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181話 サモンジュエル

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


今回は説明文長いです。

「証言の擦り合わせが済むまで……記憶は消しちゃ駄目」


 私兵どもの発言が使えるかって話だけど。


「承知したが、君の脚が見られたのは気に食わない」


 ていうか、この反応。どんだけ上まで捲ったんだよ。俺だけ見てないのかよ。

 ……いや、見ても吐き気しかしないけどさ。


「ええい、また舐めた事を言いおって!! 冒険者が!!」

「彼ってば……私の事を心底嫌ってるのに、独占欲だけは強いんだから。てれてれ」

「旦那!! このご令嬢ほんと大丈夫なんすか!?」

「大丈夫だったら俺だって恐怖は感じ無いぜ」


 そうこうしてると、


「よし、動けるようになったぞ!!」


 私兵達が復活した。いいから黙っとれ。

 自分のドレスの裾を太ももぐらいまで上げて見せた。


「ぬぅ!? またしても麻痺系呪文か!!」


 私兵達が動きを止めた。


 ……嫌な「だるまさんが転んだ」だな。


「だ、旦那、それはちょっとはしたないですぜ」

「ぐぬぬです……おのれ麻痺系呪文……。」


 ってお前らもかかっとんのかい!!

 ていうか、クランも何で前かがみなの?


「くそ、俺以外は全員変態か。(つら)いな!!」


 ただ一人、


「おのれ、貴様さえ!! 貴様さえ卸を回してさえいれば!! 我らがご当家の抱えた在庫の山をどう補償してくれる!? そうだ、貴様が補償をせねばならないのだ!!」


 執事頭だけ元気いっぱいだった。

 ていうか、まだ言ってるのか。


「渇して井を穿つってやつだろ。先見の明を蔑ろにしておいて、よく人に言えるな」

「ん……指揮の目算に慧眼が共わないから……過誤を犯してしまう。責任の取り方……下々に落とし前を付けるのも……ノブレスオリージュよ」


 クラン。どこか思うところがあるご様子で。


「心血も注がなかったのが……今更になって、檮昧(とうまい)な事を言うから」


 心構えには賛同するが、貴族じゃない奴に言ってもな。


「知った風な事を!! もはや慈悲も掛けぬわ!! ここで己の愚かさを悔やむがいい!!」


 ほら、迂愚(うぐう)には理解できない。

 それより突き出された奴の右手だ。手のひらは上へ広げられていた。その上に赤い菱形の物体が自転しながら浮かんでる。


「あれは……サモンジュエル……。」

「知っているのかクラン!?」

「さては……サモンジュエル……。」

「あ、うん。よく分からないんだね」


 赤い結晶が彼女の言う代物なら、あの中にはアレが居るはずだ。その名の通り。


「流石に知っているようだな!! そうだ、これこそ魔物一匹だけ封印し意のままに操れる――馬鹿な!? 私はお前の召喚者だぞ!? なぜ言う事を聞かん!?」

「まだ封も切ってねーじゃねーか!!」


 せっかちにも程があるぞ!?




 魔物は大別して魔獣系と部族系に分けられる。後者を魔物系部族と呼んだ。オーク、コボルト、アラクネ、アルラウネ、ドラゴニュート等を括るが、さらに大枠を言うと、定番のエルフ、ドワーフ、パン、ホビット、獣人、魔族、ついでに人類も、ひっくるめて亜人類と称した。そりゃ人類だって他の文化圏から見たら亜人だもんな。


 魔物系部族はさらにダンジョン系魔物と大別する。というのも同種の魔物がダンジョンモンスターとして生成され、前者の集落など高いコミュニティを持つ部族とは一線を画すからだ。

 分かりやすい例だと、森に住むオークがパーティを組んでダンジョンオークを討伐する。極端な所ではオークやコボルトと共闘した冒険者の報告もギルドに上がった。その際、当該パーティは人類の通貨では報酬が支払えず、討伐したダンジョン系魔物の素材を各種族に引き渡したらしい。


 当然、俺たちの狩の対象はこのダンジョン系魔物か野生の魔獣系魔物になる。


 ダンジョン系魔物の大きな特徴は、知性を僅かに確認されるものの理性がない点だろう。群れで襲ってくる事はあっても「助け合う、慈しむ」等、コミュニティに必要不可欠な前提が大きく欠落していた。

 例外があるならゴブリンだ。森に住む種もダンジョンに住む種も大差がない。他の魔物系種族からも忌み嫌われていた。亜人類からしたら、被害しか生まないんだからそりゃ討伐対象だわな。


 ……いや、カサブランカのエボニーミノタウロスもどっか変だったな。


 アイテム系の封印でも一つ一体のサモンジュエルには期待が持てなかった。カサブランカの蟹やオダマキのエビや王立第一のマグロみたいなのが入ってるなら話は別だが――別に水上げの話ではない。


 執事頭の右手から溢れる赤光が一気に強まり、倉庫の中を白昼のように照らした。

 すぐさま波のように光は退き、彼の前に前傾姿勢の巨漢が鎮座した。赤黒い肌に上半身は歪に筋肉が盛り上がった姿は、一言で言えば異形だった。馬面の面長な頭部には、これも歪曲したツノが二本生えている。

 なんて事だ。

 コイツは、当たりだ。


「サツキくん……あれは」

「ああ、お初にお目に掛かるぜ。拝見するに下級種だがギルドの資料と一致する。レッサーデーモンと見受けるが、サモン系呪物に収まるものか?」

「封印したまま売買されたと……推測」


 アリなんだ。

 デーモンが右手でガチョーンのポーズを取る。


「ほんと無聊(ぶりょう)を慰める心配に縁がない事で」


 奴の瞳を睨め付けながらステップを踏む。

 踊り子(反射盾)のインターバルは済んでいた。


「全員後ろへ!! そっちの兵隊も!!」


 クランの感触を背中で感じ、ゴロツキと男爵の私兵を背に庇う。

 タイミング良し。反射盾――かき消された!?

 咄嗟に防御盾、も砕けた!!

 目の前に六角形の陣が浮かんだ。衝撃波はやっと食い止まった。

 俺の左肩に手を置き、寄りかかるように右手を振るったクランの防壁系だ。支援魔法も網羅する才女だ、舐めんじゃねーぞ。


 ……俺、つくづく役に立たねーのな。


「レッサーデーモンのガチョーン一発に三枚掛けかよ。コスパ最悪だな」

「反射盾……しばらくは出せないんでしょ?」

「回避盾なら幾らでも」

「……私に当たっちゃう」

「じゃあ無しだ」

「うん、無しで――次、来ます」


 奴の右肩が上がる。その場で不動のまま、余裕のガチョーンだな。

 ストレージから抜きざまにシャマダハルを放った。

 空間と空間の虚無を超えた、シャマダハル居合い抜きは、目の前で消えた先端が、全く別な場所――レッサーデーモンの体を腕ごと巻き取った所で顕現する。


「動き封じた、トドメどうぞ!!」

「うん……無理」


 彼女の吐息混じりの声に耳をくすぐられ、反射的に身悶えした。


「火球結界なり花道なりかませよ!!」


 クランの唇から逃れるように、身をそらす。今夜はやけにベタベタしてくるな。


 ……あれ? 期待されてる?


「杖が無いから……この簡易ロッドじゃ、火力が足りません」


 人間相手を想定してたし、相手にSSランク相当が居なきゃ遅れは取らない算段だったもんな。


「だったら補助に徹して、それから――もうちょっと離れよ? ね?」

「嫌」


 そっかー、嫌かぁ。

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