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214話 決勝再び

なんで五重塔編とかやってるんだろ?

 予想外な事に、4階の門番は二人だった。新人とは違う。

 重厚な装飾のアーマーは、士官クラスか。

 人数が問題なのでは無い。そっちは間接的な話し。

 厄介なのは奥に居る人物だ。


「最上階かなって踏んでたけどさ。だったらこの上には何が居る?」


 騎士の二人を睨みつける。大方のことはイチハツさんから伺った。今は擦り合わせだ。


「行きゃわかるだろうよ」


 と片方が軽薄そうに言うものだから、もう片方にフルヘルム越しに睨まれる。


「へいへい、後は若い者に任せやしょうや」


 と肩をすくめて見せるが、この男。隙がない。むしろ彼らがフロアボスでもいいくらいだ。


「言いたいことはあるが、経緯を承知してるのならこれから起こる事は――。」

「黙って進め」


 もう片方の騎士が口を開いた。

 岩のような重厚な声色から彼の苛立ちが押し計れる。

 ある程度は聞いてるのだろうが、目の前の街娘風男性冒険者が今から主人のパンツを奪うとは思慮の外だろう。


 ……情報量多いな。


「だってさ」


 もう一人の騎士が軽薄そうに首を振る。


「心配なら着いてきてもいいぞ? むしろここぞという場面で止めに入ってくれると有難い」


 具体的には中に居る人物がパンツを差し出す瞬間だ。思い留まらせて欲しい。


「我らの勝手で失望させるわけにはいかんのだ」

「いやだから家臣なら主人の奇行止めろよ。甘やかしてんなよ」


 とは言え説得の余地もなきゃ、全戦力で付き合うしかないのか……?


「……分かったよ、貴卿(お前ら)も辛い立場だな」


 苦渋に満ちた声だった。お互いに。




 ボス部屋に入ると、豪奢な玉座が置かれ、京藤色のドレス姿がきちりと背筋を伸ばしていた。

 はやりスミレさんか。

 便箋に付いた香りは学園で嗅いだ香りだ。

 この結果を見るに、それもわざとか?

 そして部屋の右手側。凄く嫌な物が目に入る。嫌でも入る。


「よくぞここまでたどり着きましたね」

「本当にね」


 右手のスペースから目を背けて。うん、あそこには何もない。何も無いんだ。


喫驚(きっきょう)させた事と期待はしたのですが。アザミさんとアサガオさんは仕方ないとしても」

「仕方ないんだ……。」


 あ、技や術が特殊だからか。


瞠目(どうもく)すべきはイチハツさんです。その一線だけは守られる人かと思ってましたのに、サツキ様にみすみす下着を奪取されるとは」

「全員最初から脱いでたよ!!」

「……。」


 信じられないという顔をされても、こっちが信じられない。あと俺が奪った風に言うな。

 それでも、それらはまだ俺のストレージの中で新鮮さを維持していた。自然の風味が効いている。


「イチハツさんが? ご自分から?」

「夕方に着替えた方って言ってたかな。新しいのを履いていた」

「裏切られましたわ!!」


 絶望したようにがぶりを振る。

 女の子同士の友情は儚い。


「それでしたらワタクシも替えを用意してましたのに!!」

「用意しとけよ!! 俺に取られたらどうする気だったんだよ!! 公爵令嬢がパンツ無しで帰る気だったのかよ!?」

「覚悟の上でしてよ!! それに、帰るつもりはございませんわ!!」


 ん?


「ここに住むの? 公爵令嬢が?」

「そんなわけありません。サツキ様に着いて行くに決まってるでしょう?」

「知らんわ!! 着いてくって何!? 俺、スカートの中が真っ裸の女の子を三人も連れて歩かなくちゃならないの!?」

「今下着を奪われてもずっとそのままな訳がないでしょう。後で新しいのを履きますわよ」


 少し安心した……じゃない!!


「同行は認められない。逃亡生活も含む長旅だっての。ハイキングじゃないんだよ」

「クラン様からは認めて頂きましたわよ? 伺ってませんのね」


 初耳だ。

 あれか? まさかガザニアの言った高度な政治的取引がここに刺さったか?


「連絡の不徹底ならこちらの問題だ。すまない」

「いいえ」

「――だから連れて行かねーよ!! ていうか何でスカートに手を伸ばしてんだよ!?」


 やべぇ。隙あらば脱ぐのか?


「本来はこの場で我々の実力を測って頂き、旅のお供を許して頂く予定でした。下着は、その、クラン様が」

「クランが?」

「好もしく想っている殿方に、一日中肌身にし、あまつさえ大事な部分を守っていたものを目の前でいいように弄ばれる。その感慨を切々と説いて頂き、ワタクシたちも是非にと」


 この塔には変態しか居ないのか。


「剥ぎ取るところから始まるのは、ワタクシが最初のようですが」


 と右手の物体へ向かう。

 どうやって持ち込んだのだろうか。

 天蓋付きの大きなベッド。やっぱ使う気か。


「お、おい、そいつをどうしようってんだ?」


 声が震えていた。焦燥感が襲いかかる。アレに近づけてはいけないと。


「知れた事」


 ついにベッドのヘリに到達した。

 そのまま腰を下ろし、しなだれるように視線を投げてくる。


「ロマンチックな言葉を囁きつつ、力強く――さぁ!!」


 もう勝ち筋が見えねぇよ!!


「戦うんじゃないのかよ!! あ、待って、夜の一戦とかは無しで」

「? 何の事を仰ってるのか理解できませんが……ワタクシとしてはこのまま、こう!!」


 すすっとスカートの裾を膝上までたくし上げた。

 タイツに包まれた健康的な太ももが現れ――。


「ってタイツかよ!! そいつも脱がせる気かよ!!」


 こちらの動揺を感じてか、手元の裾に視線を下ろす。

 白い頬に、僅に(べに)が差した。


「……ぬかりましたわ!?」


 その反応は新鮮だ。


「仕方がないな。一思いに楽にしてやるか」


 手をワキワキさせて近寄る。

 これで逃げてくれれば。


「なにゆえタイツを見た途端やる気が湧き出したんですの!?」

「二度おいしい」

「お、お待ちに、少々お待ちになってくださいませ。少しだけ、心の準備を!!」

「まかりならん!!」

「ひぃぃ、へ、変態!!」


 スミレさんの右手が正面に伸びる。指先が摘むのは、僅か20センチのタクト――魔法使いの杖だと!?


 閃光が網膜を焼いた。

 やばい、産毛がピリピリした。


 咄嗟だった。

 雷光が押し寄せる瞬間、ストレージからオダマキの時計塔の先端を露出した。避雷針はまだ健在である。

 鼓膜を雷撃の轟音を撃ったのは数瞬遅れての事だ。


「電撃系まで使うのかよ!?」

「ひ、ひと、人に撃つのは初めてですわ!! サツキ様こそ、ご無事でいらっしゃいますの!?」


 ベッドの上で蒼白になる。

 スミレさんも咄嗟に反撃したんだろうな。なんか申し訳ない。


「君の方こそ……ドレスは絶縁処置をしてるのか。雷撃系は高位魔法だが、察するにレコード不足による不慣れなと言った所か」


 使いこなされていたら危なかった。

 高位魔術とは言ったが、手書きあれども文書きなしってやつだ。クラン並みの大魔導に仕掛けられたら、避雷針ごと丸焦げだったよ。


「ですが、これで勝敗が決しました――お、お約束のものを」


 こてん、とベッドに横たわっていた。

 俺も未熟でな。ここぞという所で山葵の利いたツッコミも入れられず、あたふたしたもんだ。




 数分後。

 何かに目覚めそうになった自分が居た。

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