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193話 その後の草原

198話でサツキがサクっと解呪します。

つまり、そういう事です。

「事態が見えてからじゃ詮ずる所、後手になる。このままガラ美の調整はお願いしたい。ゴギョウさんもちょっと宜しいですか?」


 未だガラ美で何かやらかしてる一団に声を掛ける。あれ? ゴギョウさんどこ行った? あ、スカートの中にマリーと居たのね。ほんと何してるの?


「俺付けになったばかりで済まないが、彼女の世話を焼いてもらいたい」

「望むところで御座います」


 望まれちゃったよ。


「旅支度や物資でも俺たちじゃ気が回らない所もあるだろう」

「なかなかの逸材ですね」

「必要なものはクランに言ってくれ。彼女の侍女から声が掛かるよう申し入れてある……いや、さっきのゴギョウさんの受け売りだけどさ」

「お嬢様との言付(ことづけ)け役なら私が承りましょう。知った仲ならゴギョウさんも話を進めやすいでしょう」


 身悶えした侍女が今こそとばかりに背筋を伸ばした。シャッキリした。

 クラン付きの一人だ。朧気で霧中なままだが、辺境伯領で世話になった記憶がある。

 辺境って言葉で認識を違えがちだけど、別段、辺陬(へんすう)な土地じゃない。貴族の交流もあれば往来も盛んで、インフラだって充実している。


「スズシロ様。それではお世話になります」


 知った仲というのはこの二人も既知だったのか。


「じゃあワイルドに説明したら、アポの所に出るから」

「若、戻られたばかりで出られるのですか?」


 誰が若だ。って、ガザニア、ついてきたいの?


「時間も惜しいし、()し崩しに進めていかなきゃな。即返答を頂けたのは重畳だ」

「はいはーい、私も行きたいです!!」


 マリー、ほんと恣意(しい)的なのな。まぁ、別れの挨拶くらいいいか。

 彼女の背後の虚空を見つめる。

 空が、ちょっとだけ揺らいだ気がした。


「じゃあちゃんと服を着ないとな。一応、他所の貴族令嬢に会うんだから――特にガザニア!! 何でまた上半身裸でマフラーしてんだよおめーはよ!!」


 そう。一晩で会った時のファッションに戻っていたのだ。


「やはりこのナリは普通っすよ。昨夜の帰り、同じ格好の集団をやたら目にしましたし」


 オッサンの直轄か!! 余計な事してくれる!!


「格式ある所行くから相応の装い、しよ?」

「やむ終えませんな」

「……。」


 少しは意に介して?




 交渉中の貴族から回答が来たのは今朝方だった。どうやって知ったのか王城に間借りした俺の部屋に、執事がお盆に封書を乗せやってきた。

 貴族の情報網でも格上か。


 そして今。

 黒塗りのいつもの馬車で、第一学園へ向かった。

 御者はガザニア。馬はユリ。嬉々として手綱を取る手に迷いがない。ユリもご機嫌だ。お前らも顔馴染か。

 謎の生物が引く黒塗りの馬車に、道ゆく人が3歩飛び退く。

 時々、ガザニアの薄い唇から「フフ、フフフ」と薬中みたいな笑いが漏れた。無理矢理執事服を着せたのだが、かえってホラー感が増した。




「やはりサツキの姉さ兄様は、そうしている方が似合っておいでです」


 女子制服姿の俺が降りると、アマチャが迎えてくれた。

 お前、今何と比較した?


「マリー様も、年相応で愛らしい」

「いえーい」


 ハイタッチしてる。随分打ち解けたな。学園じゃ知らない所で交流でもあったか。


「ガザニア殿には、昨夜はお世話になりました」

「なんの」


 殺人鬼(づら)に薄い笑みを浮かべていた。

 なるほど。帝国近衛隊の青組十一位に認められるほどではあったか。

 後でアマチャからも百人隊長の事は聞いておかなきゃな。


「では、皆様。先方がお待ちになってらっしゃいます。こちらへ」


 アマチャに連れられ、学園を進んだ。

 復興の業者があちこちで作業する中、高等教室棟を回り込み部活棟に差し掛かった。

 講堂の一帯は壊滅的だな。


「……あの人、何やってんだか」


 思わず、足を止める。

 アマチャが何事かとこちらを見て、遅れて気づいた。


「確かに、良い趣味とは言えませんね」


 校舎から続く渡り廊下は、ガラスが一枚割られた程度で済んだらしく、補修は終わっていた。


「どうやら俺が呼ばれているようです。若様――。」

「若はよせ」

「サツキ様、少々席を外させて頂きます」


 執事服に似合った仕草なのに、なぜか毒々しい笑みが見えた。


「ほどほどに。ここ学校だから、ほどほどにね」

「それは」


 と顔を上げ一点を見つめる。

 回廊に似た装飾の渡り廊下。その影に、修道服の裾が消えていった。


「相手の出方によりますなぁ――俺を誘うか。不敵な奴め」


 お前が言うな。

 ガザニアが音もなく走り出した。独特な走法か。

 しかし、元本職の殺人鬼だけあって凄い殺気だった。ガザニアの事を警戒したんだろうけどさ。


「あの二人、いい感じに結ばれてはくれませんかね」


 何で毒を以て毒を制しようと思ったの?





 辿り着いたのは、久しぶりの乗馬クラブだ。

 騒動を起こして以来、馬と生徒が怯えるからって近づくのを断られていたんだ。

 遠くのサークルで白馬をゆっくりと進める細身の影が見えた。

 遠目でも分かる。実際、頬が痩せたかな。

 近づくと颯爽と降りて、手綱を引いてやってきた。

 凛と背筋を伸ばす美影身は、中等部よりファンを定着するのに充分だったという。


「ご機嫌よう。君達が無事で何よりだよ」


 コマツナギ先輩……アカネさんの正体は秘匿していたと聞いたけど。

 学園襲撃の際、暴漢に襲われ片腕を負傷。今は自領で療養に心身を休ませている。

 ざっとこんな筋書きだ。


 俺たちがそれぞれ挨拶を交わすと、「来たまえ」と短く言って案内してくれる。


 言葉の端端で陰が拭えないのが分かる。

 それについては、こちらも話題に登らせない。マリーにも念を押した。


 彼女に連れられ、朱色の屋根の馬舎に着いた。壁を白く染めたアンティークなデザインだ。


「流石は王立第一」


 我ながら抜け抜けと言えたものだ。

 俺が調査した臨時予算による建替えだった。


「今では入れ物だけだよ。人の質は以前ご覧頂いた通りさ。後世に芳躅(ほうたく)と呼ばれることなんて、叶わないんだろうねぇ」


 自重気味に言うが、何かを残したいという思いは理解できる。


「専属の用務員にも暇を出していてね。世話をする者がいなからといって、私の馬とあの子だけが残った次第で――奥だよ」


 コマツナギ先輩が足を止める。

 怪訝に思い振り向くと、


「私では、警戒されてしまうから。(あわび)の貝の片想いだよ」


 切なそうに笑ったけど……コマツナギさんが二枚貝を語ると、何だか生々しいな。


「では、私もひとまず残りましょう。戻られるまでご一緒させて頂きますね、コマツナギさん」


 アマチャ。彼女を引き付けるから少しくらい無茶しても大丈夫ってことか。そういや先輩と同学年だったな。


 マリーと共に馬舎を進む。

 間も無くして最奥。巨大な白馬と目が合った。

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