164話 答え合わせ
筋肉で盛り上がった青い腕が、ガラ美の華奢な足を掴む。
肉付きは良くなったが、まだまだ細い足だ。
逆さ様に持ち上げるマグロの瞳に一切の感情は無い。ただ進行方向の障害物を自動で排除するゴーレムのような……ああ、コイツもエビメラ同様、意志がないのか。
閃光が下から凪いだ。
シチダンカの鎌のリーチだ。
片足にキマグロの腕を付けたまま落下するガラ美を、真下でアマチャがキャッチする。
紅の花びらが鉄の匂いと共に咲いた。異世界のキマイラでも血潮は同じらしい。
「妹分に手は出させん。サツキの姉さ兄さんのお手つきになるまでは、純潔は守らねばならんのだ」
執事服が立ちあがろうとした。
テーブルの向こうで、シンニョレンがふひっと笑う。
何だよ、その顔は。
「サ、サツキは、もっと優しくしてあげれば、い、いいんじゃないかな」
「余計なお世話だ」
それより地下だ。三人とも満身創痍。引き上げてくれればいいものを。
腕を斬られたキマグロが足を上げる。アマチャ毎踏み潰す気か。
影が走った。
立ちあがろうとしたシチダンカの肩を蹴り、マグロヘッドに襲い掛かる。
「ぬぅ、俺を踏み台にした!?」
灰色オオカミ。ラッセルだ。
青い腕が伸び掴みかかる所を寸前で飛び去る。今度はテキセンシスがかぶりつく。マグロの所に。
「獣にしては見事な波状攻撃。このまま利用させて頂く」
床にガラ美を寝かせたアマチャがエボニーミノタウロスの剣を閃かせる。
鎧のような筋肉の塊に、左から右へと筋が入った。
ずるっと嫌な音がして、胴から上で祝福するように鮮血が吹き出した。切断され後ろへ転がった胴体の先端で、それこそ死んだ魚の目になったマグロが口をぱくぱくさせていた。
「これで八体」
確かに。ずっと前方にキマグロの亡骸が散乱していた。
両断されたもの。切り刻まれたもの。丸焦げなのはガラ美がやったのか。
ていうか20体も相手にしてたのか。
「な、なな、何だ君達は!! 何故そうまで私の邪魔をする!?」
「サツキの姉さ兄さんがそう望まれたからだ!!」
「おのれ!! そういう事か!!」
どういう事だ?
「もはや、最後の手段を、使うしかあるまい!!」
だからどういう事だってば!!
画像が砂嵐になった。
「……見えなくなったけど?」
「磁場を完全に、う、奪われた、から。謂わば、あ、あれでも神殿扱い、だから?」
女神信仰とは別の聖地が出来ちゃったって事ね。
「物語のいう邪神だと思うか?」
「きゃ、脚色された伝説に、効力は、ない。今行われてるのは、異界からの、侵略……。」
思わず吹き出した。
「Bクラスの教師がやってるのが代理戦争にも及ばない傀儡だって? 生徒まで巻き込んで何やってんだか」
「ふひ、信仰を持たないから、あ、あそこだけ特異点みたいな?」
「武力占拠の連中と外の自称市民はどう繋がる? あれも別世界からの侵略の一環か?」
「普通に他国からの侵略じゃ無いのかな?」
ああ。何でもかんでも信仰に絡めちゃダメだよな。
「いいタイミングで来たが」
「むしろ、そ、それがゴーサイン、かな、ふひ」
何の冗談かと思った。
俯瞰して見てるから分かるんだが……。
他国からの侵略に異界からの侵略。
「重複して唆されてたのか、あの教師」
開門の儀式前に交わしたアカネさんとの騙し合い。最初から事実だった。
「ふひ、ひひ、で、出てくる」
校庭からの画像がクローズアップされた。校舎棟が一望された。
「あ」と思わず声を漏らした。
ずどん、と講堂が吹っ飛んだ。というか内側から破裂した。
地下にはBクラスや担任が居たはずだ。シチダンカやラッセル達がうまく立ち回ってくれたと信じたいが。
「そして、さ、サツキも、そろそろ時間」
言われて自分の手を見る。透けていた。いや、それどころじゃない。何だあれは?
黒々とした煙の中から起き上がる、マグロヘッドの巨人。まさか――また合体させたのかよ!!
視界がぼやける。
「ふひ、そろそろ私の加護も、や、役立つ頃合い」
「いまいち使い所が見定められないが」
「あれはパッシブだから」
「常時発動型か」
「ふひ、ジョージ発情型」
「世界中のジョージに謝れ」
テーブルが消えていた。
椅子も。いつの間にか向かい合い佇んでいた。最初からそうだったか?
「ああ、また世話になった。みんなにも宜しく伝えてくれ」
次第に、何もかも輪郭が滲んでいく。
彼方かと思われた白じんだ灯りさえ、壁紙のように崩れていった。
「そ、そこは、ほら、皆んなで見守っているから」
「そうかい」
「サ、サツキが、ふひ、取っ替え引っ替え女の子の足を嗅いだり」
「ほんと何見てんだよ!!」
がばっと起き上がる。
最初に視界に入ったのは、泣き崩れた聖女様の顔だった。
「サツキさん、良かった!! もうダメかと思ったよ!!」
流石は上級回復術。五臓六腑に染みるぜ。




