表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/389

191話 悲観するのは全部ダメだったらで良いのでは

中央都市編もあとわずか。

とりにワイルドニキ編を1話用意してますが、多分これが一番駄目なやつ……。

「それで、こちらとは……どういった?」


 新たな登場人物に、余所余所しくなった。

 トーンが落ちた。切り替えられて無い?


「ゴギョウさんだ。ここでの世話人。手配したのはあのオッサンだからな」


「そう……。」と小さく頷いた。


「ご無沙汰しております、クラン様。冒険者に出られる前の社交会以来ですね」


 スカートを摘んで膝を折る。

 それにも「そうですね」と短く応えるだけだった。


「クランも既知の仲だったか」


 何者かではなく関係を聞いたのはそれでか。


「……も? ゴギョウ嬢の事は覚えているのね」


 あ、拗ねた。


「存在だけなら朧げに」

「待って私はUMAですか?」


 俺の呪いを知らないとそう受け取られるか。


「本人と一致したのは先ほどだよ」

「因みに昨夜は一つのベッドで過ごしました」


 何で余計な事を言っちゃうの!? 脈絡ないよ!! あ、俺の態度が感に触ったのね。


「!?」


 反射的にクランが足を蹴ってくる。踊り子スキルを使う間もなくヒットした。

 痛いよ?


「普通に睡眠をとっただけだよ。寝具が一台しか与えられなかったから。それ以上は無いから。ね?」


 ゴギョウさんに同意を求める。


「はい。全裸でベッドを共にさせて頂きました」


 だから何で余計な事を言っちゃうんだよ!!


 反射的にクランのニールキックが炸裂した。かわす間もなくヒットした。

 めっちゃ痛い。


「それなのに、クラン様、聞いてくださいませ。サツキ様ったら想い人への義理を通されて、指先すら触れていただけませんでしたのよ? ふふふ、その想われてる方が羨ましいですね」

「……。」

「……。」


 はっとなって俺に熱の篭った視線を向けるクランから、反射的に目を逸らした。


 ……ごめん。ほんとはゴギョウさんが眠っている時に、ちょっとだけ揉んだ。

 格好つけて置いて克己(こっき)心が折れた。


 い、いや、だって、どんなのかなって気になるじゃん!?


「そ、それよりさっきの。らしく無いな。あんな三男坊なんかに言い寄られて」

「格下でも……貴族相手は冒険者の作法が通じないから。態度はどうであれ……誠意を前面にされてるなら」


 その態度が問題だっつーの。


「利欲が恬淡(てんたん)なんて言ったら胡散臭さしか無いよ。そんなアピール」

「訴求に……なってた?」


 本人がわかっちゃいないなら、次男坊のアプローチも無駄か。そんな世間知らずでもないだろうに。


「言う側と言われる方の立場によるだろ。至誠が無いんじゃ軽いんだよ。薄っぺら」


 今度はクランが視線を外した。

 何か隠してる?


「辺境伯の家の名は武勲により王家の誉も高い。ましてやSSランクなら尚更だ」

「言われる……までもなく……。」

「及び腰はらしくないと言ってるんだよ」

「特に説明する事でも……無いから」


 そんな顔で言われてもな。

 深いため息が出た。


「差し出がましい事を申し上げます」


 ゴギョウさん。見かねたかな。不器用ですまなく思う。


「先ほどのクラン様の飛び蹴り。お見事です。並の男ならお礼を申し上げていたでしょう」


 嫌な並だなそれ。


「同じく、サツキ様にも思う所はございましょう。一晩中裸体を晒して指一本触れられなかった女の言葉など他愛もないかと思われますが、指一本、全く触れられなかった私が言うのもおこがましいですが――。」


 めっちゃ強調してきた。

 え? 怒ってる? 何もしなかった事怒ってるの? それともバレてる? こっそり揉んで感触を確認した事。


「義理を隠し立てするのが決して美徳とは、言い切れないもので御座います。サツキ様は、女の甲斐性を無碍にする方では決して」


 穏やかな、優しい眼差しだった。

 うららかな春の日差しのような人だと思った。


「これからの展開には……必要だから」


 黙って彼女の声を聞いた。

 いつになくか細い声だ。なんて神妙な。


「騎士隊の何隊かは……開拓民の護衛に充ててもらうから……。」


 自分が気に食わない。俺への怒りだ。

 呪いを言い訳に粗末に扱った女の子に庇われていた。SSランクといい気になって。上手いこと立ち回ったつもりで。

 不愉快な感覚。


「それでクランが侮辱される事を是とすると思ったか? 憤りしか感じないよ」

不撓(ふとう)は……希望に置き換わると知っているから」

「そんな理屈――。」


 言い淀んだ。

 王国騎士団との軋轢の懸念が日和見を生ませたか。俺が原因で。


「だったら先に言ってくれ」

「見込みが立つまでは……どこまで通用するかだなんて……代行の肩書きで」

「何を甲斐甲斐しくなってんだ。それで内務補佐やあんな優男に言い寄られちゃ」


 俺が枷になったか。


「察するに、アルストロメリア開拓の部隊を案じられておられたのかと思います」


 言われなくたって分かってるよ!! 分かっちゃってんだよ!!


 クラン。

 この女。

 俺のために影で泥を被ろうとしやがった。


「警護については開拓民を始めとする非戦闘員に限定されると想像しますが」

「計画は言えないが、概ねは仰せの通りだ。だが――。」

「手段は幾らでもあるかと存じますが?」


 ゴギョウさんの言葉に、クランと顔を見合わせた。


「あの、取り敢えず全部試して見て、悲観するのは全部ダメだったらで良いのでは?」


 遠慮がちに言う彼女の方が、よほど冒険者らしかった。




 クランと共にベリー邸へ戻った。ゴギョウさんも一緒だ。

 ゴギョウさんについては、今後もこちらの侍女としてベリー家には後見に入って頂く。家同士が既知というのが大きい。


「昨夜はお楽しみだったんですか!? クランお姉さんとお城の個室でご一泊お楽しみだったんですよね!! どうでした? どんな具合でした!?」


 うるさいよ。


「お楽しみも何も無かったよ。有っても言わないよ」

「なんですと!?」


 だからうるさいって。

 戻って早々に食いつくな。


「恐れ入ります。お二人がお楽しみになれないのは、私にも責任の一端があります」


 ずいっとゴギョウさんが出る。出てこなくていいよ。


「むむ? サツキさん、また新しい女性を引き込んだんですか? クランお姉さんを放ったらかして最低です!!」


 こうなるから会わせたくなかった。


 後ろに控えるガザニアへアイコンタクトする。


『どうにかしろ』


 彼はただ、悲痛な面持ちで首を横に振るだけだった。

 そうか。駄目か。


「サツキ様につかえさせて頂く事になりました、ゴギョウと申します」

「マリーよ!! サツキさんだけのトップアイドルはクランお姉さんに譲ったの!!」


 その紹介居る? 初耳だけど。


「(え? モトカノという事でしょうか? こんなお小さい子が? え、サツキさんさん?)」


 謂れのない誹謗を受けた気がした。


「それよりも責任ってどういう事ですか? まさか三人でお楽しみ!? あわよくば三連結しちゃったんですか!?」


 どこで聞いてきたよそれ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ