160話 モニター
地下ホールの映像もある。
頃しも俺が死んだ後らしい。
「ここは私たちに任せて、貴方達はご主人様をお願いします!!」
「上に聖騎士が居る!! そいつの所へ行け!!」
「は、はい!! ハナモモさんの家臣さんもどうかお気をつけて!! アレは、普通じゃなさ過ぎます!!」
シチダンカ達が生徒の避難に立ち回ってる。
人命優先を指示した成果だ。
イチハツさんも嘆く事もなく、次の行動に出ていた。切り替え凄いな。
「異界の魔物風情が。サツキの姉さ兄さんに卑しい手を出した報い、ここで精算するがいい」
シチダンカがデスサイズを構える。その横でアマチャがエボニーミノタウルスの剣を抜いた。カサブランカの迷宮で授けたものだ。
「室内では、攻撃魔法も限られます。こちらは支援程度に思ってください!!」
メイド服のガラ美が杖を構える。メイドならそこは和刀だろ。よし今度仕込もう。
そう。今度、な。
上手くいけば彼と落ちあえる。
「他も見えるの?」
「こ、この土地は、私への信仰が厚いから」
昼食のたびに皆んなで御供物してたからな。心なしか肌もツヤツヤだ。
シンニョレンが指を横に振ると、平面的な映像群が俺の前に滑ってきた。
臨時監査で入った王女は理事長室か。てなると……やっぱ護衛に着くのはワイルドとクランだ。この二人が自由に動けないのは痛いな。
一緒に入った20名の文官に世話しなく指示を出してる。近衛騎士くらい連れ込めよ。
「入り込まれてる? 分かってます、引き続き生徒の避難を優先に!!」
ん? こっちもトラブルか?
「俺が出る。クラン、テメーは離れるな。いざって時は」
「……承知しています……全ての建造物を崩壊させ……ツバキ姉様だけでも逃します」
「人命を大事に!! 入れ物は壊してもいいから!! ――外の騎士は投入できないのね?」
聞かれて若い文官が学園敷地の地図を指す。
「市民とやらの集団が壁を作ってます。正面と裏手。騎士団の待機箇所を抑えられてます」
「名目は?」
「学園への武力介入を非難したものです。素性までは追えません」
「調べるだけ無駄よ。事が終わってからじゃ遅いの。今のカードじゃ、強行突破は禁物だわ」
「なら、こちらを先に片付ける」
ワイルドが妖剣を携えると、王女は困ったように眉を寄せた。
「批判的と合理的は違うって淵源に遡れば分かるものを、片方が人間的生活を進歩させたって理解が及ぶ集団とも思えないわ。そうした者らに因果を含められて?」
「説得など毛頭する気もありません。アザレアの御代、悪戯に否定されてはかなわん。騎士が斬れぬというのなら、辺境伯に代って俺が斬るまで」
いや意気揚々と斬りに出てくなよ。
誰か止めろよ。
ノックが響いた。
王女に促され、文官の一人が入室を促した。飛び込んできたのは、これも若い伝令だった。
「侵入された敵性部隊、位置情報が把握できました!!」
学校にテロリストかよ!!
入室した彼は足早に大テーブルの図面に近づき、各所にマーキングを貼っていく。
「1部隊10名程度、衆寡敵せず当初は12箇所を制圧されましたが、主要な場所や通路は一部の生徒により奪還された模様です!!」
「何やってんのよ、うちの学生は!!」
王女は堪らず、おかもちを振り上げた。
ほんと何やってんの?
「それが……目撃談では魔獣が生徒達を守っていると」
「魔獣ですって?」
眉を寄せる王女に、ワイルドとクランが「あー」て顔になる。
画面を変えると、ほんと良くやってくれている。
武装した男たちを這いつくばらせたニ頭の灰色オオカミは、森の王者の風格だった。
背後の生徒たちに、負傷者は居ない様子だ。
ラッセルがくいっと顎を上げる。
あっちへ行けと。
テイムの授業で呼び寄せて良かったよ。生徒を俺の下位と見てたんだ。オオカミって群生活だもんな。
鼻を仕切りにクンクンさせてる。
そうか。
ここは要所だ。
彼が指した先には聖堂がある。
廊下の隅に、イチハツさん達の姿が見えた。
恐らく避難所だ。
画面を切り替えると、やはり武装した男たちが床で寝ていた。聖堂の入り口。近頃は要人が集まる事から真っ先に襲撃を受けたのかな。
ヤったのは恐らく、
「シンニョレン様のお膝元を穢すなど、恥を知りなさい」
コンバットナイフを持ったアヤメさんが、ゆらりゆらりと、怪しく佇んでいる。
修道服の腰から下が縦に切り裂かれスリット状になっていた。そこから覗くガーター姿の太ももにゴツいホルスターが締められてる。ナイフはそこに装着していたのか。
顔を上げると、先ほどラッセル達が逃した生徒らが駆けてきた。
「シスター!!」
「お早く、中へ。まだ校内関係者は居そうかしら?」
「俺たち以外は見てませんが、遠くで声が聞こえました!!」
「そう……。」
「一体何が起きてるってんですか!?」
「ご覧のとおり……襲撃かしら?」
シスターの足元を見て、学生らは「ヒィ」と悲鳴を上げた。無残な男たちの姿は、俺ですらドン引きした。
「あら?」
と回廊の奥へ目を向ける。
イチハツさん達が灰色オオカミを伴って駆けてきた。
熱血男子の背にある俺を認め、事の次第を推し量ったのか彼女も駆け出した。
「急を要すると見ました。貴方達も早く中へ」
「シスター・アヤメ。ヒールはできまして?」
「こちらは捌くのが専門なんです。思い当たる節はあるから、オオカミさん達とここを守ってくださいます?」
返答を待たずに、彼女は近場の窓を破り外へ飛び出していた。
豪快な人だな。




