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162話 超介入

 甲冑に似て、燃えるような赤いドレスは、毒々しい大輪の薔薇を思わせた。彼女の美貌を存分にグロテクスに際立たせる。

 金糸のようなブロンドを頭の上でアップし背筋を正す姿は、まさに魔王陛下の娘に相応しく、凛然とした姿を四面の映像幕に映していた。


『兼ねてより模索中の国際交流に伴う一環として、本日よりアザレ王立第一学園へ一留学生としてお世話になります。このような場でのご挨拶となり心苦しいのですが、学園も立て込んでいるご様子。なにぶん平和交渉を前提としております故、こちらはご覧の通り兵を隋軍させては御座いません』


 いや蓋世(がいせい)でありやがるくせに何言ってんだ?

 え? ていうか学生って歳? 無理無い?


『つきましては貴国の映えある騎士様がたにエスコートをお願いしたく存じます』


「返答!! 返答しなくちゃ!!」

「お待ちください、ツバキ様。いいから待てって言ってんだよオメーはよ!! そのおかもちをどうしようってんだ!!」


 ワイルドが止める。まだ不穏分子殲滅の報が無い。王族を彷徨(うろつ)かせちゃダメだもんな。


「既に話がついてるとはいえ、他国の王家が申し入れしてるのよ。ワタクシが出なくてどうするの」


 やっぱ仕組まれてたのか。


「俺とクランで両脇に付く。そこの三人、後ろへ付け。残りは継続して状況の整理だ」

「彼らは文官よ?」

「戦えなくたって盾にはなる。ツバキ王女。貴女は今、そういう状況におられる」


 ワイルドの声色に、王女の顔が引き締まる。

 文官達に向き直った時の表情は――惚れ惚れするくらい凛然としていた。


「貴方たち。ワタクシにその命を預けなさい。褒美は後で相応のものを用意するから、ちゃんと自分で受け取るのよ?」

「「「ははっ!!」」」


 間髪入れずに礼で以って承る文官達に、一瞬だけ彼女の目尻が煌めくのを見た。

 ワイルドとそう違わない歳だ。覚悟はあっても割り切れ無い。


「褒美は――時に、冒険者サツキは女性の足、それも着用したタイツに異様な執着を覚えると聞いたわ」


 誰から聞いたんだよ!!


「「「この命に代えましてもお守り申しあげます!!」」」


 変態勢揃いかよ!!


「なんだか怖いわ」


 流石の王女も普通にビビってる。


「……丸一日……履きっぱなしぐらいが……入門(ビギナー)にはちょうどいいです」


 クラン……分かってるじゃねーか。


「クラン? ガーターでもいいかしら?」


 どこを不安がってんだ?


「……どこまで解放するかによります」

「いいでしょう。この辺までなら」


「「「秘密を守って死ねとご命令あらば、喜んで!!」」


「褒美の意味がないじゃ無いの!!」


 むしろコイツら、王女の近くに置いちゃダメだろ?




 その頃。

 正面ゲートで動きがあった。

 青々とした街路樹の間を、黒塗りの馬車が近づいてきた。俺が貰ったのと同型か。こちらは馬が四頭立てだ。御者は筋肉質な大男だ。執事服がはち切れそう。

 前面の両側にはサクラサク国のシンボル、要は魔王軍旗が掲げられていた。


 間違いない。中にいるのは、これまで三カ国間でしか外交を持たない一角。魔大陸の公式使節だ。

 プリンセス・アカシア。

 昨日、テイムのカリキュラムで鎧のままやってきた片割れだ。


 ……待て。もう一人はどうした?


 むしろクロユリさんの方が適任じゃ無いか? 四騎士筆頭なんだし。


「そ、それ以上近づくな!! 魔王軍は国へ帰れ!!」


 誰かが叫んだ。

 騎士と対峙する人の壁からだ。


「そうだ!! 魔族の王が学園を脅かすな!!」

「アザレアとだけで技術提携をする気か!! 国際社会が許さないぞ!!」

「魔族の王家を受け入れるな!!」

「国民の感情を無視するな!!」

「アザレアと魔族の癒着を明確にしろ!!」


 それに押されて、次々と叫び声が上がった。

 めっちゃ焦ってる。

 やっぱ分かるよな。背後にある交易とそこから産まれる利潤。さらには軍事協定なんて目も当てられない。


 騎士達は無言で場所を開けた。判断に苦しい所だろう。なのに示し合わせたような動きは――あっ、コイツらが動かなかったの、彼女を待ってたのか。


 だとしたら相当根が深い。


 ベリー邸の一室で。ランジェリー姿の俺を鎖で拘束しつつ。王国側代表、オダマキ卿。ベリー辺境伯代行と嫡男。森林都市商業組合名士。教会聖騎士長補佐。

 既に会合は進んでいたんなら。昨日のあれだって下見か。何がギルティだよ!!




「サザンカ聖騎士長補佐が居ないですって? 聖女様は聖堂へ向かわれたのね?」

「ここが一通り片付いたら、張り付く理由は御座いません。ワタクシ達だけでも」

「学生が無理しないでちょうだい。上位貴族だって言ったって」


 無事放送室に着いたツバキ王女は、出迎えたスミレさんに足速に奥へ案内された。


「宝珠放送システムの外部へのバイパスは確立済みでござる」

「後は認証待ちで申す」


 Aクラス男子が独特の喋りで報告する。


「よくやってくれました。ワタクシの認証で街頭ビジョンを掌握します。すぐに放送準備を」


 喋っている間もお付きのメイドが王女の身だしなみを整える。

 Aクラスの生徒が既に別室に撮影セットをセッティング済みだ。背景用に花瓶と花と絵画と国旗を適度に配置してる。

 緊急時だが対面は保たれたか。


「ぬぬっ、外部からの強制介入でござる!?」

「なんと!! 街頭ビジョンへの経路が占有され申した!!」

「敵性勢力がそ通信経路の介在。できるっていうの?」


 ツバキ王女が眉を寄せる。そんな真似が可能なら武力行使の前に終わってる。

 情報戦でイニシアチブ取られたらいくら王国だって。

 つまり敵は他にも居る?

 Bクラス担任の事は知ってるんだっけ? 彼に背後関係が有ればそっちも濃厚だけど。

 いや担任に関しては正面の自称市民団体がその背後関係って見たほうが自然か。タイミングが良過ぎるんだよな。


 王女の臨時監査。

 俺を生贄にした儀式の完成。

 学園を占領する武力集団。

 騎士団への妨害。


 誰かのシナリオとしか。


「システムからの強制プロモーション、特定でき申した」

「どこから?」

「……アザレア王城を経由、王子殿下の承認権限で。場所までは追えませぬ」

「出し抜かれてしまいましたわ!!」


 今日一番で、王女が声を荒げた。


 同時に、街中の街頭ビジョンが、若い男性の映像を映した。


『平和的国交に向けてのご来国、痛みいる。サクラサク国の王女よ』

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