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210話 五重の塔

少々文章を崩します。そのため冗長になるかと。

あと次話から先、みんなパンツのことしか言ってません。

「詮ずるところ豎子(じゅし)の育成向けダンジョンですか?」


 夜景が後方へ流れる御者台で、隣り合うガザニアが毒気を抜かれた風に聞く。


「ビギナーを蔑むんじゃねぇよ。貴重なホープだ――正確にはハイキング向けダンジョンだな」

「こちらの故実には無いもので。しかしレジャー化してるとは……。」

「むしろファミリータイプで快適な空間を演出している」

「おお、神よ」


 君が神を口にする方が狂気の沙汰だ。

 中央都市近隣だからって、こんな温いダンジョンが存続するのはアザレアぐらいだろうな。

 シロツメグサの塔。五階層構成で基礎修練に適していた。


「内部構造がシンプルな上に魔物の発生密度が極小だから。低ランク揃いってのもあって逆に保護対象になったんだよ」

「アザレアが国家でダンジョンを運営する希少ケースというのは存じてますが」

「カサブランカなんかがそうだな。迷宮特需」

「不吉な響きの特需ですな」


 気持ちは分かる。


「心当たりとは、やはり既知の間柄で?」


 クランとは聞いてこないんだな。

 ていうか恨みがましい? 意地悪?

 最適な弓射ポイントと逃走経路の確保。そりゃ最初からあの場所を知ってる人間にしかできないよな。


「俺から情報が漏れたんじゃねーよ。追跡だってされてない――ああそうだよ!! 俺を売った奴が居るんだよ!!」


 そして、犯人は彼女だ。

 辻褄の整合性を排除しようとして、見透かされた事に気づく。


「ご心中、察して余りあります」

虚礼(きょれい)じゃないのか」

「はっきり仰る――サツキ様に対して内懐(うちぶところ)など恐れ多い。これに関しては特に」


 鎮痛な面持ちで頷かれてるんだが。

 彼は彼で、色々あるんだろうな。

 やがて、街道の正面に灯りが見えてきた。




 ……祭りやん。


 シロツメグサの塔は、無残にもイベント会場の様相を呈していた。周辺は篝火に照らされ、タープテントが立ち並び、しまいには出店まで出店している。

 そして13名の騎士に包囲されていた。あ、塔じゃ無くて俺たちが。馬車ごと。


「そんな目で見るな」


 ガザニアのジト目が痛い。

 逃走劇の全てが無駄になったとでも思ってるんだろう。

 逆に安心したよ。

 家に内緒でやってたら、俺が主犯格らをアンスリウムまで届けなきゃならないもん。


「ここの指揮官は居るか!! 聞いていると思うが、SSランクのサツキだ!!」

「伝え聞く風貌とは違うのだな。娘とは思わなんだ」


 初老の騎士が前に出る。

 ああ、やっぱり。この人も有名人だ。


「一学じゃ女子生徒として通ってたんだよ」


 御者台から颯爽と降りようとして、スカートが翻るのを慌てて抑える。

 一同から「おぉ」と感嘆の声が溢れた。うるせーよ。


「なるほど、確かに」


 おいそこの騎士。何に納得した?


「そのお御足でお嬢様がたを籠絡して回ったと」

「してねーよ!!」


「「「そんな!? 馬鹿な!!」」」


 騎士達が驚愕のハーモニーを奏でる。いや何でだよ?

 ていうかお前ら何なんだよ。


「それほどの愛らしい曲線を武器にせぬ(うつわ)とは」


 褒められるにしても嫌味にしても、悪口に他ならない。

 それより塔だ。

 何て事してくれる。


「窓まで明るいとか。中、制圧してるのか?」

「この程度の迷宮、赤子の手をひねるよりも簡単だったぞ」


 暫くこのダンジョン使えねーだろうがっ。魔物だって簡単にポップするわけじゃないんだ。

 ダンジョンが開店休業状態とか。もうね。


「早いところ解放してやんなよ。手紙をもらったが、お嬢様は中だな?」

「上階でお待ちになられている。早々に行くがよい。もっとも――途中のフロアで待ち構える難敵を制することができればの話だがな!!」


 くそっ、このオッサンもノリノリかよ!!


「ガザニアはここで馬車を見てくれ」

「お人で向かわれるのですか?」

「親切丁寧にフロアボスまで用意してくれてんだ」


 理解に苦しむという風にため息を吐かれた。人生、何事も付き合いなんだよ。


「ていうかお前ら家臣が諌めろよ」


 騎士どもに愚痴っても仕方がないか。

 囲いを押し退けるように塔へ向かう。

 シロツメグサの塔。入口がネオンでゴテゴテに装飾され、いかがわしいお店のようだった……。




 中に入ると二名の騎士が両脇に控えていた。

 奥へ進むと、あちこちに騎士が居る。現時点で活動する魔物は皆無だ。

 ダンジョンじゃないよ。もうただの塔だよ。ガチャガチャうるさい。観光名所にもなりやしねぇ。


「よくぞここまで辿り着いた」


 フロアボス部屋の扉を守る騎士が大層な事を言っている。


「えーと……フロアボス?」


 指を指すと、


「ご期待に応えられず。我はご当家騎士隊の中でも一番の若輩」

「新人に何やらせてんだ……。」


 駄目な企業の悪習みたいな。


「貴公はこの後、世にも恐ろしいものと対峙するであろう」

「いや、あんたの主人だろそれ」


 世にも恐ろしいもの扱いして大丈夫か?


「この塔を抜けたくば進むしか無い」

「うん」


 そうだと思った。


「ですが、私はこの地に残りましょう」

「連れてかねーよ!! いいから開けろよ!!」


 無駄な問答だ。セリフ、俺が来るまでずっと考えてたのか?


「待て。ちょっと待て。準備が整ったか確認してくる」


 ……いや、もう好きにしろよ。


 騎士が扉の向こうに消える。

 ここのボス、本来は大型スライムだったよな。核まで深いから刀剣だと届きにくいけど、それだけのモンスターだ。

 討伐されてるなら暫くはポップしないか。


 扉が開いた。


「……あ……ああ……。」


 さっきの騎士が、足取りもおぼつかず出てきた。ふらふらと。

 気になるのは、甲冑の表面だ。

 ぬめぬめ光ってる。ボススライムにやられたのか? 新参とはいえ正規の騎士が?

 一応、会話に乗ってやろうか。


「どうした!? 何が起きた!?」


 膝から崩れる騎士の上体を起こす。

 ぬめぬめは、何かの粘液か? 妙な匂いがする。乳製品に近い?


「……あれは……駄目だ……よくない……良くないんじゃ」

「しっかりしろ!!」

「……お、お若いの……引き返すのなら今のうちにじゃ……。」


 いや本当しっかりしてよ。


「ぶれぶれだなおい!! 進むしかないんじゃ無かったのかよ!!」

「……いけない……アレは……この世の闇を煮詰めたような……。」


 えぇと、料理の話し?


「……アクが浮いたら……そっと取るような……。」


 あ、料理の話しだこれ。


 その後、具材を煮込み始める話になったので、俺はそっと騎士から離れた。

 フロアボスの扉を見つめる。

 ただのハイキングコースかと思ったが、如何なる敵が待ち構えているのか。


「さて、困った。(おとな)いを入れるべきだろうか、これは」

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