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196話 騎士を統べる

 隊長の号令と同時だった。残った四人の衛兵が民衆に向かう。事態の向き方が良くない。

 それもこれも、うちのマリーが余計なことをしたせいだ。


「アマチャ、掩護だ!! 巡視まで保てばいい!!」

「時間を稼ぐのはいいのですが」


 嫌な予感がした。


「別にアレらを倒してしまっても構わないのでしょう?」

「構うよ!!」


 ほんと貴族様は無茶を仰る。


「人命優先だ。今、衛兵全体への遺恨は良く無い」

「如何程のものでしょう」


 お前らは何でそんなに斬りたいの?


「裁くのに相応しい連中が居ると言っている。そちらへ任せるんだよ」

「畏まりまして御座います!! 民草の盾となるが貴族の勤めなれば!!」


 アマチャが剣を抜く。エボニーミノタウルスの(つるぎ)だ。


「私も加勢します!!」

「マリーは黙ってろ!!」

「どうしてですか!?」


 いや事態が悪化するから。


「ならば我が手を貸そう、(あに)様」

「お前も黙ってろ!!」

「何故じゃ!? 民衆のウケを狙ってプリティ版で顕現したというに!!」


 そういや久しぶりに見たな。シャクヤクの鬼神少女姿。

 銀糸を混ぜた白い着物には薄らと鶴と赤い丸――日光の刺繍を施している。

 裾から伸びる手足もまた新雪のように白かった。あの細い曲線に、赤黒い鬼の筋肉が詰まっているとは信じ難い。


「マリー様の臣下の方の手を煩わせるまでもなく、私一人で十分です!! アザレア王国侯爵家次男、アマギアマチャ!! いざ参る!!」


 侯爵家かよ!!


「って、隊長!! このお坊ちゃん、お貴族様ですよ!!」

「いや、よく見たらお嬢さんらも王立第一学園の制服じゃないですか!? ま、まずいです!! 侯爵家ってだけでも厄介なのに、あそこにゃ公爵令嬢も在学中だって話です!!」


 やっと気づいたか……。


「ふっ、今の私はサツキの姉さ兄様の剣であり、一人のSランク冒険者である!!」


 おい民草の盾はどうなった? あと家を名乗ったのお前だからな?


「Sランクでその名前!?」

「まさか野盗狩り!?」

「ジギタリスから逃走した共和国のテロリストを討伐した、あの!!」


 衛兵達がたじろぐ。隊長がぐぬぬぬってなる。


「そして私はマリー!! サツキさんの心の中に住む妖精よ!!」

「「「な、なんてことだ……。」」」


 衛兵達がたじろぐ。

 だから黙ってろって言ったのに。隊長もこれには「?、???」て首を傾げてる。


 まぁ、時間稼ぎには有能だったが。

 遠くで聞こえた(はがね)の擦れる音が、人垣の向こう側に近づいた。

 三人。重装備の筈だ。なのに歩みが早い。よく訓練されてるな。


「これは一体何の騒ぎだ!?」


 先頭のリーダー格は若いな。貴族の出かもしれない。白じろと光を反射する短髪に上品な顔立ちが印象的だ。


「王国騎士様だ」


 群衆の誰かが言った。

 音の前に気配を感じていた。冒険者当たりが仲裁に来るかと思ってたが、意外な顔ぶれだ。

 一瞬、隊長の顔色が変わったが、すぐに姿勢を正した。切り替えの早い事で。


「お騒がせしました騎士様。自分がこの隊の隊長を務めております。今しがた、中央都市の往来で魔物を暴れさせていた不届き者を証拠物件共々確保していた所です」


 早口に捲し立てていた。

 言われた騎士のリーダーが俺たちを見る。


「アマギアマチャ殿。それにSS級冒険者のサツキ殿か」


 と漏らした瞬間、隊長の顔色が死人のようになった。


「え、まさか、まさか王国騎士様と顔見知りで……。」

「いいや、こちらが一方的に知っていただけだ。二人とも陛下が功績を讃える程には有名人だからね」

「国王、陛下……。」


 膝が崩れるんじゃ無いかってほど、ふらふらとよろめく。


「しかし……しかし、いくら陛下の覚えがめでたいとは言え、街中で魔物を暴れさせる暴挙は看過できませぬ!! 我々がこのまま連行しますので、騎士様にはかような些事にお手を――。」


「お姉様達をいじめたのは衛兵の方じゃない!!」


 かな切り声が民衆から飛んだ。


「な、何を言う!?」


 隊長も焦る焦る。


「そうだ!! そこの姉ちゃんらの馬と馬車を奪おうって言ってたぞ!!」

「この人ら、いつも威張り散らして、あたしの店のものただで食っていくんだよ!!」

「こっちは蹴られた事もある!!」

「抗議すればすぐ逮捕だ拘束だって脅してきやがって!!」


 ……ろくな事してねぇ。


「どう言うことかね?」

「い、いえ、いえそのような事、決して!! 何かの間違いです!!」


 若い騎士に睨まれ、隊長の顔から滝のような汗が流れた。


「民を守る王国の衛士が、権威を傘に民衆へ非道を行なっているように聞こえたが?」

「聞き間違いです!!」


 テンパったのか、キッパリ言い切った。


「成程。確かに司法権も検察権もない私に、正しい采配が効くとは思えないな」

「お、恐れ入ります」

「とはいえは、貴官にこのまま預けて良いと言えば、やはり然るべき検察のもと()()()()()を行わねばなるまい」


 びくんと、隊長の顔が跳ねた。

 瞳を開き、口をぱくぱくさせてる。


「そのような事、そのような事こそ他部署を煩わせるまでもないかと!! そうだ、では騎士様の管轄とされてはいかがでしょう? この小娘どもげふん、お嬢様がたと証拠物件を預かって頂くということで」

「それは構わないけれど」

「おお!! では後のことは宜しくお頼み申しました!!」


 一気に血色が戻った。

 まさか退散する口実でも得たと誤解したか?


「それでは民衆からの陳情の件だが」


 と騎士の色男がにこやかに微笑むから、隊長の口がかくんと落ちた。

 柔和な爽やかイケメンに見えて、この人もタチが悪い。


「ま、お待ちよ、それは何か誤解があってのことと……。」

「ならばその誤解はここで解いてしまおう。貴官も今後の職務に障ってはよくないだろう?」

「うぅ……おお、そうだ」


 と隊長が手もみでもしそうな勢いで騎士に擦り寄る。


「実のところ私の家は、副騎士団長第八補佐卿様と寄子関係に御座いまして。些細な誤解で騎士団の皆様にも波紋を投じては、その、なんとも心苦しい訳でして。やはり関係の悪化は互いに宜しく無いかと」


 何やら小声で話すが、うん全部聞こえてる。


「確かに、ああ、確かに貴官の言わんとしていることは理解できるな」

「しからば――。」

「では、私の直属の上司にご采配を仰ごうか」

「来ちゃった」


 群衆の合間から、ぬぅっと全身白いタイツが現れた。

 どよめきが並のように広がった。そりゃこんなのが来たらビビるビビる。


「ご足労頂きまして恐縮です」


 三人の騎士が跪いて礼を取る。

 白い犯人を崇拝する宗教みたいだ。


「なに畏まるな。行けたら行くと言ったのは我の方だ」


 飲み会の誘いみたいになっていた。そして本当に来てた。


「あれは、まさかケイトウ殿下では?」

「まさしく王子様だ」

「ママぁ、あのお兄ちゃんどうして真っ白なの?」

「しっ、見ちゃいけません」

「でもママはガン見だよね!!」

「……うちに人より凄そう」(ドキドキ)


 おい娘のママさん。そこは見てやるな。

 ていうか民衆に正体バレてんじゃねーか!! 王子だってバレてんじゃねーか!!


「ぐ、ぐぅぅ、おのれ面妖なやつ!!」


 それで何でお前らは気づかないんだよ!!

 そういや、昨夜もクランや外務補佐の執事達は気づかなかったな。

 あの変態、民衆に密着型なのか? こんな簡単にお目通りが叶っていいのか?


「そこの衛士諸君。話は聞かせてもらった。詳しい事情は酒の席でもゆっくり聞かせてもらおうか」


 いや酒は駄目だろ。なに振る舞おうとしてんだ。

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