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183話 恥ずかしくないのですか?

親族で不幸があり、更新が遅れています。

 逆袈裟斬りで左下から肩口へ、実に鯉の滝登りの如く傷口を露呈して、レッサーデーモンは苦悶の声を上げた。

 表情は苦痛よりも、困惑が正しいだろう。


 何故、人類如きに容易く斬られたのか。


「そうれ、もう一押しだ」


 白タイツが腕を振る度に、異界の悪魔は身を切り刻まれ体液を撒き散らした。

 奴の目が黄色に輝く。

 光の(またた)きは(いびつ)に盛り上がった右腕を通し、その先――白タイツの頭上へ振りかざす五指に収束する。火花が散り電気が放電していた。


「仕掛けてくるぞ!!」


 思わず叫んだ。叫ばなきゃ良かった。


「声援としては、いささか色気がないのう」


 こちらを振り向くのと、最後の一刀が横に振られたのは同時だったろうか。


「むむ? おお!!」


 俺と目が合うなり、白い犯人がこちらへ足早にやってくる。

 レッサーデーモンの口が笑いの形に歪んだ。なす(すべ)もなく斬られていたが、反撃のタイミングで背を向けたのだ。馬鹿な人間だ。この程度で勝ったつもりになったか、と。


 信じられない光景が起きた。


 俺の前まで来ると、全身白タイツが膝を突き恭しく俺の手を取ったのだ。

 手の甲に、さっき頬に感じたものに似た感触を受けた。

 瞬間、

 レッサーデーモンの開いた五指から電撃が溢れ、それも束の間、その異形な首が滑るように体から落ちた。

 崩れゆく悪魔の肉体を背景に、彼は真摯な声でこう言った。


「かような尤物(ゆうぶつ)は稀ではないか――運命の女性(ひと)よ。ようやく巡り会えた」


 俺かよ!!

 いや、そんなの探してるって最初にスズラン亭で聞いたけどさ!!

 俺かよ!!


「……サツキくん、どういう事? そんな、誰とも分からない変質者と……将来を約束してたの? え? 嘘……さっきまでの二人の共同作業は何だったの!? あんなに二人いい感じだったのに!!」


 狼狽え過ぎだ。いいから落ち着け。

 因みに、レッサーデーモンに準備した時計塔は先端が空中に突き出たまま滞空していた。


「フハハハッ!! 誰とも分からぬ変質者とは、卿でも冗談を申すのだな!!」


 変質者が立ち上がり高笑いをする。

 クランがその股間から目を背けた。いい加減、セクハラだと気付け。


「変質者に……馴れ馴れしくされる覚えは……ありません」

「フハハハ、ベリー代行よ。存分に笑わせてくれる。もう最高!!」


 愉快そうに腹を抱える白タイツだが、ふと何かに気づきまじまじとクランを見る。

 俺は気づかれないよう、膝を落とし下半身のバネの予備動作を終えた。例えこのお方でも、クランに何かしようものなら、ひとまずその首を頂戴しよう。


「よもや、本当に余の事が分からんのか? 我が妹よ」

「私に……ワイルド兄さん以外の兄上様は居ません――まさか!?」


 全身白タイツが手早く顔のマスクを脱ぎ、素顔を晒した。


「余だよ、余」


 余だ余だ詐欺のノリで現れたのは、黄金色の髪に甘いマスクの若者だ。アザレア国第一王子。ケイトウ殿下その人であった。

 思わぬ正体に口をぱくぱくさせたクランだが、四方に目を泳がせた結果、俺に視線で縋ってきた。

 そうかい。

 なら引き受けたぜ。コホン。


「――分かるかよ!!」


 今日一番のツッコミだった




 この国の王族は変態しか居ないのか?

 そんな疑問も、落ち着きを取り戻したクランに丸投げする。


「ケイトウ殿下……何故このような変質者と(おぼ)しき行為をされておいでなのですか? 王族が不審者のような振る舞いをして……恥ずかしくないのですか? この格好も……恥ずかしくないのですか? いいえ、お答えいただかなくも……深いお考えがあっての事かと存じます。それよりも何ですか? ツバキ殿下といい、どうして私のサツキくんを手篭めにしちゃうんですか? 恥ずかしくないんですか? サツキくんも、ケイトウ殿下に見染められて何で満更でもないって顔になっちゃってるんですか?」


 いかん矛先が俺にきた。


「うむ、幼少の頃から妹のように可愛がってきたクラン嬢が、いや、今はベリー辺境伯代行であったな。君がここまで弁舌なのは実に久しいぞ。いかなる心境の変化であろうな!!」


 言われてクランはグッと俺の腕に抱きついてきた。


「このお方が、私の股ぐらに顔を埋めて下さると約束して下さったのです!!」


 いや何だよその説明!? お前こそ恥ずかしくないんですか!?


「ふむ。だがそれはそれ、これはこれ」


 うちはうち他所は他所、みたいな事を言い出した。

 コイツら、深追いさせちゃ駄目だ。


「そもそも高貴なお方がそのようなお姿で何をされておいでで御座いましょうか?」


 ここは話を変えるに限る。ていうか、ほんと何やってんのそれ?


「この姿は世を忍ぶ仮の姿よ」


 忍べて無いがな。


「こうして夜な夜な歩き回っては人知れず中央都市(アンスリウム)蔓延(はびこ)る暗部を誅して回っていたのだ」


 全身タイツで徘徊してたのか……。


「何せ未だに法で捌けぬ悪が巣食っておるでな」


 一番法で捌きにくい奴が何か言っている。


「お話は大変よく分かりました……ケイトウ殿下。御身みずから面倒事に……首を突っ込んでおられるとは」


 流石のクランも投げやりになっていた。


「なんのなんの」


 こっちはまるで堪えてない。

 学園でのビジョンでは博学才類に思えたが。よもやこっち方面にうつけとは。


「では、重要参考人は余の方で引き受けよう。あれの召喚者がそうであったかな」


 辺りを見渡すが、さっきまで隅っこに吹き飛ばされた執事頭が居ない。


「逃げられ……ましたね」


 クランの言葉に、兵士達がざわついた。デーモン召喚という危険な現場に立ち会わされた上に、ことの元凶が早々に退散したのだ。


「お前らも所詮は使い捨てだったか」


 したり顔でゴロツキが兵士の肩に手を置く。


「よし、飲もう。今夜は飲もう。色々忘れようぜ!!」


 いい顔で言ってるけど、ここにいる人みんな重要参考人だからね?

 俺やクランだって例外じゃないんだから。


「ならば、ちょっと行って連れてくる」


 王子、自分で連れ戻す気か。その格好で出ていっちゃう気か。

 クランもさっさと行けって顔で見てる。


「だが、その前に――。」


 王子が俺に向き直り、恭しく礼をした。白タイツで頭が王子の謎生物が。


「余と一曲踊ってはくれまいか?」

「いいからさっさと行けよ!!」


 何でこんな所でシャルウイダンスのくだり(伏線)を回収しちゃうんだよ!?

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