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188話 二千万パワー

何か、色々ダメな気がしてきました……。

 正面に透け透けグラマラスな王妃様。入り口に楚々としたドレスの苺さん。

 匂い立つ女性の香りと共に退路が断たれた。

 だからって諦観(ていかん)の境地には早いんだよ。


「遠路はるばる王妃様の寝室にお越しいただいた所、誠に恐れ入ります苺さん。ですが自分、今はケイトウ王子に招集されており、すぐに席を外さなくてはなりません」


 直接断る算段だったが、このまま逃げ道に利用させて頂く。


「中央都市に滞在されるのでしたら、日を改めてご挨拶に伺いたく存じます」


 距離を測る。

 横。抜け出せるか。

 バタンっ、と登場時と同じ勢いで扉が閉まった。ダンジョンでモンスターハウスに閉じ込められた気分だよ?


「聞いた事があります」


 と王妃様の冷静な声が、滔々(とうとう)と蛇の様に纏わりつく。


「王城のどこかに、少年と熟れ頃の女が合体しないければ決して出られない良い部屋があったとか――よもや、ここがその部屋でしたか」


 なんつー所で寝てんだよ!!


「あ、ちょっと待っててくださいな」


 苺さんが一度ドアから出て行った。

 呆然とその背を見送ったが、


「……何をしないと出れない部屋だって?」

「こんな風習をご存知?」


 話聞かないのな。


「人生の先達たる年長者は、後進を教え導かなくてはなりません」


 何か始まった。


「かつて人は言いました。師匠の師匠は我が師も同じ、と。それは男女の間でも変わりません。男の子がいざって時に恥をかかないよう師として熟れた体を差し出すのも年長者の務め。若人は目の前の師匠を押し倒して初めて免許皆伝――待ってワタクシ何を言ってるのでしょう?」


 俺が聞きたいわ!! つか、どこのセイントだよ?


「でしたら、こうしましょう」


 ベッドに体を傾ける。ネグリジェ越しにぶるるんときた。加えて、肉感的な素足を放り出す。足首がきゅって締まってて、つま先、可愛らしいな。


「冒険者くんが本当にワタクシの事が嫌だと言うのなら、このままその扉から出ていらして。これ以上は引き留めはしません。どうしてもワタクシとじゃ無理と仰るのなら」


 分かってて言ってるだろ!!

 嫌じゃないし無理でもない――滅茶苦茶好みだから困ってるんだよ!!

 だからってここで溺れる訳にはいかないの!! ずっと好きでありながら嫌悪感しか抱かない子への義理を優先してんだよ!!


「ご相伴に預かります」


 何言ってんの俺!?


「素直な男の子は好きよ。ちょっとくらい抵抗してくれたら、もっと好きになっちゃうかも」


 ゆらりと、色々揺らしながら近寄ってくる。

 後退り出来なかった。

 口の中が乾く。

 これから起こる出来事に、眩暈を感じた。心臓のせいだ。打つのが早い。


 再びドアが勢い良く開いた。びびった。


「お母さんが居ない間に先に進んでます!! 王妃ちゃんずるい!!」


 戻ってきちゃったよ。

 あれ? 俺、何かの術に掛かってた?

 王妃様はベッドの上から動いていなかった。


「助かりました。苺さんは、どちらまで……?」

「ケイトウ殿下と話をつけたわ。サツキちゃんはもう来れないって言って来ました。だから大丈夫。今からいっぱい教えてあげますから」

「待ってくれ苺さん!!」


 何としても最悪の事態を回避せねば。

 王妃を指差す。


「コレ一つでも手に余るってのに、その上苺さんまでだなんて、もう普通じゃダメになるから!! せめてここは引いて別の日にという事で!!」


 問題を先延ばしにした。

 あと、既に俺の中ではコレ扱いだった。


「ワタクシをご自分のモノの様に扱われるのですね!! 冒険者くんってば可愛い!!」


 身悶えしてるよ!?


「王妃ちゃんだけ贔屓するのね!! お母さんはもう飽きちゃったのね!?」


 むしろ飽きるのと無縁だろこの人!!


「もう!! こうなったらお母さんだって!!」


 苺さんが自分の背に手を回すと、しゅるるという布擦れ音と共にドレスが床に落ちた。


「セパレートしちゃうんだからぁ」


 現れたのは、清楚なドレスに似つかわしくない艶麗だ。

 純白に薔薇の刺繍を施したコルセトの上で、爛熟した果実は重力に屈することを知らず、これも薔薇のレースをあしらった下着を押し上げていた。

 同じく白雪のような足を包むガーターよ。腰回りから太ももへかけての匂い立つ肉感よ。


 あぁ、眩暈がする。おのれ、これがムーバブルフレームってやつか。


 あまりの暴力的な光景に震撼した。

 なのに、笑い声。

 高らかと。

 容赦なくこの場の膠着を氷解させる笑い声が響き渡ったのだ。


「フハハハハっ、そこまでだ妖艶なるご婦人がたよ!!」


 バンっ、と衣装部屋へ通じる扉が開くと、白いシルエットが腕組みをしていた。


「我が来たからにはもう延長して放送などさせはせん!! 男女間の壟断(ろうだん)など言語道断と知るが良い!!」


 また頭おかしいのが来た……。


「おのれ何やつですか!?」


 いや、あんたの息子だろ?


「フハハハッ、待てど暮らせど一向に現れぬと思ったが!! よもや宮中で足止めを食っていたか!! 愉絶この上無いな!! 腹いてぇ!!」


 笑いこっちゃ無いぞ。

 言葉の通りお腹を抱える白い犯人――アザレア王国第一王子。

 美しい顔立ちと均整の取れた肉体を持ちながら、やっぱり残念この上なし。きっと箸が転んでも「うむ、愉絶なり!!」とか言って笑っちゃうんだろうな。


「そこな芙蓉なる花は我の客人ゆえ返して頂くぞ、妖艶なる人よ」


 自分の母親捕まえて言うことか?


 ――後々、これがブーメランになって返って来るとはな。


「くぅっ!?」

「……どうしたの王妃ちゃん?」

「この者、何故か心が読めませんわ。もう、笑っちゃう」


 そういや身内は読めないって話だったな。

 その時点で気づけよ。あんたの息子だよソレ。ていうか何であんたも笑うの? 


「ではまた会おう、フハハハッ!!」

「何さり気なく俺を拉致しようとしてんだ?」


 腰に手を回すな。抱き寄せるな。

 いや、「また会おう」ってのはここの家のお休みの挨拶か? 次に会うのは朝食の食卓だぞ? 気まずいぞ?


「みすみすワタクシ達の冒険者くんを奪われてなるものですか!!」


 貴女の物になった覚えは無い。


「誰かー!! 出会え出会えっ、ちょっとでいいから出会ってよ!! 曲者(くせもの)ですわよ!!」


 いや、こんな場面に来られても……。


「外の連中には別のお使いを指示している。暫くは何人(なんぴと)も立ち入れぬわ」

「おのれちょこざいな子ですわ!! 誰に似たのかしら!!」


 どう見てもあんたら二人の子だろ。

 ほんとどうなってんだここの王家? 一家揃ってどうかしてるぞ。


 ――これも完全にブーメランになった事を、この時の俺はまだ知らない。


「かくなる上は、ワタクシたちで!! いいわね、苺ちゃん?」

「えぇ、アレをやるわよ王妃ちゃん」


 ゆらりと王妃が立ち上がる。呼応する様に苺さんも間合い詰めた。


「ワタクシが力の一千万!!」

「お母さんが技の一千万よ?」


 それぞれ謎のポーズを取る。


「このままロングホーントレインですわ!!」

「お母さん達と三連結しちゃうんだから」

「ちょ、何でそこにロングホーン装着してんの!?」

「安心してサツキちゃん――チヂレ毛だからアップになればどこに着いてるかなんてわからいわ!!」

「アップにすんなや!!」


 今はまだパンツの上からだが、いよいよとなったら直接装備するらしい。そうなったら、会話は全部アップで通すのか……。


「さぁ冒険者くん、真ん中にいらして!!」

「って俺も混ざるの!? 相手に突進すんじゃないんかい!! だから尻を突き出すな尻を!!」

「フハハハハッ愉悦極まりないな!! お客さまぁ、ご乗車になってお待ち下さいぃぃ!!」

「やかましいわ!!」


 そして近衛隊が雪崩込んで来る。

 よりにもよってこのタイミングで。


「如何なされましたか!? ――って本当に如何なされてるのソレー!?」(ガビーン)

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