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161話 介入

「王国は学園に軍事介入するなっー!!」

「騎士団を解体して平和的解決を目指せー!!」

「軍事によって他国を刺激するなー!!」

「子供達を戦いに巻き込むなー!!」


 市民とやらがバリケードとなり、待機中の騎士隊と対峙する。

 いやここ王立だよ? 王国軍が警備するのは当然だし、今は王女殿下が監査官で入ってるんだ。

 理性の啓発が退化してるのか、或いは単に伝統的な権威を滅ぼしたいだけなのか。

 これ、誤解でなければ狷介(けいかい)な連中と断じられたって。

 だったら拘束してもな。ツバキ王女の仰せの通り、素性が明らかになるのは全てが終わってからだ。手遅れだ。

 もどかしいって焦れてるだろうな。それを理解して騎士隊は突撃できないんだから。


 隊の後方の大通り。住民たちに見守られながら、長槍(ランス)を装備した甲冑群が整列していた。




 長い渡り廊下。その屋根の上を大きなスリットから惜しげもなく足をあらわにしたシスターが疾走する。


 その背景。遠くで幻獣・鵺(巨大なレッサーパンダ)に跨り武装した男たちを追い回すマリーが見えた。


 ……何やってんだアイツ?


 やがて、屋根の切れ目で大きく跳躍する頃、マリーの姿も本棟の影に隠れ見えなくなった。


 特筆はアヤメさんの身体能力だ。

 空中でおっぴろげながら放物線を描き、目の前の木に激突――する直前で右手を幹に回し、遠心力で体を回転させた。再度飛んだ先には、また別の屋根がある。


 着地すると同時に体を傾かせ、トンっと軽やかに屋根から落ちる。ヘリに一度捕まり、腰から下を大きく振り、振り子の要領で窓を突き破った。

 廊下に降り立ち、再び疾走に移る。


 窓の外が急に陰った。

 廊下の外側。並走するように走る白いグレートホースが居た。跨るのは赤黒い筋肉の山だ。


「フハハハハッ!! 温いぞ温いぞ!!」


 そして逃げ惑う武装集団。

 お前も何やってんだよ。




 放送室も例外ではない。

 武装集団に襲撃されていた。そして、アヤメさんが辿り着いた時は――。


「蔦がぁッ、蔦がぁ!? は、入ってくるな!! そこは違う!!」


「ゴボ!? ゴボボボヴォヴォウゥエイ!?」


 最後の二人が床に崩れ落ちた所だった。


「私が手を貸すまでもないとは」


 少し呆れたようだった。

 実戦経験で未熟な学生が一蹴してるんだもん。


「聖堂をお留守にしてもよろしいのかしら。シスター?」


 鳥の羽をあしらった扇で口元を隠したスミレさんが、アヤメさんを迎えた。

 宝珠ビジョンシステムの防衛を果たしていたのか。街頭ビジョンや通信サービスの(かなめ)は最重要拠点だ。構内向けに独立してるとは言え、ここが健在かでその後の話が変わる。

 アザミさんやアサガオさん以外にもAクラスの顔ぶれが見えた。

 所属を偽装してたって相手は戦闘のプロフェッショナルだ。学生が迎え撃つとは、無茶をしてくれる。


 ……今のところ、どこもかしこも全滅してるんだよな、戦闘のプロフェッショナル。


「こちらにいらっしゃると伺いましたけど?」

「聖騎士様なら、不埒ものをある程度倒されてから、もっと派手な所を求められて行かれました」


 アイツここを守ってたのか。


「お連れ様も、同行されましたでしょうか?」

「今は中で負傷者を復活させて――手当をして下さってますわ」


 なんで言い直したし。

 いや、配慮してくれた? あの子の正体、やっぱバレてんだな。ああもう、筒抜けが教会関係者に収まらなくなってきた。

 この騒動での功績を餌に、おかもち女に彼の立場を交渉しようかと思ったが、十日の菊じゃあな。だったらアルストロメリアの件はカードとして使えるか?


「仮とは言え教会所属の方です。現場の下位司祭の権限であの方をお連れします」

「お急ぎのご様子ね。どうぞ、中へいらして。こちらは、ワタクシ達でも十分持ちこたえるわ」


 言われてアヤメさんが両脇のアザミさんとアサガオさんを見る。

 二人の実力は、はからずしも先日の代表戦で明るみになっていた。




 シスターが放送室に足を踏み入れた時だ。

 学園正面では、自称市民団が執拗に騎士団を煽っていた。まるで猿山の集団だ。

 理事長室ではツバキ王女が文官と教師たちの報告に、毅然と指示を出していた。

 シャクヤクとグレートホースは喜び校庭()を駆け巡り、マリーはユリに跨り丸く円を描くように敵集団を追い詰める。

 最初に異変に気付いたのは、ラッセルとテキセンシスだ。野生の感が訴えたというより、最近聞き覚えた声に反応したんだ。


「くぅん」と鼻を鳴らし、空を見上げる。本日も快晴だったはずだ。


 日が暁闇(ぎょうあん)のようなほの明かりに陰ったと初めて気づいた。

 暗闇を落とす暗雲は、それだけで質量を備えたようである。

 穏やかな気候が常のアンスリウムの上空、それも約600メートル程度の位置に、分厚い雷雲のようなものが鎮座していたのだ。

 マリーがユリに何かさせたかと疑ったが、その正体はすぐに分かった。


 雷雲の四隅に四角い光が産まれた。横長の長方形だ。四面とも、同じ映像を映している。

 その中で、一人の女性が凛と背筋を伸ばし、瞼を伏せていた。


 深紅のドレスに黄金の長い髪。前髪は綺麗に整えられてるが、知った顔だ。鼻眼鏡じゃなくて良かったな。


 双眸がゆっくりと開けられると、上空の映像に目を奪われた人々の間から溜息が漏れた。


 水縹(みはなだ)の透き通った瞳だ。暗天の空から差し込む青に、誰もが見惚れただろう。

 騎士も、対峙する自称市民も、成り行きを見守るアンスリウムの人々。聖堂のガラス越しに見上げる生徒達。武装集団を追い回すマリー。シャクヤクでさえ。

 言葉を忘れ見上げていた。


『中央都市の皆様。頭上からの挨拶、失礼いたします。我が名はアカシア。魔大陸サクラサク国第二王女、アカシアにございます』


 あぁ、

 美しさの中に恥じらいも無く介入する威風たるよ。

 かつてハリエンジュと名乗った女だった。

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