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178話 天女二人

緑雨かな 玲瓏として 瀧のとし


サツキよ、お前のことだ。

 何が酒場だ。

 貴族街だ。そりゃ高級レストランもあるわ。

 ゴロツキ5人組を連れて行くと、奥のVIPルームに通された。聞けば貴族同士の接待や会談にも利用されるらしい。


「料理をお持ち致します。ごゆるりとお寛ぎ下さい」


 ベリー辺境伯代行からのオーダーともあり、緊急で支配人が対応してくれた。こんなゴロツキと冒険者に。


「さ、さ、サツキの旦那、俺ら場違いじゃ無いんですかねぇ」


 店に来てからずっとびびってるな。分相応だって。


「ば、ば、馬鹿野郎、びびってんじゃねぇ!! 舐められんぞ!!」


 何の事は無い。俺もびびってた。


 SSランクなんてやってると、稀に貴族と会食の場がある。グリーンガーデンの場合、大抵がワイルドとクランに任せっきりだった。


 身構える俺たちの意に反して次々と小皿大皿が運ばれる。

 その度にゴロツキ達が悲鳴を上げた。


「一体、どうなっちまうんですかい!? あっしら、ただいつも月夜に米の飯を望んでただけやしたのに!!」

「お、おう」


 言い得て妙だな。


「一体、俺たちゃどこの大貴族様に失礼を働いちまったんだ!?」


 知らないで請け負ったのか。いや知ってたら断るよな普通。


「ベリー辺境伯だ」


「「「瑠璃紺(るりこん)の天使様じゃないですかい!!」」」


「アザレアの守護神とも美麗の悪魔とも言われてるお人じゃないですか!?」

「魔獣妖獣あらば単身群れに飛び込んで行くあの!! まさかそんな方の御令嬢だったとは!!」

「ナンマンダブナンマンダブ」


 瑠璃紺の天使なんて呼ばれてたんだ、ブルーおじさん……。

 確かにベリー辺境伯家の色ではるけど。

 待て。

 その瑠璃紺は、よもやロリコンと掛けてないよな?


 低身長に細い手足。薄い胸(当たり前だが)と小さな顔。一見して少女の振る舞いに見えて、問題なのはその顔だ。天使と呼ぶにはあまりにも毒々しく咲く大輪の花弁。

 長いまつ毛の下に揺蕩う瞳の輝きに当てられて、どれほどの人間が正気を保つだろうか。


 目元を揉みほぐし、脳裏をよぎった美貌を振り払う。アレは毒だ。


「彼女がここで待てと言うんだ。悲観する事は無いさ」

「しかし、旦那ぁ」

「そもそもお前らを公開斬首にして警告と戒めに利用する腹積りだった。それに比べれば、未来は明るい。きっと」

「俺ら見せしめになる予定だったんすかー!?」


 最初からそう言ってる。


「まずは腹ごしらえだ。最後の晩餐かもしれない。マナーなんて気にするな食え」

「それダメなやつじゃないですかいー!?」


 ははは、賑やかな連中だ。




「道筋は立ちました……準備を」

「何のつもりだ?」


 暫くして現れたクランに、自分でも分かるほど不機嫌になった。

 彼女にしては派手な黒色のイブニングドレスだ。肩が出過ぎじゃねぇか? 腕も露わになってる。


「てめぇらもジロジロ見るな凝視するな」

「へ、へい旦那、すいやせん、あんまりにも天女様のお姿が艶やかで、つい」


 分かるけど!!

 化粧も決めて、分かるけど!!


「大丈夫……。」

「安藤する要素が無いのだが」

「サツキくんも……直ぐこちら側に立つから」

「大丈夫の要素どこ行った!?」


 ぱんぱん、とクランが手を叩くと、個室の外に控えていたメイド達が頭を下げぞろぞろと入室する。


 ……またこのパターンか。


「掛かって……。」


 クランの許しが下るや、今や遅しと待ち構えていたメイドが一斉に飛び掛かってきた。


 ……うん、知ってた。




「警備部の割り出しで……接触した線に二十八位外務補佐卿の執事頭が……上がりました」


 また微妙な役職が来た。


「辺境伯は外に中に敵が多いことで」

「サツキくんも……関わっているから」

「外務卿に用は無いんだけどな」


 今のところは。

 むしろ今後の展望次第じゃ、ここでウチとやり合うのは得策じゃ無い筈だ。


「あ。外遊の使節団に王女が加わったっていうアレか」

「それは関係ない……というより外務そのものは無関係。恐らくは個人的な恨み」


 さいですか。

 尚、外遊ってのは遊び歩ってる事じゃない。外交のお仕事を指す。

 前に批判家が国家の財政で王族や大臣が他国を漫遊しているとアホな風評を吹聴してたが、思慮あるものは相手にもしなかった。

 自称有識者ほど胡散臭いものは無いのだ。


「ある程度は想像はつくけれど……本人をとっちめた方が早いと思う」

「押し入るのか? そんな格好で?」


 俺の疑問に、クランは男達を見た。


「拉致が成功したとして……監禁場所や連絡方法が提供せれないと……足が着いて終わり」

「へい、色々と指示は伺っておりやす。伺っておりやすが、その」


 ちら、ちら、とこちらを横目で見てくる。他の連中の視線も気になる。厚いし熱い。

 それとクランは、


「サツキくん……すごい、綺麗……ハァハァ」


 事態は緊迫していた。

 要するに、やばい。

 いや俺自身やばいよ。


 肩から首は隠れてるがウエストをガッチリ固めたイブニングドレスだった。

 白藍(しらあい)の淡い色調から裾や袖にかけて薄くなっている。単に色味だけじゃない。生地が透けていってるんだ。


 俺、どこの夜会に送り出されるんだろ……?


「伯爵の所には兄さんが……聴取と交渉を兼ねて向かう予定です。その前に……私たちは誘拐犯の皆さんの協力により、証拠を押さえます」

「あっしらに辺境伯様へ支援出来ることなど、とても」

「シンプルに付和雷同と考えてもらっていいから……依頼者との連絡手段はどうでしょう?」

「へい、鳥による伝書になりやすが。文書も予め成功した場合と失敗した場合で二つ貰っておりやす」


 書面による暗号か。いや二択だから目印一つでもあればいい。鳥目なんて言葉もあるが、実際は夜間飛行できる鳥も多い。


「炙り出しになってるようで」

「よく……分かったわね」

「試しに炙ってみやしたので、へい」


 好奇心かよ。


「拉致が目的って事は、落ち合う場所も決まってるのか?」

「そこに連れて来いと。なる早で」

「なる早か」


 辺境伯御令嬢誘拐となれば大捜索網が組まれる。本来なら国家の大事だ。

 だが、主犯格は肝心な事を忘れている。


 その辺境伯令嬢は、SSランクの冒険者なんだよ。石に枕し流れに(くちすす)ぐ生活だってしてたんだ。


「それでドレス姿か――いや微塵も理解できないんだけど?」

「囚われの姫は……ドレスを着てる」

「だから何で夜会用にしちゃったんだよ!!」

「助けにきた王子様と……その場でシャルウィダンス」

「嫌だよ? 俺のところにまで王子様来ちゃったら嫌だよ?」


 ていうか踊る場所くらい選ばせろ。

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