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22話 ジギタリスへの道

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


次章への導入として、もう一話外伝を挟みます。

 軽佻浮薄な性格は承知の上だ。

 あの後、二人の仲間と別れた。

 あいつらは真摯な気持ちで迷宮に挑むと言ったが、間然に(まみ)れた俺は明確に、目に見えた贖罪を欲していた。


 ――不如意な現実に苛まれようが、友よ融通無碍であれ、向上意欲を惹起(じゃっき)せよ。


 そう、あの人は教えてくれた。と解釈している。多分。なんとなく。

 俺は安い報酬で商隊の護衛を請け負っていた。


「サツキの姉さ、兄さん……。」


 あの美しい顔を思い浮かべる。

 カサブランカの迷宮。その最下層で命を落としたと噂にあったが、信じられるわけがない。

 きっと今もどこかで無茶なレベリングをしているはずだ。


「なぁ兄ちゃん、兄ちゃんが時々口にする、その恩人っての、ほんとどっちなんだ?」

「ん? サツキの姉さ、兄さんの事か?」

「……お、おう」

「サツキの姉さ、兄さんは、サツキの姉さ、兄さんだぜ。誰よりも綺麗で強くて、魔物を刈る事にひた向きで。わかるか? 狩るじゃなくて刈るだ。最悪、目に映るものあまねくぶっ殺しかねないんだぜ? 奸計めぐらせ陥れた愚昧な俺達を庇ってくれた崇敬するお人だ」

「いやいや、お前、よく殺されなかったな!! そんな物騒なヤツ、初めて聞いたぞ!?」

「ははは、よせやい」

「オプチミストにも限度があるだろ!!」

「……へへ、それほどでも///」

「だから誉めてねーよ!!」


 そんな感じで同僚達ともうまくやっている。

 馬車が止まった。

 緊張が走る。全員が武器に手を掛けるのは常識だ。

 まだ都市間の街道だ。


「どうした?」


 仲間が御者台に声をかける。


「へ、へぇ、どうも先頭の車両が子供を轢きそうにったようで」


 双眼鏡で前方の車両を確認していた御者が応える。声は緊張している。


「罠だな」

「囮だな」

「敵が見てるぞ」


 同僚の三人が同じこと言う。


「わかった、確認してくる。警戒を頼む」


 答えを聞かず、俺は馬車を飛び出していた。

 こんな所に子供だと? 商隊を狙う山賊の罠か、或いは奴隷商からの逃亡か。

 先頭車両まで行くと、他の護衛が二人見えた。

 見下すのは、やはり子供――まだ年端も行かない少女だ。

 後者。奴隷商からの逃亡かと思った。服装を見てすぐに否定した。

 下級僧侶の服装だ。修道女か。いや場所を考えると冒険者か。パーティからはぐれたのか。或いは全てが罠か。


「どうした? その子供がなんだって?」


 声を掛けると、護衛達が、


「厄介事だ。逃走らしい」


 その一言で事情が理解できる。ありきたりなケースだった。

 借金のカタに。言いがかりで。誘拐で。そして、故郷から売られて。

 こんな少女が攫われ、また、隙を見て逃げ出すことも。


「見捨てる気か?」


 俺の固い声に、護衛達が顔を見合わせた。


「誰が追ってると思う?」

「大物か?」

「いや、名前までは知らん。だが、冒険者だ。ギルド所属の可否は不明だが、パーティで来られると厄介だぞ」

「わかった。商人らに匿ってもらうよう話を付ける」

「わかってねーよ!!」

「こんな子供を放っておけるか!!」

「阿呆!! 俺達の仕事を何だと思ってやがる!! 氏素性(うじすじょう)もわからねぇのに、安易に関われるか!!」

「次の街までなら」

「お前が勝手に決めるな!! 契約外なのを首肯できるかって言ってんだよ!!」



 その後、少女を抱えて本隊へ行き三拝九拝したが、その場で解雇された。


「おまえ、本当に変わってるヤツだったな」

「過去の人みたいに言わんでくれ」


 馬車から荷物を降ろすと、同僚達が寂しそうに声を掛けてきた。

 隣りの少女を見る。


「この出会いもまた天運かもしれん。サツキの姉さ、兄さんがあの街で俺達と出会ったように」

「そうかい、そうかい。じゃあその姉さんだか兄さんだかに会ったら宜しく言ってくれ」

「ほれ、食料だ。多目に持っていきな」

「ジギタリスで会ったら、また一緒に仕事しようぜ。生きろよ」

「あぁ、あんたらも元気で」


 商隊の馬車を見送る。

 街道は真っすぐだ。徒歩でも、いずれジギタリスに着くだろう。


「あの、助けて頂いたばかりにお仕事、良かったのでしょうか?」


 控え目な口調で聞いてきた。

 修道女の割に短いスカートだ。動き過ぎると付け根まで見えてしまいそうだが、逆に冒険者なら動きやすいだろう。それにしても手足が細く、折れてしまいそうだ。体もまだ完成されてない。薄い胸に細い腰。全体に作りが小さいな。

 フードを被ってこそいるが、明るい髪と、大きな目と、細い顎で、一目で美しい娘とわかる。ま、サツキの姉sa、兄さんには敵わないがな。


「いいも悪いも、俺がお節介をかきたいって思ったんだ」

「大変言いにくいのですが、お節介は焼くものですよ?」

「それより、君を追ってる連中は近いのかい?」

「わかりません。人目に付くことを嫌っていました」

「どこかで見張っているな。日が暮れるまで、フリーの野営地を目指そう。人目を避けるなら他の旅人が居る方がいい」


 この件で一番厄介なのは、相手の身分だ。

 冒険者ってことは、ギルド管轄の依頼に基づいての可能性が高い。

 つまり、無法者は俺の方になる。


「ひゃっはーっ、やっと人気が無くなったぜ!!」


 くそ、もう来やがったか。

 ぞろぞろと、堅気には見えない連中が現れた。

 少女を背に庇う。


「おいおい兄さん、そいつは俺達の大事な商品だ。大人しく渡してもらおうか」


 先頭のモヒカンスタイル。すげーな。セットにどんだけ時間掛けてるんだろうな。

 正面のゴロツキから目を離さず、背後に聞く。


「君は商品なのか? 或いはそれに準ずる契約を交わしている身分かね?」

「ち、違います!! あの人達が勝手に!! ボク、ただの冒険者で隣国から来たばかりなんです!!」

「ふはははっ!! 聞いたか!? キサマらの方が無法者だったようだな!!」

「お、おのれ……!!」


 ゴロツキ共がたじろぐ。

 こいつら、冒険者じゃないな。はみ出し野郎なアウトローだ。

 ならば、仁と義は我にあり。ふ、ふひゃ。


「そうと分かったら遠慮はせぬ!! お前ら全員――刈るぞ!! 狩るぞじゃなく、刈るぞ!!」

「てめぇ一人で何がでK」

「ふひゃひゃひゃひゃ!! これこそ!! これこそが俺の食材、いや贖罪だ!! サツキの姉さ、兄さん!! 草葉の陰から見ててくれ!! こいつら全部まとめて血祭に上げてサツキの姉さ、兄さん復活の生贄にしてくれるわ!!」

「ひぃぃぃ、姉さんなのか兄さんなのか、はっきりしろ!!」

「ふひゃひゃひゃひゃ!!」


 この旅で新な相棒となった死の大鎌(デスサイズ)を振りかざし、奴らに飛び掛かった。


「ふひゃひゃ!! 一人も逃しゃしねーよ!!」

「ひぃぃ、何だコイツ!? すげー強ぇぞ!?」

「サツキのねえS、兄さんにカサブランカの迷宮で鍛えられたこの身。にわかそこらの冒険者に引けはとらぬわ!! 首狩り農場地獄の大豊作の幕明けじゃーっ!!」

「ひぃぃぃ」


 悪漢が怯えていた。


「ひぃぃぃ」


 少女も怯えていた。


「こんな子供を怖がらせるとは、おのれ!! 許さん!!」

「おめぇだよ!! 怖いの、おめぇだよ!!」


 ははは。そんな、まさか。


「ぴゃ……なんて、瀟洒(しょうしゃ)な死神……。」


 はは、は? 誉めれてるのか、それ?


「ちきしょう、コイツ、マジでやばい!! てめぇら一旦退くぞ!! このまま生贄になって祭壇の彩りにされてたまるか!!」

「待てやこら!! 置いてけ!! 首、置いてけや!!」


 結局、ゴロツキ共には逃げられた。俺も未熟だ。初手で三人、追撃で二人しか刈れなかったな。


「足りない……これではサツキの姉さ、兄さん降臨の儀式には足りない……。」

「あの、お兄さんはよく首狩りに耽溺するって言われません?」

「よく分かったな!!」

「たはは、なんと、なく……あ、腕の方、お怪我を、されて……。」

「ん? あぁ、流石にあの人数を相手に無傷とはいかなかったか。気にするな、かすり傷だ」


 右腕の袖が破けて血が滴っていた。毒が無いのは分かっていた。ポーションか薬草でどうにかなるし、流しの僧侶団にでも遭遇すれば、僅かなお布施で初級回復術を施してくれる。


「よろしければ、ボクが手当をしても……?」

「そうか。君は僧侶だったんだね」

「……何に見えてたんですか?」

「ミニスカポリス的な」

「す、スカート短いのは、ある人の趣味です!! ボクのせいじゃありません!!」


 若いのに痴女かと憐れんだが、違ったか。


「ははは、すまない。侮辱をするつもりは無いんだ。むしろ君には、俺の恩人に似た高踏的な都雅を感じる」

「そ、そんな、ボクなんか。それこそ恩人さんへの無礼になってしまいます」


 なんとも、朝の清澄な空気のような娘だろうか。


「えぇと、それじゃ」

「あぁ、頼む。初級回復術(ヒール)を軽く掛けてくれる程度いい」

「わ、わかりました、頑張ります!!」


 ふんす、と気合を入れる。

 なんだか初心者の冒険者みたいで可愛いな。新人を育てたくなる気持ち、少しはわかる気がしますぜ、サツキの姉さん。(←諦めた)


「ヒ、ヒール……。」


 (まばゆ)い光が辺りを照らした。

 どう見ても初級回復術(ヒール)じゃない……。

 この程度のかすり傷に使っていい術じゃない……。


「え、えぇと、か、回復したと思います」

「お、おう、めっちゃ回復したな」

「それじゃ、あの、ボクはこの辺で……あの、この事は、誰にも」

「そうだな、誰にも言えないな」


 ペコリ、とお辞儀をして、少女は走って行ってしまった。方向はジギタリス――森林都市だ。


 まさか、かすり傷に最上級回復術(エクストラヒール)とは。世界には凄いヤツが居たものだ。

 なんだか、轢き逃げみたいな僧侶だったな。


 その後、ジギタリス近辺の街道で首狩り族が出没したと噂が立ち、商人や旅人を震撼させたらしい。

 ()ばかり傍迷惑な椿事だが、どうやら、そいつが次の獲物になるようだ。



 数分後。


「ひゃっはー!! やっと一人きりになりやがったな!!」

「ひぃぃ、あ、諦めてなかったんですか!?」

「ふひゃひゃ!! やっぱり追ってきやがったな!! 首だ首!! 首寄越せ!!」

「ひぃぃ、テメェまだ居たのかよ!!」


 結局こんな感じで、皆でジギタリスに向かったのだった。


お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。


次回からは、久々にサツキ回です。

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