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151話 蛇腹剣

文章がどんどん緩くなります。

 最終試合だ。

 互いに二勝二敗。

 因みに第四試合の決まり手は「撃ち倒し」だった。


 武台の中央でスミレさんと対峙する。

 彼女が手にするのは、美しい装飾の長剣だ。文化財でも持ち出したか。


「お構いなく。得意な武器で」


 あ、こちらの意図、読まれてるな。

 スキルは使わない、というより使えない。学生相手だ。ジョブも封印。

 純粋に己が培った剣技でいかせて頂く。それだって手加減は必要だ。


「私としては、勝つ理由も負ける理由も無いのですが……。」

「理由ならいくらでも与えてあげましてよ。例えば――。」


 言いかけたところで、お爺ちゃんが「のこった」と手を縦に振った。

 ちょ、空気読んでよ!!


 合図に押されるようにスミレさんと剣で切り結ぶ。

 間合いの詰めは互角――に見えるよう工夫した。

 こちらの獲物は、


 あ、やべ。咄嗟に蛇腹剣(ガリアンソード)出しちゃった。

 まぁセパレートしなきゃ普通の剣だし、刀身もほぼ同じだからこれで行こう。


「素敵な剣ですわね」

「お手前こそ」

「そうそう、貴方に本気を出させる話でしたわね」

「終わってからになさってくださいます? これでもいっぱいいっぱいです」

「ワタクシはそれでもいいかしら? 『うっかり勝っちゃったり』したら、女子制服が似合うとても可愛らしい男の子がワタクシの妹になるだけですから。あら、年齢的にお姉様かしら?」


 彼女の剣を上へと弾き強引に距離を空ける。


 ああもう!! しくじった!!


「……バレた? いや最初から知られてたって思いたいが」

「あの場所にはワタクシも()りました。とても凛々しいお姿でしたけれど、しがらみの為には女学生になる事も厭わないとは恐れ入ったわ」

「厭うよ!!」


 目的はバレてないにしろ、最初から正体を知られてたのか。

 やばい。耳が熱くなる。え? この人からは男のくせに女学生になり切る変態に見られてたって事?


「あの、この事は……。」

「さぁ、どうかし――ら!!」


 体を回転させ切り込んでくる。

 体重の差を遠心力で埋めてきやがった。

 剣で受ける。いかん体捌きが勝手に反応する。パッシブだった。


「不意打ちにもならないわね、この程度なら!!」


 再び距離を取る。

 相当な使い手だったろう。学生同士ならな。


「私の事を知って尚、このカードを仕組んだんですか?」


 それも二勝二敗の演出付きだ。


「お喋りの暇はなくてよ!!」


 彼女の横殴りの剣が、途中で歪んだ。

 咄嗟に受けようとした俺の剣をぐにゃりとかわす。

 刃先が届く寸前で、俺の剣もぐにゃりと歪む。


 数瞬の後。

 互いの中央でジャラジャラという金属音が耳障りに鳴ったのは、火花を散らした後だった。


「まさか公爵令嬢がな」

「ふふ、これなら本気になってくださいますか?」


 刃先から柄まで鞭状に分裂した剣。彼女も蛇腹剣の使い手だった。


「はいっ」と短く呼吸を吐いて撃ち合う。打ち合うじゃない。

 互いから放たれた蛇腹剣が中央で刃を弾き合う。この子、使いこなしてる。


「何が望みだ?」


 加減に注意を払いながら聞くと「さて」と誤魔化してきた。

 スミレさんが柄を腰だめに構える。縮小した刀身が直線で放たれた。

 緩めた蛇腹で受け止め弾く。そのまましゃーって剣は柄に戻っていった。


「同じ使い手なら見抜かれもしますわね」

「そうでもないさ」

「ワタクシには無理だと?」

「そう思うよ」


 蛇腹を収納し構える。

 腰を低くし右手で軽く柄を握る。

 次に放つまでのこの工程は、一秒にも満たなかっただろう。


 スミレさんの刃が横から(うね)りつつ迫った。

 俺の一撃も放たれた。


 結果。

 彼女の手から蛇腹剣は失われ、武台の外へ落ちた。


「そんな……。」


 渾身の一撃だったろう。

 残念だったな。こちらは剣の術なんだよ。


「今のは……居合?」

「仰せの通りだ」


 蛇腹剣の真骨頂は、変則的な剣技に裏付けされた瞬発にある。


「……凄い……これが本物の」


 さて。勝ったんだし口止めは確約しなくちゃな。

 伸びた剣を納める。

 にしても、このお嬢様。負けるのも織り込み済みだったか。


「凄い!! 凄すぎて言葉もありませんわ!!」


 ぐぐぐっぐいっと詰め寄って来る。

 キラキラした瞳が真下から覗き込んできた。


「近い近い」

「目的でしたわよね? 教えて差し上げましてよ。ワタクシ、貴方が将来治める領地に興味がありましたの。正しくアザレアより独立した自治になるのかしら。国家宣言の折には隣に立ちたいと思ってますのよ? ですから――。」


 爪先立ちになり、正面から顎を上げてきた。

 今度こそかわす間も無かった。

 公爵令嬢の唇で、唇は塞がられていた。

 ああ、ため息ともつかないどよめきが会場を満たす。

 彼女の閉じた瞼が躊躇いがちに開いた時、公爵令嬢は年相応の娘の顔で離れていた。


「ふふ、貴方の隣、今から予約しちゃいます」


 可愛らしい笑顔だな。

 素の彼女なのかも。


「勝者Aクラス。決まり手、夜の三所攻め」


 空気を読まないお爺ちゃんが、下ネタを入れてきた。


「って、俺負けてるの!?」

「お待ちになって!! ワタクシの敗北ですわよ!?」


 両選手に同じ内容で抗議を受け、お爺ちゃん審判は、


「あんー? あんだってぇ?」


 耳が遠くなっていた……。




 壇上に改めて両チームが立つ。


『えー、最後は乙女同士の口付けで勝敗が決したという事で、今大会はAクラスの優勝となりました。健闘されました選手の皆さんに、皆さま盛大な拍手を!!』


 歓声が上がる中――。


「納得がいきませんわ!! ワタクシ達の勝利でしたのに!!」

「ワタクシも納得がいきませんわ!! ワタクシの、その、接吻? が決まり手だなんて」

「にゃ!! 委員長にゃはもっとモフモフしてもいいにゃ!!」

「へへー、ありがたき幸せ!! わしゃわしゃわしゃ」

「にゃにゃ」

「師匠の勇姿……立派でした師匠!!」

「植物怖い植物怖い植物怖い……。」

「女怖い女怖い女怖い……。」

「お姉様!! 私たち勝ちました!! お姉様との愛が認められたんですね!!」

「アカネ君!! 今日の君は千両役者だよ!!」

「ぐぬぅ、たかだか公爵家がサツキの姉さ兄様の唇を奪うとは」

「お待ちくださいアマチャ先輩。まだ下の口では無いだけワンチャンあるというもの」


 気づけば部外者も壇上に上がっていた。


「スミレ様に対して下品な物言い。看過できません。私の根っこが火を吹きますよ?」

「私はまだ真なる水遁の術を見せてはいない……。」

「絶対に披露してはいけませんわよ!!」


 公爵令嬢すら頬を染める真・水遁の術。果たして如何程のものか。


「フフフ、溺れてしまっても知りませんよ?」


 アザミさんが不敵に笑う。


「ご相伴に預かりたいです!!」


 マリーが脳天気に笑う。

 飲み干す気でいやがる。

 もう滅茶苦茶でごじゃりまするがな(花菱アチャコ師匠風に)

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