表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

155/391

155話 従魔突撃(モンスターパレード)

 彼を追うもの。

 正しくは衛兵があたふたしてるだけだが。恐らく正門で静止を試み、そのまま追われる形になったんだろうな。


 その姿は、他の生徒にも明らかになった。


「こんな都市の中でなんて事だ!! 魔獣の襲撃だぞ!!」

「おいおい、衛兵何やってんだよ!! 逃げないで戦え!!」

「ここまでの侵入を許すだなんて、怠慢にも程があるわ!!」


 大事になった……。


 俺へと一直線に駆けてくる二頭の魔獣。灰色オオカミ。

 ベリー邸の獣舎で世話になっていたラッセルとテキセンシスだ。

 めちゃくちゃ尻尾を振って向かってくる。


「魔獣なのに表情が緩いわね。ハナモモさん?」


 スミレさんが看破する。


「自分で狩をしないから、野生を置き去りにしたんです。少し鍛えてあげなくちゃ」


 本当に灰色オオカミか疑わしくなるな。

 逃げてる方が必死なのが申し訳ないくらいだ。


「それで、あちらも貴方が原因かしら?」


 視線の先。ラッセル達のさらに後方で砂塵が舞い上がった。


 ガシャガシャと甲冑の金属音を鳴り響かせ、奴らが走ってきた。


 黒光りする表面は陽の光を容赦なく弾き、磨かれた赤い流線は灼熱を思わせた。

 あぁ、平和な学園に誰が想像しただろう。

 こちらへ疾走する二つの影こそは――。


「「りょ、両断卿……!?」」


 いつの間にか近くに来ていたシチダンカとアマギアマチャが、互いの肩を抱き怯えていた。


「先輩がた、それいいです!! 非常にいいです!!」


 ガラ美が興奮して何しでかすか分からない。


「いいんです、いいんですが!! できればもっとこう!! こう!!」


 何かの演技指導が始まった。

 それよりアレだ。

 魔王陛下の四騎士(フォーカード)。その二人だ。


「くぅん?」


 先に到着した灰色オオカミがお座りして俺を見上げていた。よしよしと褒めてやる。

 続いて黒騎士と赤騎士が到着する。


「くぅん?」


 クロユリさん、ヘビーアーマーでその仕草は不気味だから。

 まぁせっかくだ。フルヘルムをよしよしする。あ、嬉しそう。


「あ、アタシはそんな、はしたない事は……!!」


 赤騎士が胸の前で小さく手をぶんぶんする。


「君も」


 紅蓮のフルヘルムをよしよしする。


「あ」


 ハリエンジュさんが身をくねくねさせた。やはり甲冑姿なので不気味だ。


 そこに、途中で追い抜かれた衛兵がやっと辿り着いた。


「はぁはぁ……お、お気をつけください……はぁは……まも、魔物が、学園に、し、しんにゅ……ひぃぃ!?」


 灰色オオカミを見てビビる。


「魔物とは失礼ですね」

「ひぃぃっ、く、黒騎士!?」


 追い抜かれたのに気づいて無かったか。

 衛兵の悲鳴に、辺りが騒然となる。


「魔王軍幹部かよっ!?」

「こんな所まで侵入を許したのか!!」

「ま、まさか学園を制圧する気じゃ……?」

「授業中に教室が魔王軍四騎士に占領されたとか、流石に妄想すらできねーよ!!」

「わたくし達、どうなってしまうの……!?」


 怯えてる怯えてる。今や恐怖は最高潮。超恐慌。

 王国じゃ魔族を束ねる敵性軍事国家扱いだもんな。あの中身が汗だくの若い娘だとは思うまい。


「何しに来たんだ、コホン、来られたんですか?」


 足元の灰色オオカミを撫でまわしながら、睨みつける。


「そこの通りを通り掛かったのですが」

「呼ばれた気がしたわ」


 犬かよ!!


「ていうか普通に歩ってるの? 黒騎士と赤騎士が?」

「鎧は脱いでいたわよ?」

「全裸かよ!?」

「失礼ですね、普通の町娘に扮してましたよ。今だって流石に肌着くらいは付けてます」

「え!? クロ!?」


 赤騎士が動揺する。


「……貴女、いつから?」

「カサブランカの一件で流石にこれはよくないと思い、私の中で革命が起きた次第です」

「アタシも誘いなさいよ!!」


 つまり赤騎士の中身は……。

 いかん、何も想像してない何も想像してない。


「やはりこの方達もハナモモさんが召喚されたのね?」

「召喚というより、走ってやって来たんだが」


 スミレさんにはこれが術式に見えるのか?


「凄いわ!!」


 とアカネさんが良く通る声を上げた。むしろ君の方が凄いよ。芝居かかってる風に見えないんだから。


「灰色オオカミなんて高等魔獣を従えるだけでは飽き足らず、魔王軍幹部までその支配下に置かれるだなんて!!」

「いや、支配下とかじゃなく……。」


 訂正を試みたが、


「流石はハナモモさんです!! 辺境伯家にゆかりを持つだけはあります!!」


 アサガオさん、よせやい。えへへへ。


「ええ、もはや何人(なんぴと)の追随をも許さない。次元(ステージ)が違います」


 アザミさん……褒めてるのか?


 見ると、さっきまでウサギだメジロだタイガーだ高々に披露してたBクラスが静かになっている。

 ていうか周囲の動物達が怯えてる。


 だよなぁ。圧倒的な捕食者だもんな、こいつら。


「むしろ鴛鴦(おし)の契り的な何かです」(キリリ)


 クロユリさん、キリリじゃないよ。


「流石は転入生ですわ!! 勁兵(けいへい)を召喚したと思わせてその実、カリキュラムを口実に夢人を召されるだなんて!!」


 あ、ほら他のクラスの夢見がちな子が勘違いする。

 いや、むしろここは乗っかる手段か!? よし!!


「え、えぇ、この黒光りする光沢ですら、わたくしには恋衣(こいごろも)でしてよ?」


 何言ってるんだろ、俺?


「サツキさん、うちの筆頭に乗っからないで。きっとややこしくしてしまうから」


 赤騎士。そうか君は両断卿を止めに追いかけてここまできたんだ。


「それとせっかくです、うちの子は連れて帰りますね」

「あ、うん」


 何の事か一瞬分からなかったが、


「ほらニャン子、行くわよ。いつまでもご迷惑をかけないの」


 赤騎士の言葉でコイツの事を思い出した。

 そうか。にゃー、ここでお別れか。

 マリーは寂しがるだろうな。


 どーん、と地響きが体を揺らした。

 震源地へ目を向けると、学舎にまばらな影を落とす物体が上体をゆっくり起こしていた。


「そういやマリーのクラスもテイムのカリキュラムだったよな」


 ガシャ髑髏のボタンが赤い眼光を放つのを、みんなでぼんやり眺めた。そんな午後のひとときでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ