205話 ワイルド編
タイトルは仮題のまま採用。
中央都市編のラストです。
描写、かなり削りました。
床に正座させられた。
「どういう事だ?」
隣で同じく正座するワイルドに伺う。
「むしろテメェに巻き込まれたんだが?」
睨みもせず、ため息をつかれてしまった。
達観したというか、粛然としたというか。
「はい注目。お母さんに注目です」
俺とワイルドが同時に視線を明後日の方向に向ける。
正面に立つ苺さん。
既にドレスは脱ぎ、上乳が剥き出しのコルセットにガーター姿だった。どちらも白色に薔薇の模様が施されている。
ちらりと横目で見る。
……相変わらず凄いな。
「可愛い子供たちが健やかに育ってくれて、お母さんとても嬉しいです」
健やかに育った息子の前でやっていい姿じゃないぞ。
「でもね、お母さんちょっと心配」
むしろこっちが心配だ。
「ワイルドくんもサツキちゃんも、先達の手ほどきを拒んでるじゃないですか? サツキちゃんに至っては国王様からゴギョウちゃんまで付けてもらったのに、未だに指一本触れない体たらく」
すまん、一応は揉むだけ揉んだ。
あと一応お宅のお嬢さんのを舐めた。
「せっかくお母さんや王妃ちゃんがこの身を捧げようとしても逃げちゃうし」
横からワイルドの圧が掛かった。
「テメェ、そんな事やってたのか?」
「全部逃げ切ったが……それがこの事態を招いたというのなら、すまん」
「そ・こ・で!!」
あ、はい、注目するのね。
「いざ女の子を前に恥をかかない為にも、特別教導をしちゃいます。これを機会に色々と情報をキャッチしてくれ!!」
最後、何で海外アーティストの楽器講座みたいになったの?
「って、待ってくれ!! 俺にとっちゃ苺さんは母のように尊敬してる人だ!! ましてやワイルドなんて実の親子でしょう!!」
「いくら俺たちのためとはいえ、母上を穢すような無体はできかねます!!」
当然、抵抗する。
いざとなったらワイルドと協力して、力づくでこの一室から脱出だ。
「心配には及ばないわ!! そんな事だろうと思って、今日は見学だけしてテクを学んでもらうから!! 緊褌一番の決意で臨んじゃいます!!」
何を見せられるというのだ?
「夜の緊褌です!!」
ほんとその格好で何言っちゃてるの?
「……テメェ、何期待してんだ?」
小声で嗜められた。
「それじゃあスペシャルゲストを紹介します!! 今宵のお母さんのお相手――ていうか、お母さんガチはこの人だけって決めてます!! この人!!」
苺さんが横に退くと、天蓋付きのベッドが視界に入った。
その上で縛られる白いワンピースの少女。濃紺のスカーフで視界は奪われ、口を猿轡が封じている。
なんと倒錯的な光景だろうか……じゃねぇよ!!
「事案!? やっちゃったの苺さん!?」
「いや待て……あの人は」
「では、意気込みをどうぞ!!」
口元の拘束を解く。
「えぇい!! 謀ったな!! 夕食に一服盛り三日もこのような所に軟禁しおって!!」
ずっとこの状態の辺境伯と同じ家で暮らしてたのか……。
「だってアナタが構ってくれないから。イチゴのこと、ほったらかしにするのがいけないんです。分かったらとっとと始めましょう」
「おのれ言わせておけば!!」
「分からせちゃいます!!」
「返り討ちにしてくれるわ!!」
ワイルドニキ、顔が蒼白になってる。俺も同じ顔だっただろう。
お構い無しにサバトのような営みが始まった。
最初の30分は辺境伯の猛攻だった。
縦に横にと、容赦なく攻め立てる。
凄いな。あんな風に悦ぶんだ、苺さん。
さらに30分後。攻守逆転してた。
……おい、辺境伯。おい。
さらに30分。
ちょ、どんだけ搾り取る気!? まだ1時間半しか経ってないぞ!?
いつ終わるともしれない狂乱。舞い散る汗が虹彩を放つ。
そして僕らは夢境に浸った。
目が覚めると、隣に壮絶な美貌があった。
長い睫毛にさらさらのブロンドがかかり、桜色の唇から安らかな寝息が、規則正しく漏れていた。
この状況で、何で安心しきって眠ってられるんだ?
お互い、一糸まとわぬ姿。
苺さんと辺境伯の姿は無かった。
俺の気配に気づいたのか、ぱちりと瞼が開いた。
青い、澄んだ双眸が見つめてくる。
「ふにゃ」と一言出た。なんだそれ?
……。
……。
「!? て、てて、テメェは……!!」
ワイルドの微睡んだ顔が染まっていく。うん。昨夜の事を思い出したらしい。
つられて俺も思い出した。
……凄かったな。
咄嗟に飛び上がり距離を取りやがった。馬鹿野郎、今そんなことをしたら――。
「ちっ」
舌打ちと共に、綺麗な裸身が一瞬で毛布にくるまった。
……。
……。
自分の体を庇うように身を竦めるワイルドが、いつものぶっ殺しそうな眼光を浴びせる。
「テメェ……何か言えよ」
そうか。沈黙に耐えられないのはこちらもだ。
「昨夜はお楽しみでしたね、いやお楽しみだったな」
「テメェが無茶苦茶してきやがったんだろうが!!」
「お前だってノリノリだったじゃんかよ!! くそっ、追放からここまで色々あってなんで最初がワイルドニキなんだよ!! どうなってんだよ!!」
「それは俺のセリフだ!! テメェが血迷ってサザンカに告白してから予定が狂いっぱなしだ!!」
掴みかかってきやがった。子供か!!
「予定ってなんだよ!! 俺の追放は計画的じゃなかったのかよ!?」
「その場のノリだこの野郎!!」
肩を抑え、のし掛かってくる。くそ、コイツの方が力は上だ。
「今更ぶっちゃけてんじゃねーよ!! ノリで追放されたの!? カサブランカであの二人、泣かせちまったじゃあねーか!!」
ノックが鳴った。
「そもそも昨日はお前からスイッチ入ってたじゃん!! めっちゃ顔近づけてきたじゃん!!」
「だからって何で最後まで入れてくんだよ!!」
「ワイルドが入って来いって言ったんじゃねーの!?」
「かしこまりました、失礼致します」
ドアが開いた。
どうやら入室を促されたと受け取ったらしい。
メイドが三名、その場で固まったていた。
室内の惨状。
真っ裸の俺が、真っ裸のワイルドに押し倒されていた。
以上。
色々終わった気がした。あえていうなら、
「尊い……。」
そう尊いのだ、え? なんて?
一人が呟くと、凍った時が動き出した。
「尊い!! なんて事でしょう、御坊ちゃま方!!」
「あぁ、あんなに幼かった男の子が、かくもご立派に成長されて!!」
「みんなー!! 大変よ!! 来てー!! 凄いからー!!」
むしろ時が加速した!?
って、待て三人目!! いいから待て!!
「朝から何の騒ぎですか――!? さ、サツキの姉さ兄さん!? ついにワイルドの兄貴にまで手を出してしまわれたのですか!?」
ベリー邸で何でお前が真っ先に来ちゃってんだよ!?
ていうかワイルドだけ素直に兄貴呼び!?
「まあまあ、朝から何の騒ぎかしら」
来たな元凶――凄いツヤツヤしてる!? 一晩中やってて何でそんな肌が瑞々しくなってんだ!?
「……朝からうっさい……。」
薄花色の、可愛らしいパジャマ姿の辺境伯が登場。スリッパがもふもふのクマさんだった。可憐な見た目に反して目は死んだ魚のようだ。
あれだけ搾り取られてよく動けるな……。
その後も、あれよあれよと区画に立ち入りの許された上位使用人がやってくる。
「……サツキ……どうして……? 昨夜居ないと思ったら……どうして兄さんと……。」
使用人の合間から、クランの白い顔が見えた気がした。すぐに見えなくなったので錯覚かもしれない。
「――追放だ」
「ワイルド?」
「テメェなんざ追放だ!! 出て行け!!」
「ちょ、今ベリー家の威光を外されたら」
「知るか!! 大体テメェが」
「待て、掴みかかるな、みんな見てるから!! こらそこのメイド!! 鼻血出してんじゃねーよ!!」
こうして、不本意にも俺の中央都市出立も加速した。
実に二度目の追放である。




