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156話 臨時監査

 翌日、一気に事態が動いた歴史が動いた。

 前代未聞の王家直轄による内部監査。

「内部」てのは、王立学園だからだ。

 そして、やってきた人物。颯爽と片手に持った燻銀のオカモチが眩しい。

 護衛にエスコートされ馬車から降り立ったのは、

 綾羅(りょうら)に包まれた、ツバキ王女その人であった。




 5号生学年主任が贈賄容疑で拘束された事件は、教師陣を震撼させた。

 多かれ少なかれ、貴族との癒着はある。学園の性質から見ても、割とある。

 今回は貴族が関与しない商人相手だ。後ろ盾が無い。何より商業系複合ギルドの調査と一致した帳簿が証拠となり、経営側も看過できなくなったのだ。


 当初の俺の任務も、額面通りなら完了なんだけどな。

 センリョウさん情報、やっぱ王家より上手だよ。




「お話になりません!!」


 紙媒体の資料を乱暴に机へ叩きつける。


「申請は通っていたはず。なのに中抜きされても七割は残ったはずが!! よりにもよって監査局がこのタイミングで入ってくるから……!! ああ、この崇高な命題を理解できないからと言って!!」


 教授はヒステリックに髪を掻きむしった。ほら、抜け毛抜け毛。


「王族のボンボン視察は名目でしたね」


 慰めるように言ってやると逆に、


「まさか君が!?」


 凄い血相で見てくんなよ。

 いや俺のせいだけどさ。ああ、昨日のテイム騒動の隙に理事会を抱き込んだのはクランとサザンカだっけ。

 辺境伯代行と聖騎士長補佐の肩書きは伊達じゃないねぇ。


「時宜がかなってはいますが。だからといって王家がそれに合わせてくるには盲亀浮木が過ぎるんです。出来過ぎですよ。それこそ私が来る前に露見でもしない限りは――巻き込んでくれましたね?」


 語尾を低くし眼光で射貫く。

 優男の虚勢なんざ、冒険者がひと睨みすりゃ。


 ……あれ? 何でうっとりとこっちを見てんだ?


「い、いや、違う、私じゃない!! 計画は万全を期していたんだ!! だからこそ在学生サークルをけしかけ過剰な申請にも決済を通していったんだ!!」


 確かに、隠れ蓑にしちゃ場所が良かったな。

 でも、それはこちらにも言える。


「事がここに至ってしまいましたら、出来うる手段は二つでしょう。停滞か計画の早期実行か」

「早めるというのか……いや、確かに……準備は出来ている。出来ているんだ。残すは閉門の素材だけだが、それは後でもいい。後でもいいんだ……。」


 もっともその開門とやらで、不穏分子一同の身柄拘束が叶えば、そっち(閉門)の心配は無用だろうよ。

 おっと、顔に出しちゃだめだ。


 俺の気も知らず、やつは資料が山積みのデスクへ向き直った。


「そうだ……私が起案した計画に一()の狂いも無いのだ!!」

「そうだそうだ!!」


 よし。乗せて行こう。


「調進すべき依り代もすで得た!!」

「そうだそうだ!!」


 ……ん? 依り代?


「今こそ次元を超えし神々に捧げようぞ!!」

「そうだそうだ……?」


 いや何を?


「そういう訳でハナモモさん。少し眠っていてくれたまえ」


 振り向いた半顔――鼻と口元をマスクが覆っていた。

 あ、そういうことか。

 部屋の四隅からガスが噴射し、瞬く間に充満した。


 どうしよう。


 これ、

 ()()()()()いいのかな?




 オウケイ、昏倒で合ってたな。

 即死や麻痺だったら、そこまで付き合いきれないもんな。


 狸寝入りをすると、フードを目深に被ったローブ姿が五人入室し、俺を担架に乗せて行った。


 距離……経過時間……階段……講堂地下のホールか。

 巨大な支柱で空間を支える600畳にも及ぶ大ホールは、有事の際のシェルターに想定されていた。

 普段はメンテナンスでしか出入りが無いもんな。


 しかし、よく人に見つからずに運び込んだ。王女来訪で上がばたついてるのもあるんだろうけどさ。

 運ばれる最中、

 視線が足元に集中するのが分かる。

 ま、わざとスカートの裾を着崩したんだけどさ。サービスよ、サービス。

 制服姿に惑わされちゃって。素人の集団か。いや、コイツらも学生だな?


 冒険者だったら状態異常への善後策を講じる。万全の体制は常なんだよ。


 それは麻痺だったり、催眠だったり、魅了だったり、睡魔だったり。そして毒。

 対策も術だったり、技だったり、祈祷、憑依。そして薬品。


 俺の場合は単純に耐性だ。

 まさか、子供の頃に隠れてヤってたあの遊びから、常態異常耐性が培われるなんてな。

 苺さんから話を聞くまで、とんと見当がつかなかったぜ。


 ……いかん、森羅万象の(ことわり)が信じられなくなった。


 解呪に使われたり常態異常耐性を付与したり。ベリー家のパンツはどうなってんだ?


 さてと。

 床に横たえられる。どう出てくる? 出来れば一味が揃った所で締め上げたいが。

 周囲を人の気配が囲む。

 階段からさらに10名降りてきた。多いな。

 もとから居た人数と合わせて18名、ひとクラス規模は居る。


「どういう事ですか、先生!!」


 おっと? 聞き慣れた女生徒の声がしたぞ?

 想定外にも程がある。まさかこの子まで関係者だったなんてな。

 だが腑に落ちない。だったら5号生学年主任の帳簿の件だって筒抜けになってるはずなんだが。

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