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194話 ニューパートナー

解呪後が、

主人公とヒロインがただイチャイチャするだけの話になってツラい。

「シャクヤクには手を出させるな」


 グレートホース。俺を主って認可させなきゃ。でなきゃ当面はデッドロックだよ。

 サクラさんの馬車、ワイルドの所の馬でさえ牽引が有効なのは中央都市の舗装路が限界だ。車両にアシスト機構とやらが生きてるらしいが、長距離では鍛えた軍馬でも耐えられなかった。

 使節団が帰国する前にアカシアさんに聞いておきゃ良かったな。


「三人とも表に待たせてきちゃいました。あ、でも、もしもの時は手、出ますよ。両手とも。私が出します。なので、そうならないよう頑張ってくださいね」

「はいよ」


 気楽に、タバコでも買いに行く足取りで一歩出た。


「あと、その子は女の子ですから、たらしこまないで下さいね」

「しねーよ!!」


 ……あ。思わず声、張り上げちゃった。


 恐る恐る伺う。うん、大丈夫。大人しい大人しい。

 よく見ると拘束が無い。出ようと思えばいつでも出れるのか。


 こちらを値踏みするように、澄んだ瞳がじっと見つめてくる。


「……お近づきのしるしに」


 リンゴを差し出す。

 シャクシャクと勢いよく食べた。よし。

 リンゴを出す。

 シャクシャクと食べる。よし。

 リンゴを出す。

 歯を剥き出しにして笑った。喜んでる喜んでる。


「こんな所か」

「……色々、酷い!!」


 どうしたマリー? 情緒不安定か?


「外に出て確認する。先にコマツナギさんの所に行っててくれるか?」

「相性なのでしょうかねぇ……アセビほど私には打ち解けてくれないようですが。やっぱり女の子だから?」

「個体差なんじゃね?」


 やっぱりって何だよ?

 さて。名前が無いらしいが、この子は何て呼ぼうか。




「鬼神さま以外でも、上手く乗りこなせるんだね」

「そこはサツキの姉さ兄様ですから」

「さっきは食べ物で釣ってましたよ?」

「兄者殿は、真正のタラシなのであろうな」


 ギャラリーが五月蝿い。あとそこ。本名言うな。

 グレートホースに跨り軽く一周した。加速、減速、そして流鏑馬。よし。よく従ってくれる。


「拍子抜けするほど従順だが、拘束期間は長いのですか?」


 背から降りる時も、姿勢を低くするサービス振りだ。ひょっとして、生まれた時から人間に育てられてたり?


「今学期の始まりに確保された野生種を献上の(てい)で受領したんだ。以前に言った通り、皆が扱いに困っていてね。厄介払いで押し付けられたような」

「気苦労が絶えないご様子です」

惻隠(そくいん)には及ばないよ。楽しんではいるからね」

「確保と仰いましたが?」

「SSランクの冒険者だって聞いたけれど。カタバミ殿と言ったかな」


 ああ、師匠か。


「約束通り、この子はハナモモ君が引き取るといいよ。今の学園じゃ適切な飼育も困難だからね」

「ありがとう御座います、コマツナギ様。今度こそ、大切にしますね」


 せいぜい馬車馬のように働いてもらおうか。


「なんというか、不憫じゃのう」


 鬼神が微妙な顔で見ていた。


「今度こそ、というと、以前にも馬を飼っていたのかな? 見学に来たくらいだから、馬、好きなのかな? グレートホースがこんなに懐いてるからには、よほど好きなんだろう?」


 いやコレ、魔物だから。そんな同好の士に巡り合ったみたいに瞳を輝かされても。


「以前、旅でお世話になった馬がいたのですが、総勢100名程の野盗集団に襲われた時、私とマリーを庇い膝に矢を受け、そのまま帰らぬ人となって……。」


 自分でも何言ってるか分からない。


「そんな悲しいことが!! ……すまない、辛いことを思い出させてしまった」


 先輩がしおらしくなる。信じちゃったよこの人。


「気を病んで頂きありがとう御座います、コマツナギ様」

「しかし、100人規模の野盗とは、もはや軍隊並みだね」


 実際何人だったかもう忘れた。それぐらい居たかな。


「よく助かったね」

「はい、結果的に皆殺しにはしましたけれど、やはり親しい馬を失った時は身を裂かれる思いでした」

「うんうん……うん?」


 あ、コマツナギさんの顔が凍りついた。


「あははは、あの頃は私も死んじゃいましたからね!!」

「妹くんまで!? ていうか笑い事!?」


 マリー、君は黙っていよ?


「はい!! ハナモモお姉様ったら、私の遺体の前で一晩中踊り狂ってましたね」

「そうか……最愛の妹を失って狂気にかられたんだね」

「軽やかなステップだったそうです」

「ダンサブル!?」


 嘘を信じさせるには真実を織り交ぜるといいって言うけどさ。

 チョイスする真実を明らかに間違えてる。




「結局、戻ってこなかったな」


 御者台にアマチャと隣り合った。手綱は俺の手にある。

 ベリー邸までグレートホースの慣らしに馬車を引かせた。野生種とは思え無いスムーズな走行だけど、ユリ同様、道行く人々が三歩遠のく。


「シスターもあれでムキになる人ですから」

「よく修道女なんてやってられるな」


 顔を合わせたら文句の一つも言われるかと思った。

 事件以来、彼女の昼食は元の質素なものになったはずだ。ベリー家厨房の出張所が撤退したから。


「こちらにもムキになる奴がいるからあまり言えないが。スタートでハンデをもらったが、そろそろ並ぶ頃かな」


 背後の気配を探る。


「こちらは慣らしなんです。市街地で最大戦速は出せません。こんなものでしょう」

「向こうはその気だがな――おっと」


 進行方向の路面に人影を数名目視し、手綱を引いた。急静動にも関わらず、車体が無理なく停車する。


「凄いですね」


 アマチャの感嘆はどこに向けられたものか。


「沢山褒めてやらなきゃな。それよりも」


 停止したと見るや六人の衛兵が囲む。皆、軽装だ。パトロール小隊といった所か。


「抵抗はするな!! 全員車両から降りろ!!」


 小隊長の腕章を付けた男が当然のように上から来た。

 彼の態度は間違っちゃいない。

 あらゆる犯罪やテロから民を守る義務があるんだ。その職務は何者にも優先される。


「抵抗は無しだ」


 アマチャに小声で念を押す。

 衛兵の命令口調が気に食わなかったのか、眼光が険しかった。こういう所はシチダンカに似ている。


「――分かってます、今そっちに行く!!」


 御者台から飛び降りた。

 隊員から「おぉ」と感嘆の声が上がる。

 いけね。女学生の制服のままだった。


「サツキの姉さ兄様。サービスが過ぎますよ」


 アマチャが駆け寄り、腰にストゥールを巻いてくれた。女子に騒がれるだけあって所作がスマートだ。


 ……そういう気遣い、俺には不要だからね?


「それで、貴方がたは何ですか? サツキの姉さ兄様を止めるには相応の覚悟と理由があってのことですよ?」


 囲む衛兵を睨む。いや君も何で上からなの?


「何を言う!! お前ら公道で魔物を走らせたんだぞ!? 止められるだろ普通」

「貴方がたの言う常識の基準に、よもやこのお方が当てはまると思っておいでか!!」

「この兄ちゃん面倒くせー!!」


 アマギアマチャ。一応は貴族だ。こう面倒にもなる。……だが言い方ってもんが。


「とにかくだ!! 事件性が考えられる、車両の中も見せてもらおうか!!」

「誰が見せるか!!」

「アマチャ、君は少し心を鎮めよう。な?」

「ですがサツキの姉さ兄様!!」


 足止め食ってる訳にもいかない。さっさと中を改めさせて、と。


「どうぞ、ご覧ください」


 ドアを開けると隊長が俺を押し退け覗いてきた。そうがっつくな。どうせ何も無いんだし。


「こ、これは!?」


 え? 何かあった? 無人だったはずだけど……。


「何だこの内装は!? 小娘が所有するような代物では無いぞ!!」


 あー、一応は他国の王様の所有物だっけ。数年、山間に野ざらしとか言ってたけど。


「この装飾も、ソファーも、グラスでさえ!! 貴様ぁ!! これを何処で盗んできた!?」


 そう来たか。


「言え!! 言わぬなら身柄を拘束するぞ!! 当然、この馬車も馬も没収だ!! 大人しく差し出すがいい!!」


 そう来たか。


「ほう? サツキの姉さ兄様の所有物を奪うというのですか。たかが衛兵如きが!!」


 当然、お前もそう行くのな。

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