192話 始動。そして侍女。
本来は結ばれることのない二人の悲哀がテーマでしたが、
中央都市編の後は結ばれすぎというか合体しすぎて、200話目当たりで軌道修正軌道修正。
玄関前のロータリーで騒いでいると、開け放たれたエントランスの影から視線を感じた。
「じぃぃぃ」
苺さん……余計な事を吹き込むのは控えて頂きたいが。
「特に何者とも連結した覚えはないよ」
「ロングなホーンで貫かれてトレインしちゃったというのは?」
「未遂だよ!!」
トゥゲザーしちゃったみたいに言うなよ。あ。
「「「!?」」」
しまった……。
「サツキ様、どういうことですか? 昨夜はケイトウ王子の招集をお断りしてきたはずでは?」
「殿下の……!?」
ゴギョウさんの言葉に、クランの顔に翳りが落ちた。
あー、絶対誤解してるなこれ。
「まさか、この期に及んで……王子殿下に先を越されるだなんて……。」
「先だけにさっきっぽ入れられたんですか!? どうなんですかサツキさん!?」
マリーがほんとうるさい。
「どうなんですか……サツキくん?」
混ざるな。
「どうなのかしら、サツキちゃん」
来たな当事者。
「あの、どうなのでしょう? ご主人様」
ガラ美まで来ちゃったよ。
「何でこんな事で囲まれてるの? 何も無かったよ?」
「でも……ゴギョウさんとは、その……裸で一緒に寝たって」
衝撃が走った。
よりにもよってここで言うか。
「ど、どど、どいう、どですか!? お姉さん!!」
ドに拘りすぎだ。
「サツキちゃん、お母さんの事は拒んでいたのに……やっぱり若さ? 若さなのね!!」
「あの、私もここでは一回り上の年長者になってしまうのですが」
「お母さんは何回りだと思うのよ!!」
うん、知ってても言えない。
「サツキさんのタイプだって思ってました!! どんな風に可愛がってもらったのか、じっくり!! じっくり!!」
「ひぃぃ」
躙り寄るマリーに、流石に恐怖を覚えたかゴギョウさんが涙目で後退る。
そろそろ野放しにできなくなってきたな。
「ご主人様、こちらのお嬢様はそもどういったお方なのでしょう? 奥様候補、なら今このような場にお連れするとは思えませんが」
「申し遅れました」
ガラ美の問いに、ゴギョウさんは一同を見回し改めて礼をした。
「本日より、サツキ様の正式な侍女を申しつかりますゴギョウと申します。若輩者ですが、誠心誠意努めて参りますので、至らない点はご鞭撻を賜りたく宜しくお願い致します」
一部をとても強調するんだな。
がららん、と手にしたトレイを落としガラ美が蹣跚と後ずさる。
「侍女? そんな……わたくしの立場が……。」
そもそも君、何でメイド服着てんだよ?
「大丈夫ですガラ美ちゃん!! ガラ美ちゃんにはまだお手つきになってサツキさんの性奴隷になる道が残ってます!!」
嫌な道だな。
ていうか俺のイバラの道になってないかそれ?
「ガラ美様? 若い身空で既にその足元を固めておいでとは――う、羨ましいです!!」
「ゴギョウさん?」
マリーの奇行にガラミに詰め寄るゴギョウさんが居た堪れない。
「サツキちゃん、昨夜は本当に何をしちゃったの? 何をしたらゴギョウちゃんがこんな残念な子になっちゃうの?」
「いえ、俺が初めて会ったときはこんな感じに仕上がってました? 元からじゃないんすか?」
「もっとしっかりとした、みんなのお姉ちゃん役だったけど。お母さんも6年ぶりだから……。」
社交会じゃクランと会ってたらしいが。
クランを見る。
「時間が……女を変えてしまうことも……ある」
悲しそうな瞳だった。
「具体的には2年くらい前」
あー。
「四捨五入なんて無くなればいいのに!!」
ゴギョウさん、やさぐれちゃったのか。
「そのようないきさつでして。今後とも宜しくお願いします、ガラ美様」
キリリと礼をする。
「イワガラミです。様付けは不要に願います。平民の出で旦那様であるサツキ様によって特殊な性癖に目覚めた、ただの下僕です」
「レベルが上がってますわ!?」
ただのメイドでは無かったのかと驚愕する。
嫌な規格の推移だな……て、レベルって言えば。
ちょいちょいと、ガザニア同様に距離置いて見守るシチダンカを呼ぶ。
「昨日の感触、どうか?」
顔を近づけてトーンを下げる。
話によっては席を外すか。
「アマチャとも合流しましたが、我らの一手もニ手も先を行っておいででした。サツキの姉さ兄さんの護衛に不足はありません。その分、気が置けるかどか」
「ガラ美は?」
「仕上げは済んでいます。ガザニア殿にも教導で入って頂きました。単独でAランク相当の踏破は可能です」
「先行は、行けるな」
「行けます。本人にも因果を含みました」
「了解だ」
話を切り上げ振り向くと、マリーがガラ美のパンツを上げ下げし、ガザニアとゴギョウさんがふむふむと感心していた。
何で数秒目を離しただけで異界になってんの?
「クラン、さっきの話だ。苺さんもいいですかぁ?」
一緒にメモを取っていたクランがこちらを向く。何を学習してんだろ。
「ん……お母様には私から説明する。多少の仕覚なら融通が効くから」
「頼む――ワイルドは中かな?」
控えているベリー家の侍女に聞くと、何故か身構えられた。地味に傷つく。
「何もしないよ?」
「すみません、既に覚悟は決まっているのですが」
何で俺が追い込んでる風なの?
「ワイルド。ベリー家の嫡子。居る?」
怯えさせないよう、片言の言葉で聞いた。
「居る。中。執務室」
片言で返してきた。
「どこの部族でしょうか?」
シチダンカが混ざりたそうにしていた。
「事態がどう転んでもいいよう、独立先行と本隊は分ける前提で進める。シチダンカは引き続きガラ美の指導へあたってくれ」
口調を戻したら残念そうな顔をされた。
「本隊には……やはり入られませんか?」
あ、そっちか。
彼にしては、歯にこえろもを着せてきたな。何か思うところがあるのかも。
「状況次第ってところかな」
「つまり、近々行われるという事ですね?」
ベリー家の侍女の言葉に、俺とシチダンカは困惑して彼女を見た。
え? 俺、何かするの?
「心構えができて仕舞えば、いっそ心待ちにさえ思えてしまうのですね」
肉感的な腰をくねらせていた。
どうか、俺とは無関係であってほしい。




