつがなく?」

「想定した程度の騒ぎに収まったけど……赫赫(かくかく)たる成果をあげてきたわ」


 何やらかしてきたんだろ?


「夜間勤務も大変だなぁ」

険難(けんなん)を乗り越えてこその……ギルド職員です」


 貴族のお嬢様が門前市を成してのご登録だもんな。会報の一面紙を飾るには充分だ。


「あ、絡まれたり?」

「別に……私や……騎士(この人達)が……。」

「ああ、お目付役が居たら常連も遠巻きになるか」

「四、五人……ママのおっぱいを吸わせに帰らせた程度」

「君らが絡んでどうすんのよ!!」


 その場に居なくて良かった。


「うちのお嬢をおかしな目で見やがったんだ。お館様に知られないだけ幸せってもんだ」


 自分らの馬の手綱を引く二人組は、昨夜のフルアーマーではなくライトプレートだった。長距離だから重装備じゃ馬の負担になる。遠征は考慮されてるが、信用して背中を任せるのは迂闊だ。

 貴族が軽んじられちゃ立つ瀬が無いってのは分かるよ。夜に町娘風の姿をした冒険者へ刺客を差し向ける程度には、対面を重んじる連中だ。

 スカウトしておいて、気が許せないんじゃな。 

 ところでネジバナ……そのお嬢様が俺を変な目で見てくるんだが?


「サツキくんの方は……?」

「迂回行動中に三回あった。内務卿補佐経由と騎士団補佐のボンボンだと推測するが、撃退するたびに品質が下がるのは切ないな。費用と人材は湯水じゃないんだから」

「懲りればいいけど……。」

「アンスリウムとの距離に比例して追っ手は減る目算だ。あっと、皮算用じゃないよ? ただそれ以上に厄介なのに恨みを買ってるってだけで」


 昨夜の騎馬隊だ。


「あの方のご実家ですね」


 スミレさんが入ってきた。

 流石に公爵家。知っているか。その経緯も。サクラサク国の使節団との件でケイトウ王子とビジョンにも映ってたもんな。


「むしろ管轄領を掠める形になるから。なおもって迂回は、補給と進行を勘考すれば得策じゃない」

「このメンツなら、大抵は退けられますわ?」

「いや、公爵家や辺境伯家に遺恨を残せないでしょ。イチハツさん達の家だってあるし」


 この後すぐ、逆の事をやっちゃうんだけど。


「ワタクシ達は皆、サツキ様に下着を捧げています。貴族女子のパンツは決して軽くはありませんわよ」

「うん。重いよ?」


 覚悟を示してるのか、こちらが強いられてるのか、分かんないなこれ。

 思い返せばこの頃から、俺はこの子達を利用する算段をしてたのかも。


「サツキ様。趣味嗜好の話はその辺で」


 ガザニア。俺のせいじゃないよ?


「お前、許容しつつあるな?」

草昧(そうまい)の地を興そうというなら、そのモラールは無下にしたくないだけです」


 気に食わない。感情移入って訳でも無いはずだ。


「君が義理立てることじゃないだろうに。儕輩(せいはい)が醜類になるか逆かなんて、こちらが負うリスクじゃないんだよ」


 お嬢様がたに聞こえないよう言ったつもりだが、クランが憐れむような視線を送る。ちっ、分かったよ。


「オウケイ、どのみち利用する算段ではあるんだ――それじゃみんな、まずは出発だ。パンツは履いているな?」


 丸太みたいに言ってみた。

 確認自体に意味は無かった。ただの念押しだ。

 少女達の視線がアザミさんに集中した。


 ……まさか、意味があったとは。


「大丈夫。任せて」


 アザミさんがVサインを出す。

 信じていいの?


「確認しますわ」


 俺の懸念を察して、スミレさんがアザミさんのミニスカートに潜る。アザミさんとアサガオさんだけパンツルックじゃ無いのは、やはり技を重視するのか。


「オッケーですわ。大丈夫」


 スカートに潜ったまま公爵令嬢がサムズアップする姿のどこに大丈夫な要素があるのだろう。


「サツキ様も、どうぞ」


 アザミさんが勧めてくる。昨夜の街娘風じゃなく男性冒険者の格好なんだけど。何で手招きするの?


「そちらで確認が取れたなら詮索はしないよ?」


 妄動に付き合えるか。


「嗅ぐだけでも」

「うん。趣旨が違ってるよね」


 とにかく、この子らをさっさと公爵家の馬車に乗せちまおう。あれ? そういや……。


「ネジバナとストックは自分の馬だよな。御者はどうするんだ?」


 公爵家お付きのショーファーって訳にもいくまい。

 怪訝に思うと、次のスミレさんの答えに、彼女達を侮っていた事を恥じた。


「ワタクシタ達が交代で努めますわよ? そうでなくては冒険になりませんもの」


 思わずクランを見る――何で君がアザミさんに潜ってるの?


「SSランクの見地としては……完熟訓練は済んでる……教導は師匠に任せたから、最低限は仕上げてくれた」

「カタバミかよ!?」


 そういや学園での騒動で見た気がする。まだ中央都市に居たのか。

 道理で、クランが最初から協力的だ。


「心得があるなら多少ノーパンでも許容できるか。承知した、出発する。馬車に乗り込みたまえ。あとクランはいい加減、アザミさんのスカートから出てきたまえ」


 投げやりだ。そろそろ面倒になってきた。




 こちらの馬車にガザニアとクラン。公爵家の馬車にはスミレさん達お嬢様。二人の騎士はそれぞれ単車()だ。流石は公爵家いい軍馬を乗り回している。

 向こうの御者は、スミレさんだ。

 イチハツさんが次の御者の順をアピールしてたな。皆、鍛えた技術を試したくて仕方がないんだろうけど。

 ネジバナとストックも冒険者向け遠征は初と見受ける。ペース配分はこちらがコントロールかな。

 御者台から公爵家の左右に着く騎士へ、手を下げて見せる。


「お嬢」


 やはり意図に気づいてくれる。ネジバナがスミレさんに気負わないよう声を掛けた。

 家臣の言葉を素直に聞く辺り、使えるチームではあるか。

 問題はこっちだな。

 車両の中。あの二人だ。ガザニアとクランで会話が成り立つ方が奇跡だろう。


 ……。

 ……。


 インカムを装着した。

 気まずそうだったら話の水を向けてやろう。ここは、俺がしっかりしないと。


『やはりキンピラマスクでしたか』

『うん……ゴボウで刺してたよ?』

『それで、手合わせた感触は如何なもので?』

『魔法は当てやすかったけど……あんまり効果は無かったみたい……。』

『ゴボウパワーですな』

『ゴボウパワーすげー……てなった』


 ……。

 ……。


 思いの(ほか)……会話が弾んでるな。

 え? 何? ゴボウ刺すの? どこに?

 ていうか、クランの魔法を受けてぴんぴんしてるの? そのキンピラマスク?


『それにしても奇怪な。やはり辺境伯卿のご推測通り、レンコン信仰の残滓(ざんし)か。或いは――。』

『それ、旧慣って意味じゃなきゃ……言い方に悪意があるわ』

『思う所もありましょうや』

『えぇと……拗らせた女神信仰が……私達と系統を異なる奇跡を体現したという? ……兄さんは眉唾だって』

『御父上への反発は理解できますが。軌跡は辿れば女神十六身(十六神)と同一との見方もあると。教皇庁に根絶やしされた過去は変えられんものです』

『それでキンピラマスクの怪人……分からない話ではないけれど』


 全然わからん!!


「それにしても、十六神ね」


 ちょっと前に、その内の三柱におちょくられ、助けられたんだよな。危うくマリーと合体するところだった。

 薄い映像越しならヘキダイレンを始めとする四柱も拝見した。みんなクセがあったが。


 ……世界は、あんなの信仰してんのか。


 神官どもが知ったら卒倒しそうだ。

 いや、


『こ、今度、会う時は、ちゃ、ちゃんとした、姿で』


 再会したら予告通りちゃんとした姿だったし、案外、外面(そとづら)だけは良いのかも。あいつら。


 そういや……よく考えたら、俺、女神(あいつら)のパンツも見せられてたんだよな。

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