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186話 ゴギョウ

188話が難産過ぎて下書きのストックが無くなりました。

 オッサンと別れて早々に検察長室行きだ。分庁舎以外にも各長官は王城に執務室を持つが、何で俺、高待遇受けてるの? 直々に調書を取られたぞ。

 出されたお茶もサクラサク国の頂きものだ。使節団の献上品を下賜されたんだろうな。

 問題視したのは予想通りレッサーデーモン並びにサモンジュエルだった。査問だけに。

 そうか。

 白い人については聞かないんだ。

 いや、目を背けてる?

 あ、聞きたくないのね。

 因みに俺の素性は、ドレスのスリットを大きくはだける事でぼやかしてもらった。おい、いいのか? 検察長?

 まぁ、夜の事情聴取とか言い出さないだけマシか。




 用意された客間が異常だった。

 これ貴族向けだろ?

 二十八畳もある間取りに、王族か上級貴族の寝室に備わるような美術品が輝いている。テーブルには大輪の花を生けた花瓶に、フルーツの盛り合わせ。ベッドなんて天蓋付きだよ。

 そして何より、


「お疲れ様で御座いました、サツキ様」


 何か居るし。


 ゆったりとした質素なドレスは、それでいて品の良い作りだった。黒柿(くろかき)の髪を後ろで綺麗にまとめ、白いキャップを被せている。おっとりとした目鼻立ち。声のイントネーション。肉付き。

 貴族の子女か。年は20代中盤。30は行ってないかな。化粧は薄い。分かってるじゃねーか。


 ……。

 ……。


 あれ? 俺、そんな物欲しそうな顔してた?


「はい、お疲れ様です。貴女は?」

「サツキ様がこちらへ滞在中に身の回りのお世話をさせて頂きます。一メイドとお考え下さい。ゴギョウと申します」


 使用人ではなく付き人。侍女ってやつね。

 王城じゃあまり見なかったな。基本、ツバキ王女が好き勝手動き回るから、どこかで諦めがついたのだろう。

 ベリー邸ではクランに専属が四人も着いていた。いずれもベリー辺境伯の寄子の貴族子女って話だ。スミレさんの所のアザミさんやアサガオさんと言えば分かりやすい。

 で、ここに来て(おんな)を充てがってくるというのは……今日はここから出るな(大人しくしてろ)って事か。


「お世話ねぇ……。」


 失礼にならないようさり気なく相手の頭頂から爪先まで確認する。危険物の携行は認められない。

 いや? 何だろう、違和感がある?


「ご奉仕とお考え頂ければと存じます」

「ご、ご奉仕……。」

「はいご奉仕です。そりゃあもうあんな事からこんな事まで」

「あんな……こ、こんな……。じゃあ、じゃあさ、早速で恐縮なんだけどさ!!」

「はい、何なりと」

「言いずらいことだが……。」

「ご遠慮なさらず。そう言うことも含めて私はここにおります」

「着替えたいんだけど席外してもらってもいいかな?」

「……。」


 落ち込んだ顔をされた。明らさまに。

 いや、ほら。俺、まだイブニングドレスのままだし。この下ガーターだし。

 それに、

 ――記憶を整理しなくちゃ。


 この人。どこかで会った事がある。


 眉根を寄せてると、恭しく頭を下げてきた。

 一言。

 彼女は「お任せください」と宣言した。



 まさか、こんな事態になるとは――。



「離して!! ダメ、ただでさえ薄い生地が!! 薄い生地が!!」

「ご安心ください、ドレスの扱いは慣れております。お着替えの手伝いもまた私の仕事なれば」

「自分でできるから!!」

「いいえ。ドレスは種類によって扱いも異なるデリケートなものです。モーニング、アフタヌーン、イブニングだけで大違いなんですよ。お召しになっておられるものは、とても質のよろしいものと拝見します。適した作法にのっとらなくてはなりません。って、言ってるそばからどうして無造作に脱ごうとするんですか!!」


 正直、見られるのは諦めた。

 ただ、もう着替えさせられるのだけは勘弁。



 攻防の末――。



「はい、ここでばんざーいして下さい」


 着替えさせられていた。


「って、待って、流石にそこは!!」


 ばんざいしたら見えちゃうし。


「大丈夫です。恥ずかしがる事はありません。同じ女同士ですから」

「男の子!! アイアム男の子!!」


 ゴギョウさんが、ゆっくり首を傾げる。


「……何と仰せでしょうか?」


 きょとんとされてもな。俺の素性、知らされてなかったのか?


「男で悪かったな、俺は男だよ」

「!? では、では私は今、ひと回りも年下の男の子の服を剥いでいたと仰せですか!?」

「仰せなんだってば!!」


 話が通じてくれたか。


「確かに……夜のお相手も申しつかってまして、女の子相手におかしいなとは思いましたが」

「気づこう?」

「でしたら、それはそれで好都合」


 何でだよ?


「いっそこのままお手つきにあって既成事実ともなれば私としましても不都合はございません」

「君だって貴族のご令嬢でしょ? 冒険者相手だなんて勿体無いでしょ?」


 言い方、ちょっと無調法か。


「貴族と申しましても男爵家の三女です。将来性もなく政略にも使えず、お家の発展にも役立てません。世界は厭世(えんせい)にしか映りませんでした。ですがSSランクの冒険者様に見染められれば。ましてや、これ程までに可愛らしい方の下となれば、私的には勝ちです」


 あ、勝っちゃうんだ。


「どうぞ、馬鹿な女が夢を見たとお笑いください――いつか白馬に跨った、セクシーなドレスを着た美少女の王子様が迎えに来てくださると」

「その王子様、絶対に心の病を患ってるよ!!」


 いや実在する王子様もどうかしてたが。


「折角の縁だが俺には心に決めている人がいるんだ。ゴギョウさんには応えられない」

「まぁ!!」


 本心を告げると、手のひらで口元を抑え感動された。

 え? 拒絶したんだけど?


「今宵限りの使い捨てと扱われることも覚悟しておりましたのに、そこまで誠実に向き合って頂けるだなんて!!」


 そうきたか。


「どうせ向き合うのですから、いっそこのまま剥き合ってみてはいかがでしょう!!」


 そうきたか!!


「落ち着き給え、ゴギョウさん。いいから落ち着け、何で俺の着替えでおめーが先に脱いでんだよ!!」

「はっ!? し、失礼しました、私としたことが取り乱してしまい……。」


 よし、落ち着いた。


「サツキ様は――着衣のままがお好みなんですね!!」


 何ひとつ落ち着いちゃいねーよ!!


「君はもうそっちの事しか頭にないのかね?」

「この好機を逃すわけにはならないのです!! ……それとも27なんて一回り上では、やはりお気に召しませんか? ろくに交際経験もなくただ歳を重ねていくだけの無価値n」

「それ以上は喋らないで!! 色々な人に刺さるから!!」


 あと正直、守備範囲だ。


「コホン、失礼いたしました。それでも側室にと望む者は私の他にもいらっしゃるかと存じます。特に、オダマキでのご活躍(メイド姿)は映像として広まっています。これでファンになった女性も多いと伺いました」

「だったら尚更おかしいでしょ」


 女だって思われてるなら。


「あの、申し上げにくいのですが私の場合は、特に夜のご奉仕を強調されていましたので、そういう趣味の女の子なのかな、て」

「誰の指示だよ!!」

「国王陛下で御座います」


 あのオッサンか!!


「きっと初めてだから優しく導いて差し上げるように、と」


 あのオッサンめ!!


「私とて初めてで御座いますのに、一体何を導くと言うのでしょうね。あははは……。」


 なんか、すまん。


「君も巻き込まれた口か」


 だが、国王自ら男爵家の三女を気にかけた?

 それでわざわざ俺にあてがうって?

 違う。順序が逆か。


「私は既に一回りも上ですからサツキ様のご趣味の範囲では無いでしょうが、SSクラスともなれば騎士爵や名誉男爵に匹敵されます。今後もそうした者も現れるでしょう」

「範囲なんだよ……。」(ボソ)


 あのオッサン……やってくれる。入れ知恵は王妃様か。謁見で散々読まれたな。


「え……あの、失礼しました、よく聞こえなかったのですが」

「だから、好みの範囲だから困るって言うんです。大体SSが爵位って、そんな説明聞いてないよ」


 うちの師匠を見れば、爵位なんてガラじゃ無いもんな。


「あの、恐れながら、その、こ、好みという事は、つまり私と体を重ねる関係になっても問題ないと言う事でしょうか?」

「問題しかないと思うよ?」

「平行線ですね」


 え? 俺が悪いの?


「ではこうしては如何でしょう。まずはお試しという事で。お試しに既成事実を作ってみるという事で如何でしょうか」

「試しで作るようなものかそれ?」


 不意に、空気の振動を感じた。

 桜色に頬を染め迫るゴギョウさんが「あら」と天井の一角に目を向ける。

 澄んだ音色。鈴の音だ。


「こんな夜更けに、どなたか来られたようですね」


夜更けに人の部屋で脱ごうとしている女が何か言っている。

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