表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/390

163話 ぼんくら

 部屋の背景は、学園の貴賓室か。

 これも絹のような金髪の若者だ。シックだが作りの良い礼服に、自信に満ちた顔立ち。そして、背後に控える人物。

 右側。高位職の特級礼服でガチガチに固めたサザンカだ。

 左側。さっきはよくも騙してくれたな。文官の正装をしたアカネさんだ。

 この時点で鬼謀(きぼう)出汁(ダシ)にされたって分かる。


 ……都合よく使われたな。


 流石の王女も口をぱくぱくさせて、部屋のモニターを見ていた。

 ラーメンのカウンターで聞いた話じゃ相当なうつけで、真実の愛とやらを求めていたって?

 このタイミングで来る男がか?


『私はアザレア国第一王子、ケイトウ。もっとも王子は第一までしか居ないのであるがな。遠い所遥々、よくぞ参られた。歓迎しよう』


「あのぼんくら兄上!! 何でここに居るのよ!!」


『早速のお応え、感謝します。このたびの留学は技術供与も兼ねております。互いに有意義な交流となりましょう』


 おー、煽る煽る。


「ま、魔族が勝手な事をするな!!」

「王家の技術独占など断じて許されない!!」

「国民の感情を無視するな!!」


 また正面ゲートが盛り上がる。

 王政で王家が出張って、それも高水準のテクニカルの恩恵を受ける機会だ。アザレアの民に何の不都合があろうか。


『では、騎士隊の諸君。丁重にアカシア王女をエスコートしたまえ』


「はっ!!」


 指揮官がモニターに敬礼をする。


『学園の中では、私の妹が既に迎えの準備をすませている。アカシア王女と歳も近くきっと話も弾むだろう』


『お会いするのが楽しみです』


「正面昇降口よ!! 急ぐわよ!!」

「慌てなくてもいい。馬車の到着までまだ時間がある」

「……正しくは……もう一騒動ですね……。」

「貴方たちも知ってたのね!!」


 そりゃあ、モニターの向こうにサザンカが居るんだもんなぁ。


 正面ゲートじゃギャーギャーと市民団体が騒いでいる。

 集団が妨害せんと前面の騎士隊に迫った時だ。

 満を持して登場。


「あんたらいい歳して何やってんだい!!」


 商店街のおばちゃんだ。


「こんな騒ぎを起こして、こちとらいい迷惑だよ!! 他所でやっておくれよ!!」


 正論だ。

 映像を向けると第一学園前商店街の面子が揃っていた。町内会との混合編成だな。


「何だとお前は市民の意見に逆らうのか!!」

「お前の店もお前の家族も特定するぞお前の店にはもう客は来ないと思え!!」

「不買運動だ街に住めなくしてやる!!」


 おばちゃんの顔の前、一センチの距離で喚き散らす。

 流石に、騎士が割って入ろうとした時、大きな影がおばちゃんの背後に沸き、守護神のように体を抱き寄せた。

 全員が巨漢を見上げた。

 ゴツイ体格の割に、人懐こい顔だ。厚い唇が印象的な男だった。


「な、何だお前は!! 暴力を振るう気か!! 市民に危害を加えるのは大問題だぞ!!」


 自分のことは棚上げなようだ。


「ああ、よしとけよしとけ。冒険者に騎士と同じ道理は通じねぇからな」


 穏やかな口調で諭す声は、(はがね)を思わせた。冒険者の師匠。SSランクのタカバミだ。


「冒険者、だと……?」

「おうよ!!」


 街中に響いたのではと錯覚するほど、低くよく通る声だった。

 その号令に合わせたように、ずらずらっとアンスリウンムの冒険者たちが勢揃いした。どいつも見覚えがある。それこそAランク、Sランクが揃い踏みだ。


「何だお前らは!! 武力で市民を制圧する気か!! 許されないぞ!!」

「おっと、齷齪(あくせく)しなさんな」


 カタバミが肩越しに振り向く。

 櫓のようなものがあった。

 急拵えで組まれた壇上で拡声器を振るうのは、冒険者ギルドの制服を纏ったクロユリさんではないか。


『これよりアザレア王立第一学園前町内会並びに商業組合からのクエストにより、公共の場を占拠する不穏集団の排除を行います!! これは国内一般の組合法に準処した受発注に基づくものであることを示します!!』


 クロユリさんの目の前に、薄い映像幕が現れ、ギルド長のサイン入り証文が写された。

 何がクエストだよ、よく言いやがる。

 この短時間で煩瑣(はんさ)な手続きを仕上げた手腕は流石だぜ。ギルドマスター連名の一等指令じゃねーか。


 映像を縦に割くかのように、タカバミが左腕を振り上げる。


「冒険者とは自由だ!! ひとたびクエストを受ければ何者にも縛られない!! 例え国家の騎士に静止されよと、国民の依頼を優先する権利を有する!!」


「「「おおっ!!」」」


 同じく、全員が腕を上げる。みんな元気溌剌(はつらつ)だ。

 その背後で、


「おーい、荒事は謹んでおけよー」


 騎士隊の指揮官が小さな声で呼びかけていた。

 コイツら、この騒動に乗っかりやがったな。

 そして次に不穏集団の中から出た言葉に、誰もがズッコケた。


「なっ……何を黙って見てる!! 騎士は市民の安全を確保しろ!!」




「……そういや、あいつらはどうなった?」

「ふひ、地下ホールなら、と、とっくに、決着が付いていたり」


 まぁ、シチダンカもアマチャもあれでいてAランク相当には引き上げた。今ならダンジョンボス程度は単身で屠れる。ガラ美だって準Bランクって所か。


「消えたままだな、あの後の映像」


 シチダンカ達が現れて以降、モノクロのノイズが走り地下を映す小窓が消滅した。


「異質な磁場が濃いから、こ、こちらの観測が、難しい」

「だったら何でわかるんだよ?」

「視覚情報化が困難ってだけ。無理に表示すると、ふひ、ほら、解像度が荒くなる」


 ザザザ、と砂嵐のような映像。その中で膝をつく三人の弟子達が見切れていた。

 キマグロ、あれから12体に増えたのか……。


 突然あなたのもとに12体のマグロが訪れたら?


「ふひ、みんなやられちゃったね、お兄様?」

「兄くん派は黙っとれ!!」


 ()()()()()()()()って事は致命傷じゃない。

 わかるんだけどさ。こいつら――俺の舎弟に上等な事してくれてんじゃねぇか。


「フォローに入りたい。前のような送還、できるか?」

「無理無理。体が致命傷越えたままだから。あの時は僧侶の子が相当無茶をしたから。マ、マリーゴールドの時だって、サツキが」


 すぐには無理ってことか。


 キマグロの群れが倒れる三人に迫る。

 正しくは、シチダンカ達が出口を塞いでるんだが。


 コイツら、上へ出る気か?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ