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152話 Aクラス

投稿ペースが落ちつつありますが、よろしくお願いします。

「ようこそ、Aクラスへ。歓迎します。……でいいんですよね?」


 アザミさんがスミレさんへ救いを求めるような視線を向ける。


「え? えぇ、そうね。ハナモモさんを我が手中に納めたのは快哉(かいさい)だわ。切り替えていきましょう」


 スミレさん、まだ納得しきれてない。


「ワタクシがAクラスの委員長ですわよ!! そしてハナモモさん、貴女の姉になる女ですわ!!」


 諦めてなかったの!?


「ですが、貴女が望むなら、妹になって差し上げてもよろしくてよ!! オホホホホ!!」


 クラスがざわついた。


「ま、まさかスミレ様が妹に名乗りを上げるだと!?」

「公爵令嬢の……お姉さま? 馬鹿な!! 時代が動くというのか!?」

「スミレ様!! お気を確かに!! いくらハナモモさんがエロ可愛いからといって、一足飛びに姉妹の契りなど!!」


 ……いや、お前ら全員だから!! 気を確かにしなくちゃならないの、お前らもだから!!


「ですが、勝負でスミレ様に勝ったのも事実です。ハナモモ様を否定する事は、あの試合を否定されるも同義」

「アザミさんの言う通りですわ。スミレ様が戦いの中でこの人はと心に決めたお方です。祝福こそすれ否定する道理は無いでしょう」


 アザミさんとアサガオさんが(なだ)める。余計な事を。

 あ、二人して「言ってやったぜ」みたいに俺とスミレさんに目配せしてきた。


「確かに、あの剣技はAクラスの誰もが及ばないな!!」

「えぇ、それにスミレ様がお認めになった方ですもの。私たちに意義を唱えられましょうか」

「すると、ハナモモさんは実質……。」


「「「俺たちのお姉様か!?」」」


 何でそうなるの!?


「いや、皆さん、落ち着いて……。」


「「「ハーナモモ!! ハーナモモ!!」」」


「だから、私はそのような大層な者じゃなく……。」


「「「ハーナモモ!! ハーナモモ!!」」」


「……。」


「「「ハーナモモ!! ハーナモモ!!」」」


「ダーッ!!」


 机に登り腕を振り上げるバカが居た。

 俺の事だ。




 一しきり騒いだ後だ。


「後でお時間を頂いてもよろしいかしら?」


 スミレさんが耳打ちしてきた。

 自信に満ち堂々とした彼女がね。聞かれたくない話しか。

 これクエストに関係が無いとも言えないよな。


「はい、放課後でなければ大丈夫です」

「その時間は何かあるのかしら?」


 どうやら「後で」とは放課後の事らしい。


「Bクラス担任の研究室で講義と、研究のお手伝いの約束があるんです」

「貴女から申し出たの?」

「そうですが」


「そう」とスミレさんは思案する仕草をした。


「貴女が必要でしている事なら、邪魔はできないわ。でしたら早めにしてしまいましょう」

「早めに、ですか?」


 控え目に聞く。

 俺の正体を知っている公爵令嬢。目的までは知られて無いが、そこに何かあると勘付いたか。


「えぇ。ささやかではあるけれど、貴女の歓迎会をしますわよ――SSランク冒険者のサツキ様」


 決定事項だった。




 指定されたのは空きクラスだった。

 念のためノックする。入室を促す返事はアサガオさんの声だ。


 開けると、クラス全員の歓声と歓迎のクラッカー――なんて物は無かった。


 汎用講義室。備え付けの席が無人のまま墓石のように並んでる。

 窓には厚手のレースカーテンが敷かれ、室内は薄暗い光で、三人の影を濃くしていた。

 スミレさん、アザミさん、アサガオさんの三人だけ。

 他のクラスメートは居ない。

 別にそれだけならいいけど、何かこう、三人から違和感を覚える。

 普通の制服姿なのに、何かが違う。


「ようこそおいで下さいました。サツキ様」


 スミレさんが礼をする。ってちょっと待てや!!


「勝手ながら二人には素性を話させて頂いたわ。女生徒に姿を偽った目的は存じないけれど、何かと支援はできると思うの」

「バラした? スミレ様から?」


 義理は通す人かと思ったけど、買い被りだったかな。


「えぇ、彼女たちは志しを同じにする同士のようなものよ。決してサツキ様に損害は与えないと保証するわ」

「保証されてもねぇ」


 第三者に流布した時点で、スミレさんの言う保証も信頼も無いんだよ。


「訝しむのも分かるわ。ワタクシたちは何としてでもサツキ様に任務を成し遂げて頂きたいのよ」

「俺の報酬か? いや違う。さっき試合の時に何か言ってたアレ?」

「新たな国家を興すその時は、是非に私たちを御身のお側に」


 決意めいたものを含み、公爵令嬢は静かに言った。何でそんな新興国に興味深々なの?


「貴女のお立場で国を捨てる? 切迫した割にはのんびりしてるが。目的と手段が違うってことか」


 それだって、彼女なら亡命先に事欠かないだろう。


「今はまだ保健程度に思っていますわ。いざとなったらワタクシがサツキ様お連れして独立政権を樹立しますわよ?」


 うわー、俺巻き込まれるの確定じゃん。


「女帝にでもなる気かよ」


 もしくは影の支配者か。


「いいですわね。但し、サツキ様だけの夜の女帝……コホン、いえ、お気になさらず」


 うっかり言った言葉に、耳を赤くしてる。意外と可愛い人かもな。

 アザミさんもアサガオさんも視線を逸らした。

 うん。聞かなかった事に。


「では、前置きはこのくらいにして、早速始めますわよ」

「始める?」


 今の話は前置きかよ。


「歓迎会にお招きしたと言ったはずよ」

「そのままの意味だったの!?」


 三人がゆっくりと近づいてきた。皆、頬が含羞(がんしゅう)に染まる。

 歓迎会。その意味とは――?


 すっとスカートを摘み上げる。

 膝のちょっと上まで。

 あぁ、大気にさらされる、


 タイツ


 あ、最初の違和感これだわ。全員履いてる。そっかー。履いてるわこれ。


「いやいやいや!! なに顕現させちゃってんだよ!? ていうかわざわざ履いてきたの!? エスプリの効いた歓迎会!?」


 流石の公爵令嬢もこれには目を伏せながら口元をキュッと結んでるよ。


「昨日、あれほど仰ってらしたのに……。」

「何を!?」


「聖騎士様には及びませんが……。」


 右からアサガオさんが囁くように。


「試合の後からずっと温めて参りました」


 左からアザミさんが呟くように。


 さらに裾が上へと上がった。薄暗い部屋で微かに差し込む光に独特の光沢が露わになる。

 やばい。

 ごくりと生唾を飲み込んでしまった。子供相手に何やってんだ。


「歳上をからかうものじゃないよ」


 思わず最低な返しをした。拒否する根拠じゃない。そして聖堂の話は聞かれてた。

 今更弁解の余地など。


「確かにワタクシの考え違いですわね」


 お? 意外と通ったか?


 スミレさんは手近な机の上に腰掛け、はしたなくも無造作に靴を脱いだ。

 先端が向けられる。


「サツキ様はこちらの方が好みでしたね」


 目眩がした。

 タイツ越し透ける少女のつま先を、持ち主は弄ぶように左右にゆっくりと振った。

 その隣で、空いた机にうぶせるようにアザミさんが背を向ける。振り子のように振った足から靴が脱げ、タイツ越しに足の裏が透けて見える。


「こうですか? わかりません」


 いや今のはかなり来た。グッと来た。

 そして、スミレさんを挟んだ反対側。

 ブーツを丁寧に脱いだアサガオさんが机によじ登り、しなだれるように座り込んだ。

 胡蝶(こちょう)ような人だと思った。

 本人は気づいてないのか、かなり根本まで捲れてる。

 流石に、これは直視に耐えんな。


「もっと上まであげましょうか?」


 あ、これ分かっててやってるヤツだ。


 三つ並んだ影法師は、魑魅(すだま)のように、(いら)うように足を上げ、揺らし、俺をさそった。

 なんて歓迎会だよ。くそっ。

 これでさっきの話を聞いて無かったら傾いたやもしれぬわ。


 逆に言えばさ、

 そのせいで警戒するんだよ。冒険者って職業は。


 結果、澪標(みおつくし)のように並んだ足の間を行ったり来たり彷徨った。ごめん。

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