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18話 パーティ会議

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。

 実家では姫巫女をしていた。

 舞を奉納するわ、神事で正装して飾られるわ。もう姫巫女無双だ。皆んなもいい御輿を担いでくれた。物理的に。

 わっしょいされると気分が上がる。

 ただ、アカシアさんに披露してきた術。あまり巫女とは関係ない。納得されても困る。

 尚、末っ子とはいったが、一番上の兄とは会ったことがない。例のトロル殲滅戦の時に出来た子だ。

 今は厄介な呪いに掛かっているけど、特に問題なく元気にやってるらしい。あと相当な美少女って事以外は聞かされていなかった。

 ……うちの長男、ほんとに男の人なんだよね?

 ていうか厄介な呪いで元気とか、どんだけマゾ気質なんだ長男?


「コデマリくん、そんなに可愛いのにアセビ――グレートホースのお世話や御者なんて大丈夫なんですか?」

「お任せ下さい! 旅に出るにあたり様々な訓練を受けてきました!」


 同郷、てことは、この子もまだ旅の途中でしたか。

 うちの長男もこんな感じなのかな?


「貴方も変なジョブのせいで修行に出た口かしら?」

「……。」


 あれ?


「あ、ごめんなさい。変なジョブの事なんて言いたくないよね」

「あるじよ。ぬしは時折、思いやりが壊滅的であるな」

「にゃ。コデマリにゃ。旅の理由や、個々人の特性にゃんてものはヒューマンそれぞれだから気にするにゃ」

「貴方達、追い討ちと励ましが入り混じって何言ってるのか分からなくなってるわよ?」


 混沌としてきたな。


「……僧侶なんです」


 ポツリとコデマリくんが告白した。


「僕……男の子なのに……女僧侶なんです」


 皆んなが「あー」て顔になった。

 なんとも言えない空気だ。

 誰が決めてるのか知らないけど、天啓である職業は変更ができない。この子は生涯、女僧侶という十字架を背負っていくのだ。


「私は、いいと思うわ」


 私、何言ってるんだろう? 適当にも程があるだろ。

 私だって役立たずと言われた火炎系魔法使いなのに。


「本当ですか……? ハイエンシェント・プリンセス様が仰るのなら、もう少しだけ頑張ってみようかな」

「マリーさんは、もう姫巫女とか名乗らない方がいいと思うわ」


 すまんのう。

 あと、アセビが慰めるようにコデマリくんに顔を擦り付けていた。

 あれ? 距離置かれてるの私だけ?



 アセビの預かり先。見つからなかった……。

 結局、代官さんのお屋敷でお世話をする事に。すまんのう。

 でもね。馬舎に送り届けた時、どうしてほっとした顔をしたのかな?

 あと世話係のコデマリくんも一緒に行くと言ったが、これは全力で反対した。

 結果、出発までは二人でアカシアさんの部屋にご厄介に。

 経緯としては、馬舎に住み込むと言うコデマリくんに、私がついて行くと言ったらアカシアさんに肩掴まれてハウス言われたのだ。何でかな?



 歓迎会だ。小さいながらも家庭的な料理が売りな居酒屋でした。

 よし。飲ませよう。

 としたが、ここでもアカシアさんに肩を掴まれた。

 まぁいい。ここは一旦退いておこう。私は待てができるいい女だからな。

 会話は、最近の出来事や無難なものだった。

 出自や身の上は語らない。私たちのような流れ者は過去に何かしらある。

 立ち入った話は厳禁だ。昔し誰かが言っていた。聞くは無粋、語るは野暮ってやつだ。


「それでお聞きしますが、コデマリくんはどんな女の子が好きですか? あ、別に立ち入った事を伺いたいのではなく、あくまでも一般論で、です」


 料理が美味しいと会話も進む。そしてお酒も進むのだ。さぁ、言っちゃえ。吐いちゃえ。いや、違う。そっちの吐けじゃないから。


「マリーさん……だいぶ回ってるわね」


 むむ。アカシアさんが引き気味だ。

 違う。一歩退がりながらも興味津々だ。そりゃこんな可愛らしい子が憧れる人物像って気になるだろう?


「あの……言わなくちゃ駄目ですか?」

「我が問いに答えるがよい」

「どこの古代遺跡の門番よ?」


 アカシアさんが眉を寄せる。ちょっと吹きそうになった。


「えっと……と、とても恐れ多い事なのですが……。」


 お? いいぞ、言っちゃえ言っちゃえ。

 待て。恐れ多いだと? この子がそう言う人。それってまさか――。


「き、キンセンカ様のようなお方が、とても素敵だな、と……。」


 って違うんかい!!


「あら、それは分かるわ。キンセンカ様、お幾つになられても美しいし、あのおっとりしてるというか、包み込んでくれる感じ、憧れるわよね」

「素敵ですよね」


 おっとり?

 包み込む?

 初対面の男性の動きを封じ込めて咥え込む人だよ?

 キンセンカ様……私のお母さんだ。

 でも、そうかぁ。

 男の子ってああいうのに憧れるのか。道のりは遠いな。

 技を。

 ぱんっ、と自分の頬を軽く叩き気合を入れる。

 技を磨こう。


「事情は分からないけれど、その決意はあまり良くない気がするわ」


 今日のアカシアさん、私に少し辛辣じゃない?

 ひょっとして、これが友情の距離感かな?


「アカシア殿、友人は選ばれることを勧めるぞ?」


 隣で上品に肉料理を切り分ける白い着物が失礼な事を言っていた。

 小皿にそえた料理に大皿からすくったソースをかけ、皆の前に置く。続いてボールからサラダの追加をよそう。何で気が利くのこの子?


「アカシアさんは、その、キンセンカさんという人の事を知ってるんですか?」

「マリーさんほどじゃないわよ。子供の頃、とても良くして頂いたわ。優しくてお美しい方で、アタシたち四人、みんなあんな風になりたいって憧れたわね」

「は、ははは。ここまで来ると、お互いの事情、ぶっちゃけたようなものですね」

「ふふ、最初から隠す気なんてなかったくせに」


 言われて、コデマリくんの方を見た。


「そりゃ、同郷の子が居る時点で隠し通せませんから」

「す、すみません!! ボクが喋っちゃったばかりに!!」

「いいの、いいの。とっくにバレてたみたいですから」

「にゃ。にゃーの正体もマリーはわかっているにゃ?」

「師匠は……全然です」


 そういえば師匠って何なんだろ? 猫の妖精? 魔物や魔獣じゃないし、元人間の賢者様とか?


「この子は、上級精霊よ」

「上級精霊!? 顕現できるんですか!? ていうか、アカシアさん、師匠とお知り合いだったんですか!?」


 むしろ、そっちの方がショックだ。


「騙すような真似をしてごめんなさいね。貴女に紹介したい仲間っていうのがこの子なの」


 代官の人身売買犯罪を水際で防いでいた仲間。確かに言っていた。私が気に入るとも。

 ちなみに師匠の前に料理と一緒に置かれてるのは、サラダではなく猫草だ。凄いな、メニューの幅広いな、ここ。


「とにかく標的になりたくて目立つ必要があったのよ。それでこの子を知り合い、まぁ、マリーさんには分かるからいいか。クロから貸してもらったの。この子の本当のご主人はアイツだから」

「今はアカ様がご主人代行にゃ」


 次々と明かされる事実に、私は「はえー……。」としか言えなかった。

 あと、もう語るは野暮とか言わない。


「あの、でも、いいんですか? そこまで教えて頂いて……?」


 横目でコデマリくんを見る。流石に漏らし過ぎなんじゃ。

 アカシアさんは私の視線を察して、「仲間外れは嫌じゃない?」と小さく首を傾げた。大人の女の余裕だ。こういうの憧れる。

 よし。今度使おう。

 昨夜、同じことを荒くれ者たちにやった気がするけど、人生、何事もトライアンドエラーだ。



 師匠とはお店の前で別れた。

 どこで寝泊まりしてるのか、アカシアさんも知らないそうだ。

 猫集会とかやってたらどうしよう。

 オブザーバーとして参加したいな。

 色々聞いちゃったけど、師匠はやっぱり謎だ。アカシアさんもいまいちぼやけてる。おっと、詮索は無しだ。



「コデマリくん、コデマリくん。ちょっと提案なのですが」

「はい、マリー様」

「様は余計ですよ?」

「……ま、マリーさん?」

「んー。まだ少し余所余所しいでしょうか。そうだ、一度試しにお姉ちゃんと呼んでみてはどうでしょう?」

「え、えぇと、それでは――マリーお姉ちゃん?」

「ふわぁ」


 なんか胸に来た。こう、胸に、こう!!


「こらこら、幼気な男の子を変な性癖に巻き込まないの!」

「そんな事を言うなら、アカシアお姉ちゃんも呼んでもらったら如何です?」

「ふわぁ」


 って、私に反応してどうする!!

 なんか顔が赤いのはお酒のせいかもしれないけど、めっちゃ目が潤んでる。


「あの……アカシアさん? アカシアお姉ちゃん?」

「あ、あぁう……やめて、それ。駄目……。」


 アカシアさんが口元を抑えながら、私から距離をとった。

 おお! なんか知らないけど面白い。


「あの、どうして離れてしまわれるのですか? アカシアお姉さま?」

「そう来たか!!」


 熱い視線で見上げるように言うと、アカシアさんはパシっと(てのひら)で目元を軽く叩き天を仰いだ。

 あはは、相当お酒が回ってるな。

 こりゃいい。


「お姉さま……どうして、私を避けられておしまいになるのです? 私のこと、お嫌いですか? アカシアお姉さま……。」

「ご、ごめん、マリーさん、もう、もう許して……でないと、アタシ……。」

「お姉さま……?」


 小首を傾げ、媚びるように見つめると――一気に間合いを詰められた!?

 反応できなかった。

 油断していた訳じゃない。けど無理。右手を掴まれ上げられた。されるがままだ。右半身から中央の正面が無防備になる。実戦だったらこの瞬間、私は終わっていたな。

 目の前で厚い唇が、熱を帯びた吐息を吐いた。


「ワタクシの可愛いお馬鹿さん。貴女がイケナイのよ? ワタクシの事を、愛らしい仕草で誘惑してくるのですもの。もう、どうなっても知らないんだから」


 アカシアさんの顔が近付いてくる。

 コデマリくんが目を覆いながら「うわー、うわー」て言ってた。どうやら隙間から見ているらしい。

 そして、道行く人たちも「うわー、うわー」て言ってた。大通りだった。


「……。」

「……。」

「さて、帰りましょうか」

「そうですね」


 何事も無かったように歩き出した。

 何だこの茶番?


「あの、マリーおね、けふん……さま。提案というのは、呼び方の事だったのでしょうか?」

「あ、そうでした。いえ、なんか、特に大したことじゃないから、いいんですけど」

「マリーさん? そこまで言って、無しというのはお行儀が悪いわよ?」


 アカシアさんまで。


「えぇ、と……手、繋いで帰りたいかな、て」


 またもハウス行きなのは承知の上だ。

 それでも、私は繋ぎたい。こんな少女みたいな男の子と手を繋ぎたいのだ!! 合法的に!! 触っていたい!!


「それはいい案ね」


 まさか食いついてきやがった!?

 アカシアさんもコデマリくんのこと狙っていたというの!? いい大人がはしたいない!!


「じゃあ、コデマリさんはそちらで、アタシがこっちね」

「……。」


 何故か私が真ん中で、三人で手を繋いで帰ることになっていた。



「拭きっこタイムです。わかりますか、私が何故こうも哭するか。その意味を!!」

「あー、はいはい。マリーさんはコデマリさんに近づいちゃ駄目よ?」

「おのれ先手を打たれたか!?」

「秋の鹿は笛に寄る、てパパ、んんっ、お父様が言っていたわ――あぁ、分かったらから、分かったから!! そんな目で見ないでよ。聞き流してよ」

「私は何も言ってませんが」

「ちっ、笛に近寄ったのはアタシの方だったか」


 アカシアさん、お父さんのことパパって呼んでるのか。可愛いな。なんかいいな。


「あの、ボク……。」

「衝立のそちら側には行かせないから、コデマリさんは安心して拭いてていいわよ」

「えぇと、お二人の事は信頼してますが、むしろボクなんかが上がり込んで良かったのでしょうか……。」

「アタシも信頼してるわ」

「ボク、一応は男の子」

「ふふ、素敵な男の子よ」

「うぅ……。」


 って、何ですかその空気!!


「アカシアさんだけコデマリくんと仲良くしてズルイです!!」

「あらあら。じゃあこうましょう? コデマリさん?」

「は、はい!」

「アタシたちは女の子同士こちら側で拭きっこしているから、覗きたくなったらいつでもいいわよ?」

「アカシアさん!! 名案です!!」


 アカシアさんも、コデマリくんがそんな事をする子じゃないってわかってる。

 年下の子はつい、からかってしまいたくなるんだ。わかる。

 コデマリくんは何か考える風に顎に細い指を添え、眉を寄せた。


「では、少しだけ。マリーさまを」

「え!? わ、わ、私!? そんな、とてもお見せできるようなものじゃないですってば!!」


 しくじった。私があんまり誘惑するものだから、コデマリくんの男の子の部分がオオデマリになったか!?


「はいはい、そういうのはいいからお湯が冷めないうちに体を拭いてしまいなさい」

「うっす」


 なんかアカシアさんが、お姉ちゃんみたいになっていた。



 体を拭き終えて衝立から姿を見せたコデマリくんは、凄く可愛かった。

 私の子供の頃の寝巻が良く似合う。

 本当に女の子みたい。

 本人が凄く気にしているから、口にはできないけど。

 胸の前で握った手を擦り合わせてもじもじする姿なんて、うっかり路地裏に連れ込みそうになるほどだ。


「よく似合ってるわ」


 アカシアさんの嫌味の無い言葉に、頬を染める。


「あ、アカシアさん!! ね!? もう、いいでしょ!? ね、ね!?」

「落ち着きなさい。もういいも何もないでしょ」


 何言ってんだコイツ、みたいな感じで呆れられた。

 そして、


「ぼ、ボク、どうされちゃうんですか……? 何でこんな格好させられてるんですか? 何で鍵をかけるんですか?」


 私のテンションにコデマリくんが怯えていた。


「まぁまぁ、落ち着いて、静まって。明鏡止水の気持ちを大事に」

「マリーさんが、ね?」

「アカシアさん。私、考えたんですけど気は心と申しまして、ほんのちょっとだけなら入れてもいいかな? なんて」


 私の下品な冗談に、アカシアさんの目がすぅっと細まる。


「あら? 昨夜の代官邸での続きがしたいのかしら?」

「ごめんなさい、不誠実な態度で、ごめんなさい」


 見よ、我が平身低頭よ!!

 DO・EG・ZA!!


「――凄い、なんて美しいフォーム。それに、一糸すら乱れることのない無駄の無い動きです!!」

「むしろここまでの流れが無駄としか思えないけど。コデマリさん、わかるの?」

「謝罪の最高ランクです。ですが、マリーさまの場合、謝罪の為に大鉈を振るった――故に美しく感じ、心に響くのでしょう」

「そう、貴方が強く感銘を受けるというのなら本物ね。マリーさん? これから一緒に暮らして旅にも出る大切な仲間に、卑猥な事を言うのは厳禁よ?」

「うっす」


 許された。


「じゃあ、ベッドだけど、えぇと、私とコデマリくんが……な、何卒、是認を賜りたく!!」


 私の肩を掴む手が、回を増すごとに強くなっていく。

 こんなに絞められて、全力の時は私、どうなっちゃうんだろ?


「反省、本当にしてるのよね?」

「正真正銘の謝罪を。ですが、ベッドは二つしか無い故に」

「あの、ベッドならボクも持ってますが……。」


 この子もアイテムボックス持ちか。

 凄いな。伝説級。この部屋だけで所持率100%とか。


「流石にベッド三つは狭すぎるわね」


 いいぞアカシアさん!!


「マリーさんは、私のベッドに入りなさい?」


 おのれアカシアさん!!


「そんな顔しても駄目よ。別々にしてもどうせ私のベッドに入ってくるんだから」


 おのれ今朝の私!!


「はわ……やっぱりお二人はそういう関係……。」

「違います!!」


 流石に同郷の子に誤解される訳にはいかない。立場的に。

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。


サブタイが酷かったので変更しました。

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